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ラングスへ

 ラングスへの道のりの途中、休息に立ち寄った農村で剣を狙われたシェルス達は朝を迎える。


あれから襲撃者は来なかった。シェルスは、昨日見たあの集団と何か関係があるのかと思いつつ、ラングスへと向かう準備をする。


宿屋の主人である老婆に挨拶して旅路へと出る。馬車はそのままシャル・マーゼへと騎手と共に帰ってもらい、シェルス達は農村から離れた場所でクエレブレを顕現させた。


空間からガラスを割って出てくるように顕現するクエレブレ。


『久しいな、主よ……今日は何処に行きたいのだ』


シェルスはラングスに向かってほしいと言うが……ウォーグルも知らなかったクエレブレに伝えても分かるはずは無く……


『ラングスとな……意味深な名前だな。それで? どの方角だ』


意味深……という言葉にシェルス達は首を傾げるも、クエレブレの背に乗りつつ方向を伝えた。


『北だな。では行くぞ。振り落とされるなよ』


そのままクエレブレは轟音と共に飛び立つ。ラスティナが簡易的な結界を張り、風で吹き飛ばされぬようにした。その背に乗りながら、シェルスはクエレブレへと話かける。


「先程意味深と申されましたが……ラングスという名前に憶えでもあるのですか?」


クエレブレは飛行しながら、シェルスの問いに答える


『ラングスというのは……とある魔術師の名だ。遥……昔のな。ナハトに我が捕らえられたのは知っておるのだろう。囮に使うくらいだしな』


げっ、とシェルスは狩祭でナハトをおびき寄せた時の事を思い出す。触媒の中で眠っているのではないのかと思いつつ


「す、すみません……」


『いや、別に気にしてないが……その俺を捕らえた時にナハトと共に旅をしていた男の名だ。確かな……だがその男は処刑された。ナハトと共に旅をしていたというだけでな』


その話を聞いてシェルス達は顔を俯かせるが……


『おい、俺の背中の上でそんな顔するな。昔の話だ。別に俺はナハトやラングスを恨んだりしとらん、ナハトの奴は俺の事を追いかけ回したくなる気も分かるが……』


「なんで……」


シェルスはクエレブレに何で追いかけられるのかと聞くが……


『いや……逃げる時にナハトを騙してやったんだが……その時に、居もしない妹が不治の病に侵され苦しんでいると大嘘をついてな……ナハトは涙を流して俺を解放したんだが……その噓がバレたとたんに凄い形相で襲ってきてな……怖くなった俺は海に潜ったのよ……』


