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奴隷と拷問

 小さな港街の酒場、ガリス隊の騎士4人が拠点にしている場所である。

夜になると賑やかに港町の人間が飲みに来る酒場、今日も例外なく飲み会が開催されていたが……


その酒場の地下、そこに騎士達は寝泊まりしていた。

そして質素な机の上には酒とツマミ、ガリスは机を挟んで昼間にレコスとシェルスが捕まえた女を取り調べていた。


「飲まねえの?」


ガリスは当たり前の様に酒を煽る。ツマミの干し肉を齧りながら、目の前の女を見ていた。女はシェルスによって手当され肩の傷は綺麗に消えていた。


女はガリスを睨みつけながら、干し肉掴むと頬張る。


「おいおい、そんな慌てて食わなくても……普通の飯食うか? 腹減ってんだろ……おい、モールス、マスターに言って適当に飯作ってもらってきてくれ」


モールスはため息を吐きながらも隊長であるガリスの指示に従い、地下から地上への階段を上る。


「んで? なんで人襲ってたのよ……腹へって人間食うつもりだったのか?」


女は干し肉を平らげ、飲みこむと


「そんなわけ無え……人間なんて食った事も無え……」


シェルスとレコスも、別の机で酒を飲んでいた。騎士4人全員ここに居ていいのか……と思いつつもシェルスは港町の独特の味付けの料理を頬張っていた。


「じゃあなんで襲ったりしたんですか……」


シェルスは魚の塩焼きを食べながら話しかける。それを見た女はヨダレを垂らし……


「ぁ、食べますか? 美味しいですよ」


お裾分け……とシェルスは魚の塩焼きを一匹皿に乗せて、ガリスと女のテーブルに置いた。


「お、おぅ……」


女は塩焼きに手を伸ばすが……ガリスに横取りされる。


「食いたきゃさっさと吐けや、なんで襲ってたんだ?」


「隊長……ご飯中ですよ……吐けとか言わないでください……」


レコスが抗議する、それに対してガリスは


「だったら出てけ! つーか、なんでお前らまでここで飯くってるんだ!」


「だって女の子と隊長一緒にするのは……ねえ?」


うんうん、と頷くシェルス。だんだんガリスの扱いにも慣れてきたと思いながら……


そこに料理を持ったモールスが帰ってくる。魚の腹に野菜やら木の実やらを詰めた丸焼きを女の前に置いた。


「ぁっ、ちょ……モールス、今エサ取り上げて尋問してたのに……っ」


ガリスは文句を言うが……


「腹が減った状態じゃ何も喋らんぞ。あと隊長殿は酒飲みすぎだ、俺が飲む」


と、ガリスの酒を取りあげ、一人だけ壁にもたれかかって酒を飲むモールス。


当の女はガツガツと酒場のマスターの手料理を食べていた


「ったく……おい、レコス……酒……」


「ダメですよ、モールスさんに逆らえませんから、僕ら」


いいながらシェルスと共にテーブルの反対側に酒を置きなおす二人


ぐっ……とガリスは空しく干し肉を齧りながら、目の前の女を見据える


ボサボサの髪、武装はなかなか良い物を持っていたのに、身なりは奴隷のようだった。


奴隷……とガリスはふと……


「お前、マーケルの出か?」


ゴフっと女は喉に料理を詰まらせ、酒を煽る……


「うるせえ、だったら何だ……」


「図星かよ、大方売られた先の主人殺して逃げてきたんだろ。んなことしなくても……レインセルじゃ奴隷は禁止されてて、見つかったら即刻ぶち殺されるってケースもあるくらい……」


