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捕らわれの騎士

 暗い、目を覚ましたシェルスが最初に抱いた印象


一滴、また一滴と水が落ちる音がする。その音でだんだんと意識が覚醒する。


ぼんやりと明かりが見える。それは蝋燭の火。


チャラ……と手には手錠が掛けられていた。足にも枷が掛けられている。


視力のピントが戻ってくる、目の前には格子が見えた。


(ここは……牢屋……?)


人の足音がする。だんだんと音は近づいてくる。


(私……どうしたんだっけ……)


思いだせない、何がどうなって……こんな所に……


牢屋の中には拷問器具が散乱し、シェルスは自分の白い服に血が付いている事に気が付く。


(なんで……こんな……ここは一体……)


足音が牢屋の前で止まる。そこに立っていたのは……


「なっ……ぁっ……」


体感温度が一気に下がる。目の前の人物に震えが止まらない


「さて、今日も始めるか。シェルス姫」


目の前に居たのは、バラス島を管轄とするレインセルの高官、ブラグ。


「な、なんで……貴方は……」


死んだはず……と、シェルスは震えが止まらない。牢屋へと入ってくるブラグとその部下。


「やめ……止めて……!」


部下が手錠を天井のフックに引っかけ、シェルスを宙刷りにする。


「さて、今日は……これにしようか」


ブラグが拷問器具を手に取る。いつの間にか熱せられた鉄。赤く変色した鉄をシェルスの上着を捲りあげ、腹に押し当てる


「や、やめ……止めて!」






 シェルスは白いベットの上で呻きながら起き上がる。


「はっ……はぁ……ゆ、夢……?」


久しぶりに見る悪夢だった。バラス島から助け出されてから数か月、見続けた悪夢。


「はぁ……はぁ……」


汗が凄い。シェルスは白い寝間着に身を包んでいた。


白いベット、窓からは静かな風が吹き込み、カーテンが揺れている。


太陽の光が窓から差し込み、鳥のさえずりや冷たい空気から朝だと気づかされる


「ここは……」


シェルスは部屋の中を観察する。一見豪華で小奇麗な部屋。


なぜ自分はここにいるのか。覚醒しきっていない頭を働かせて思いだす。


「そうだ……ラングスで……グリス隊長に……くっ……」


かすかに喉に痛みが走る。だが問題はない。


「ラスティナ……ステア……っ!」


血まみれになっている姿を思い出し、ベットから立ち上がる。しかし


「っ……手錠……?」


ベットの柵と自分の手が手錠で繋がれている。壊そうと引っ張るが、寝起きのせいか力が入らない。


手錠には小さな文字が描いてある。その文字が薄く光っている


「魔術……ただの手錠じゃない……」


シェルスは歯ぎしりしながら、鎖を断ち切れる物がないか探す。しかしそんなものはあるはずも無く……


仕方なくベットに腰掛ける。


「ラスティナ……ステア……」


二人はどうなったのか、無事なのか、とシェルスは顔を俯きながら嘆く



コンコン……



部屋のドアがノックされる。そから一拍遅れてドアが開け放たれた。


入ってきたのは、スコルアの聖女達だった。


「あ、貴方達……一体……何が……何が起きてるの?!」


シェルスは見覚えのある聖女達へ質問する。


だが聖女達は答えない。淡々と朝食の準備をしている。シェルスの前にテーブルを置き、その上に朝食を並べていく。


「まって……まって! 答えて! これはなに?!」


シェルスは手錠を翳して怒鳴る。聖女の一人が口を開き……


「シェルス様、貴方は王家へと再び……ご帰還なさいました」


「何言ってるの?! 私は騎士よ! これを外して……!」


シェルスは語る聖女に怒鳴りつけながら、手錠を引っ張り音を立てる。


「騎士などと……シェルス様、貴方は姫です。さあ、朝食をお召し上がりください」


シェルスは机を蹴りあげ、朝食を床へとぶちまける。


「ふざけないで! ラスティナとステアはどうしたの?! あの二人に会わせて!」


聖女達は床へ零れた朝食を捨て、新たな朝食を準備しようとしている。


「シェルス様……少し、冷静になられてください」