「えっ、体が大きくなりすぎてって話は……」


『ああ、そういう話もあったな。まあ、確かに海のほうが居心地は良かったぞ。あまりデカいと飛びにくいしな』


今も十分巨大な竜は、そのまま空を飛び続ける。普通のドラゴンならばラングスまで2日以上かかるが……


「あ、あそこです、あの山の向こうにラングスがあります」


ラスティナが指を指す方向には、二つの山の間を跨ぐように作られた道があり、その道を行った先にラングスという街がある。


「あの道の手前までで大丈夫です、クエレブレさん」


ラスティナがそういうと、クエレブレは地上へと降り3人を降ろす。


『主よ、いらん世話かもしれんが……そのナハトの剣だけは使うなよ。出来れば捨ててくれと言いたい所だが……』


「はい、私も……ラングスの魔術師達に預けようと思ってますので……」


その言葉に、ステアは意外そうな顔をするが……


『そうか、ならいい。じゃあな』


それだけいうとクエレブレは触媒へと戻る。ラスティナが触媒を懐に仕舞い……


「いきましょうか、この道を渡ればすぐにラングスの正門が見えてきます」


3人は歩き始める。ラングスに向かって……





「見えてきましたね、私も来るのは初めてですが……結構大きな街ですね……」


ラスティナが嘆くようにいいながら、正門を前にして見上げる、


正門も巨大だが、なにより街に聳え立つ3つの塔に目が行く。


3人は塔を見上げながらも正門の門番へと話しかけた。


「私はスコルアの騎士、シェルス・ロイスハートです、この街には訪ねたい方が……」


門番も魔術師だったが、固く口を噤んだまま頷くのみだった


「え、えっと……通っても……よろしいでしょうか……」


そう尋ねると、門番は再び頷く。3人は顔を見合わせながら正門を通るとスコルアほどでは無いが、大きな魔術師の街に入りしばらく立ち尽くしていた。


「すげえ……でっけえ。なあ、ラスティナ……あの塔なにか知ってるか?」


ステアが再び3つの塔を眺めつつラスティナへと聞いた。


「えっと……確か有名な魔術師の英雄を表してるとか……真ん中は言わずとしれたナハトで……右がフィーリス……左がクラリスね」


クラリス……と聞いてシェルスは、農村の宿屋の主人、その老婆の孫の名前もクラリスだったと思いだすが……


「きっと……英雄の名前を使うほど期待されてるのね、お孫さん……」


「そうですね……本来はナハト様がこの街を収めなければならないようですが……今は別の方が収めているようです。ナハト様はなんか……」


「口を滑らせて怒られたとか言ってたわね……確か……」


以前ナハトから聞かされた話を思い出したシェルス、そしてこの街にすむ魔術師は頭が固いとも聞いていた。


「それで……まずは何処いきゃいいんだ? 婆さんのお使いが先か?」


シェルスは剣の事もあるが、先にそちらを優先することにした。お世話になった老婆に少しでもお礼をするためと……


「でも……この街には相当の魔術師が居ますよ。どうやって探しますか……?」


「そうね……やっぱり、この街を収めてる人に会いに……魂の専門家の魔術師の事も聞きたいし……」


ならば真ん中の塔へと向かうべきだと、ラスティナの言葉に従って3人は歩きだした。



塔へと向かう道にも民家や商店が並んでいた。ほとんどが魔術師を客層に捕らえた店だった。当たり前だが。


「ラスティナ、何か見たい物があったら見てきても……」


ソワソワするラスティナを見て、シェルスは言うが……ラスティナはぶんぶん頭を振りながら……


「そ、そんな、遊びに……来たわけでは……」


通り過ぎる店に目を奪われつつ言うラスティナ。そんな様子にシェルスは思わず


「ほら、ステアと二人で見てきて。ラスティナ、お婆さんのジャム、私が届けるから……」


と、ラスティナからジャムを受け取るシェルス。


「す、すみません……シェルス様……ちら……っと……見てくるだけですので……」


「いいから、ゆっくり見てきて。私の用事が終わったら通信するわ」


そのままシェルスは二人と別れて真ん中の塔、ナハトの名を冠した建物へと向かう。




入口には老人の魔術師が立っていた。どこかゼシルに似ていると思いつつ……シェルスは話しかける


「すみません、私はスコルアの騎士ですが……」


老人の魔術師はあからさまに嫌そうな顔をし……


「騎士がなんの用じゃ……」


(うわ……あからさまだなぁ……ウォーレン様が言ってた通りだ……)


ウォーレンの話を聞いていたシェルスは同じ印象を持ちつつも話を続ける


「ここに魂の専門家の魔術師がいらっしゃると聞いて……」


「断る。騎士なんぞに会わせられるわけなかろうが」


ズバっと断られ……シェルスは苦笑いしつつ、剣を鞘ごと老人の前へと掲げる


「この剣には……先日封印した強力な守護霊が宿っています、この鑑定をお願いしたいのですが……」


老人の魔術師は剣を眺めつつ、シェルスの顔を見て……


「お主は……もしや……なるほど……。まあいい……剣はここで預かろう。それと魂の専門家か……会っても無駄だとは思うが……西の塔の最上階におる」


シェルスは何か察したような老人に剣を渡し、お辞儀をして西の塔へと向かった。


老人は剣を手にし、シェルスが去るのを見届けた後、通信魔術を使用する


「例の姫君が来た。剣も預かった。クラリスに閉じ込めろ」







 クラリスと言われる西の塔の入り口に立っている魔術師は、簡単にシェルスを通してくれた。


(なんか印象と違うな……もっと魔術師が居るイメージだったけど……塔の中もそんなに……)


シェルスは塔の中のらせん階段を上りはじめる。壁には書物、または何か怪しげな箱などが詰まっていた。それらを見流しながら最上階へと向かう。


らせん階段をある程度上ると、踊り場のような場所で魔術師がたむろしていた。一人の例外も無く、騎士の格好をしているシェルスを見るなり怪訝な顔をする。ヒソヒソと何か話しながら……


(騎士が嫌われてるっていうのは……昔の名残だけなのかな……スコルアは騎士と魔術師が一緒に住んでるからそこまで犬猿ではないけど……)


そんな事を考えつつ最上階へと辿りつく。最上階は大きな部屋があり、その扉の前に立ちシェルスはノックする。


「どうぞー」


軽い……そんな印象の女性の声がする……シェルスはドアを開け放ち中に入ると……


「クンクン……甘い匂いがする……」


部屋の主が呟く。


様々な魔術の触媒や、研究の為の本。装飾品に魔物の剥製……そんなものでごった返している部屋の奥に、魂の専門家たる魔術師は居た。椅子に座りながら、本を指でなぞっている。

黒髪の長髪に……ローブを来た、見た感じではラスティナと変わらないくらいの年頃


「んー? どうしたー? なんか用じゃないのか?」


「あ、はい……私はシェルス・ロイスハート、スコルアの連隊騎士です。今日お訪ねした理由は……」


「スコルアの騎士? あぁー、私はクラリス・セイリアだ、よろしくー」


初対面、しかもシェルスは騎士だと名乗っているのに軽い反応の魔術師にシェルスは拍子抜けしながら……


クラリス……と名前を聞いて……


「あの、もしかして……ここから南の農村に御婆様が……」


「んー? ああ、ばあやの知り合いかー?」


本を閉じ、シェルスの方を向く魔術師。その目は抉り取ったかのような傷跡があった。


思わずシェルスはその傷を見て固まるが……




「ん? ああ、気にするなー、これは自分で抉ったんだ」




魂の専門家は変わらず軽い口調で答えた

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