「助けてくれなかっただろうが!」


ガン! とテーブルを叩きながら抗議する女……目には涙が浮かび、ガリスを睨んでいる


「騎士なんて信用できるか! だから私は一人で生きてくんだ! あの男殺そうとしたのは……金奪って……そしたら魔物が来て……」


「そのまま逃げようとしたところに……レコスとシェルスが来たってわけか、運が良かったな、おっさん殺してたら……お前の首飛んでたぞ」


ガリスの言葉を聞いて目を見開く女、


「人一人くらい殺して処刑か?! だったら、あの醜い騎士はどうなんだ! 知ってるぞ、5年前バラス島で観衆も皆殺しにしたってな!」


ガリスがピクっと眉間を寄せる。まずい、とシェルスは立ち上がり


「あれはバラス島の高官がレインセルの姫君を拉致して拷問してたからよ、それを娯楽にしてた観衆も奴隷を買うのと同じ罪よ、つまり極刑になる……」


シェルスが女に淡々と説明するのを見て、その場に居た騎士3人は思わずシェルスを見た。当の拉致された姫君が、自分を拉致し娯楽にされていたなどど、良く言えると


「姫君? どうせ甘ったるい扱いされてたんだろ、私がどんな目にあったか聞かせてやりたいぜ……」


「どんな目に会ってたの?」


シェルスは女に向かって言い放つ、女は目を見開き……


「毎日毎日、1か月も殴られ蹴られ……あげくの果てに犯そうとしてきやがるから殺したよ! お前みたいに綺麗な騎士やってるやつには分からないだろうけどな!」


女は机を殴りながら言い放つ、それを聞いたシェルスは薄く笑い……自分の服の裾を上げ、腹を見せる


そこには熱せられた鉄を当てられた跡、刃物で内臓を引きずりだそうと深く切られた跡など……

思わず見る者すべてが目を背けるような傷跡が残っていた。


「な……んだよ、それ……」


おもわず女も呆気にとられ、傷を見る……どうやったらそんな傷が刻まれるのかと


「一年間、拷問を受け続けた。そのあと助けられた、貴方の言う醜い騎士に……ここからは言葉を選びなさい、あの人は私の母親よ。これ以上、母を醜いというなら……ここで私が貴方の首を飛ばすわ」


その言葉にその場に居た全員が冷や汗をかいた、こいつは本気だと。


「お前……お前が……あの……」


「はーい、はいはいはい! ちょい、まて! シェルス、座れ、お前もさっさと飯食って今日は寝ろ」


ガリスが立ち上がり二人の間に入る、そのまま捕らえられた女は食事が喉に通らず、モールスとレコスが交代で見張る中、地下で眠りについた。



翌日、モールスとレコスが周辺の巡回に行き、シェルスとガリスで女の詰問を続けた。


「んで、そろそろ名前教えてくれてもいいんじゃねーか?」


ガリスが今さらと、名前を聞くが……


「無えよ……いつもお前とか呼ばれてたし……生まれてすぐに奴隷だったんだ……」


女は昨日の覇気はどこにいったのか……と擦れた声で言った。


「お前、1か月だけ奴隷してたんじゃねえの?」


「ちげえよ……17年間……色々な所……たらい回しにされて……最後の男殺して……」


シェルスは昨日の自分の発言を悔いた、自分は一年間拷問を受けたが、この女は17年間……と。


「なあ、姫様よ……あんた……よく騎士なんてやってられるな……一年間放置されてたんだろ……レインセルに……」


ガリスはシェルスを横目で見る……ブチ切れて剣を抜かないかと……


「貴方に……それを話す義理は無いわ……」


シェルスは目を背ける。


しばらくして、女は涙を流しながら


「なんでだよ……なんで騎士なんて……私に比べりゃ……あんたの拷問は地獄だろうが……なあ、教えてくれよ……なんで……なんで騎士なんてやってるんだよ……」


シェルスはそっと頭をポリポリ掻く……その仕草を見てガリスはイリーナとソックリだな……と感じていた。


「私だって……騎士を恨んだ時期は無いわけじゃ無かった……でも、助けられた後で知った。レインセルの騎士達も歯を食いしばって耐えてたって……当時の騎士団長から聞いたのよ、レインセルの騎士が……魔術師達が……いつバラス島を吹き飛ばすか気が気じゃなかったって……」


「んなこと信じてんのかよ! お飾りの王家とか言われてたんだろうが!」


「それは私と弟が幼いからよ、王家の責務を押し付けるのが酷だと感じた高官がそう言っただけよ」


落ち着け、とガリスは女をなだめ


「シェルス、ジャマだ、出ていけ」


ガリスに言われ、シェルスはそのまま出て行った。



地上に出たシェルスは複雑な気分だった。自分が受けた地獄の拷問と17年間の奴隷生活




彼女と自分に、どれほどの違いがあるのだろうかと








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