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陰謀

 魂の専門家たる魔術師、クラリス・セイリアは、目が見えていないというのにシェルスへ椅子を勧め、紅茶を煎れる。シェルスが騎士だと聞いても他の魔術師とは違い、顔色一つ変えようとはしない。


「自分の部屋なら紅茶くらい煎れれるんだー。それでー? なんのようだって?」


シェルスは受け取った紅茶を飲みながら、今日訪ねた理由を話し始めた。英雄ナハトを封じ込めた剣、そこに宿る聖女の魂の事を。


「なるほどー、ところで……シェルス殿……一つ気になるんだが」


「は、はぃ、なんでしょう……」


「甘い匂いがする……何か持ってるな?」


クンクンと鼻を鳴らしながらシェルスへと近づくクラリス。シェルスは思いだし、荷物からジャムを出すとクラリスの手へ握らせた。


「御婆様からの贈り物です、ぜひ届けてほしいと……」


クラリスはジャムを受け取ると嬉しそうに瓶を撫でまわす。


「おおー、ばあやのジャムは美味しいんだ。食べるか? この甘さは虜になるぞー」


瓶の蓋を開けようとするクラリス……だが硬くて開かない。


「ちょ……開けてくれ、シェルス殿……」


ゼエゼエ言いながら瓶をシェルスに渡す……シェルスは簡単に蓋を開け……


「おお、素晴らしいな、シェルス殿……ん? シェルス? どっかで聞いたような……」


クラリスは頭を傾げながら、ジャムを指につけて口に運ぶ。


「うお! 今日のジャムは一段と美味しいー! ほらほら、シェルス殿もどうだ?」


グイ……とシェルスの頬に瓶を押し付けるクラリス……シェルスは瓶を受け取り、一口ジャムを舐めるが……


(あっま……! なにこれ……凄い……甘すぎ……)


「いや~、ばあやのジャムは甘くて最高なんだ。どうだ? うまいだろ?」


「は、はぃ……とても……」


クラリスは気分を良くしたのか、棚からパンを取り出してジャムを塗りたくり……


「シェルス殿も食べるかー?」


「あ、いえ……すみません、食事は済ましてきてしまって……」


そうかー、とどこか寂し気にジャムを塗るクラリス。そのまま頬張り……


「ほれで? なんだっけ?」


ジャムを塗りたくったパンを食べながらクラリスはシェルスへと尋ねる


「えっと、それでですね……守護霊に捕らえられてる聖女の魂を取り返したいん……」


「あー!」


いきなり大声を上げるクラリス、パンを全て食べ終え……


「ゴク……ん……も、もしかして……シェルスって、姫様……?!」


「え?! あ、いえ、今は騎士でして……」


フラフラとクラリスはシェルスのほうへ手を伸ばしながら近づくクラリス。シェルスは目の見えていないクラリスの手を取り……


「ああ……姫様……姫様ぁ……」


椅子に座るシェルスの前に膝をついて、お腹に抱き付くクラリス……そのままオデコを擦り付けながら……


「ずっと、ずっと会いたかったんですぅ……シンシアに言っても取り次いでくれないし……お前に見せたら姫がショック死するとか言って……貴方がバラス島から助け出された日から……ずっとぉ……」


「そ、そうですか……ぁの……」


シェルスは、なんとなくクラリスの頭を慰めるように撫でていた……そしてナハトの言っていた事を思い出す


(話の通じない……っていうのは、こういうことか……会話が出来ない……)


シェルスは自分の腹に顔を押し付けながら抱き付いている魔術師の肩を掴んで剥がし……


「ぁ、あの……それでですね……可能なんでしょうか……」


「え? なんだっけ……」


やっぱり……と思いつつも、シェルスは再度説明する。英雄ナハトにとらわれた聖女の魂を取り返せるのかと。


「出来ると思うけど……それで……剣はどこに?」


「実は先に……ナハトの塔の前に居た方に鑑定をお願いしてしまって……」


クラリスは、バッっと立ち上がり通信魔術を使用する


「おーい、シェルス殿が持ってきた剣、持ってきてー。あ? できないってなんだよ、いいから持ってこいよ。お前には関係ない? あるだろ! 私にシェルス殿が……って、切りやがった……あの爺……」