聖女は念ずる。その瞬間、シェルスの体から力が抜けベットに倒れる。


「なっ……く……」


手錠が光る。この手錠の魔術に体が支配されているとシェルスは気づくが……


「冷静に……なられてください、シェルス様」


聖女はシェルスに覆いかぶさるようにし……そっとシェルスの胸元に紙を忍ばせた。


「では……小鳥に朝食が取られる前に片づけましょう、小鳥は目ざといですからね。また新しい朝食をご用意するまで……お待ちを」


それだけ言って聖女達は、床の朝食をかたずけ部屋から出て行く。


(小鳥……? 何を……)


シェルスは明らかに聖女の言ってる事に不審を抱き、胸元に入れられた紙を取ろうとするが……


(めざとい……小鳥……まさか……)


監視されている。シェルスは聖女の残した言葉から、そう思い、窓の外を見つめる。


確かに小鳥が数匹、シェルスの窓を覗くように、違う建物からこちらを見ている。


(あれは……マシル大聖堂……ということは……ここはスコルア……?)


シェルスはベットに横になる振りをしつつ、窓に背中を向けるようにし、胸元の紙を取り広げる



【あの二人は無事です。今スコルアは連隊騎士団15連隊、そのうち9隊がスコルアを制圧しています。今のところ大きな被害は出ていません。貴方を人質にされていると知った幹部ら、ナハト様を含めた高官が、それぞれ監視を付けられ監禁されています。どうか早まった行為だけはお止めください、望みはあります】


シェルスはその紙を丸め、口に入れて飲みこむ。


(15連隊の内……9隊が……一体なんで……それにナハト様も監禁されている……あの人がそんなに大人しく……)


コンコン、と再びノックされる。そして新たな朝食を聖女達が運び込む。


「シェルス様、まずは……自分のお体を労りください」


シェルスは頷き……紙を渡してきた聖女へ目配せする。


(私は負けない……)


シェルスは一口、朝食を口にした時、自分がどれだけ飢え、乾いていたのかを知った。








 ラスティナとステア、そしてクラリスの3人は同じ部屋に監禁されていた。


3人ともベットに手錠で繋がれ、シェルスと同じような白い寝間着を着せられている。


ラスティナとステアは、ガリス隊に酷く痛めつけられたが、聖女達によって治療されていた。


「なあ……どうなってんだ……ここスコルアか?」


ステアは呟く……ラスティナは、窓の外から見える王宮を見つめながら……


「たぶん……スコルアだと思う……」


「あー……なんで私まで……魔術は使えんみたいだなー」


クラリスは手錠を見つめ、それが魔封じだと気づくが……


「こんな高度な魔封じは初めてみるぞー……よほど腕の立つ奴が……」


それを聞いて、ラスティナは一人の女性を思い浮かべるが……


「ないない……ナハト様が……そんな……」


「そういえば……師匠は……? あの人だったら激怒して今頃……」


スコルアは破壊されている……と思う二人だったが……


「あー、甘い物が足りん……さっき食べた朝食はなかなか旨かったが……甘いものが足りん~」


ベットに寝転がって子供のようにジタバタするクラリス。


ラスティナはその様子を見て、マリスを思い出すが……


「マリスは……無事なの……?」


窓から見える王宮を見つめながら思う。恐らく自分達が居るのはマシル大聖堂だとラスティナは思うが……


「こんなもの……魔術が使えれば……」


「いや、針金一本あれば……」


ステアの言葉にラスティナとクラリスは二人同時に……ステアの顔を見つめる


「な、なんだよ……」


「針金……針金ね……! クラリスさん! 探して……針金……」


「わ、わかった……え、えっと……私みえないんだけど……」


二人はわさわさと手錠で動ける範囲を探す。


元々盗賊だったステアは、手錠の鍵を外すなど朝飯前だったが……


 


(やべえ……針金あっても……これで外せなかったら……どうしよ……)




「お、なんか今チクっとしたぞ」


クラリスが手探りで、ベットの下からピンのような針を探し出した。

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