ブツブツいいながら……クラリスは部屋の窓を開け放つ。勢いよく風が部屋へと入り、部屋のホコリや本のページが舞う中……窓に足を掛けて飛び降りようとしている。


「え?! ちょ、ちょっと何して……」


「もういい、あんな爺……塔ごと吹き飛ばして……」


「いや、あの……いいですから! とりあえず締めましょう!」


シェルスがクラリスを抑えつつ窓を閉める。クラリスはシェルスに止められ、仕方ないと再びパンにジャムを塗りたくる。


「くそう、あの爺……偉そうにしやがって……シンシアもシンシアだ……あんな事言うから……」


言いながらパンを噛みしめるクラリス。


「あの……あんな事って……ナハト様……シンシア様は何を……」


「ん? こんな古臭い街潰して皆スコルアに住めばいいって……」



シェルスは頭を抱えた。







 その頃、ラスティナとステアは魔術師向けの商店で買い物をしていた。すでに5軒ほど回っている


「シェルス様……遅いねー……通信まだかな……」


「いや……どう考えてもお前の店回るペースが早え……」


ステアはゼエゼエいいながら荷物を持っていた。ラスティナはステア用にと様々な魔術師の道具を買いそろえて持たせていた。


「大体……なんだよ、こんな人形とか居るのかよ……」


紙袋の中に入っている女神の像をあしらった物が一番重かった。ステアは店の中のベンチに座りこんで、紙袋を眺める


「大切なのよ、それ。修行中の魔術師って一番狙われやすいんだから……色々と……ぁ、あれも良いわね、買っとく?」


ラスティナが指刺すのは鎖帷子が入ったローブ……


「いらねえ……」


ステアが嘆いていると、魔術師風の男……10人ほどが二人を囲むように店の中に入ってくる。


「え、な、なんですか?」


ラスティナが怯えるように、ステアとくっつき……ステアも目を鋭くして男達を冷静に観察する。


(武器は持ってねえ……でも魔術師……なんだこいつら……)



「付いてきてもらいたい。我々の指示に従わない場合、シェルス・ロイスハートの命は保証しない」


「なっ、てめえらまさか……」


飛びかかろうとするステアの目の前に男の手の平が翳され、魔術が展開する。


「逆らうならこの場で殺す。素直に付いて来れば何もしない。」


ラスティナは一瞬で展開した魔術を見て、相当の手練れだと感じる。しかしラスティナならば魔術師10人など問題ではないが……


(ステアも居る……シェルス様も捕まってるって……一体何が……)


二人は男達に囲まれるように歩き、クラリスの塔の地下へと連れていかれる。


その暗い地下牢へと、二人は投獄された。


「おい! お前ら一体何のつもりだ!」


ステアは格子を掴んで叫ぶが、男達は静かに言い放つ。




「スコルアが落ちるまで大人しくしていろ。お前達3人は人質だ」




それを聞いた瞬間、ラスティナは太陽と同調を試みる……が……


「無駄だ、この塔全体が特別な結界になっている。魔術は使えない。大人しくしていろ」


男達はそのまま地下に二人を残して去る。


ステアとラスティナの二人は、男達から聞いた話に耳を疑っていた。


「おい……スコルアを落とすって……何言ってんだ、あいつら……」


「まさか……あの集団……でも1000人そこそこの魔術師くらいでスコルアを落とせるはずが……」


ラスティナは、シャル・マーゼから農村に向かう途中に見た集団を思い出しながら……




二人は歯ぎしりする。一体何がどうなっているのか。


暗い地下の中、蝋燭の光のみが二人を照らしていた。

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