守護霊と守護霊
英雄ナハト、レインセルに住まう者なら誰もが耳にする、おとぎ話のような実話。
魔人に蹂躙されていた世界
この世界を救うために、禁断の力……魔術を行使し平和をもたらした
そして英雄となったナハト。しかし、
魔人によって話された事実、それは魔術を恐れた人間が、英雄ナハトの心臓を刺し貫いた。
最後の最後で人間に裏切られたナハト
漆黒の兜。そしてローブ。その中にも漆黒の鎧を着た英雄。
かつては騎士だったナハトが手を出したのは魔術。
ローブから両手を露にし翳す。そして、その手に2本の長剣を顕現させた
「まずい……」
シェバが呟く。こいつは違う、今まで戦ってきた魔人とも、人間とも、とシェバの脳裏に退け、と声が響く。もう一人の自分が警笛を鳴らしている。
『まさか……そうか……そういうことか……』
何かに気づいた魔人が呟く。リエナは魔人の言葉を聞き問い詰める、あれはなんだと。
『リュネリアだ……ヤツはリュネリアを利用して顕現している。あれは守護霊だ』
「ばかな……リュネリアは今……スコルアよ?! それに……眠ったままよ……!」
『言っただろう、ディアボロスの魂を形作った者がいると、それがナハトだ。やつはその前に顕現していた。神殿はリュネリアの魂そのものと、レコスというあの騎士の体だ。そして魔力の補充……その為のディアボロスだ、やつはディアボロスの魂に形を与え……食っていたのだ……』
「でも守護霊を顕現させるには……魂が……触媒がないと……」
シェルスは魔人に疑問をぶつけるが
『その通りだ、だがナハトの魂は何処にでもあったのだ、このレインセルの……全ての人間が語り継ぐナハトの英雄譚、それ自体に魂が形作られたのだ、あれは我が知っているナハトでは無いが……レインセルが作りあげた偽りの童話の英雄だ。まずいぞ、もしこの考えがその通りなら……』
「ちょ、ちょっと待ってください! じゃあリュネリアが顕現させたってことですか?! 彼女がそんな事出来る訳が……」
『出来る訳がない、と言い切れるか? 事実リュネリアは大した器の持ち主では無かったが聖女だ。しかも、もともと奴はシンシアを育てた老人の弟子なのだろう、我もリュネリアの前で5000もの騎士団の魂に形を与えたのを見せている、それを無意識化に……いや、もしや……リュネリアは……こうなることを分かっていて……』
魔人は思いだす、港町の酒場の地下でシンシアから聞かされた話を、5年前、リュネリアから通信魔術が入ったという、あの話を。
『リュネリアめ……すでにあの時……ナハトを顕現させていたのか……』
魔人の言う、あの時とはイリーナに胸を刺し貫かれる寸前、魔人は躱そうとしたがリュネリアは動かなかった時。涙を流しながらイリーナの剣を受けた時。抵抗できるはずが無い、魔人はずっと疑問だった。なぜあの時リュネリアを動かせなかったのかと。すでにあの時、リュネリアの中にナハトは顕現していた。
『別世界に旅立つ……というのは……自分の魂をナハトに食わせたな……我に魔術を使用する気配が無かったのも……ナハトの隠蔽の魔術の影響か……っ』
シェルス達は英雄ナハトとシェバが戦う様子を伺っている、完全にシェバが押されている。
「まずい……どうすれば……」
『あれはレインセルでの童話、そして顕現させたリュネリアの願いで動いている。リュネリアが願った事、それは一つしかあるまい』
それは即ち、姫の救済。シェルスを守るという事
「まって……待って! そんな……そんな……それならなんで……!」
リュネリアが願いを込めて顕現させた守護霊が、今自分の父を殺そうとしている。なぜだと、シェルスは問う。ほかでも無い、今は無きリュネリアの魂に
『そうか……リュネリアは……』
「あの一年間ね……だから自分も食わせた……」
リエナが呟いた事でシェルスも気づく。あの一年間、レインセルが自分を見捨てると決定を下し放置した一年間。
つまり、あの顕現した守護霊のナハトに課せられた願い
「レインセル、全ての人間への……贖罪……自分も含めた人間の……」
それを聞いてシェルスは泣きながら抗議する
「そんな……あのリュネリアが……そんな事願うわけ……!」
願うわけない、とシェルスは信じる、が
『リュネリアは心底恨んでいたんだろう、育ての親として姫と過ごしてきた日々を否定されたのだ。他ならぬレインセルに……』
シェルスは聞きたくない、と耳を塞ぐ。
そして後悔した
さっさと死んでいればよかったと
あの拷問を無駄に絶えず、自決を選んでいれば、こうはならなかったかもしれない
リュネリアに、ここまで悲しい事をさせずに済んだかもしれない
シェルスが泣き崩れるのを、ただ見ていた。誰も慰める言葉など持っていない
だが、守護霊として顕現したナハトはシェバを追いつめていく。
「不味いぞ、ここで話してても拉致があかん、行くぞ!」
ガリスが全騎士に号令をかける、しかし、ナハトはシェバから飛びのき離れる
そして手に持っていた剣を地面に突き刺し、ナハトの前方の空間に亀裂が走る
「まさか……!」
『守護霊が……守護霊の召喚だと……?!』
魔人とリエナは驚愕する、今まさに現れようとしている守護霊、それはまさに
「ディアボロス……!」
リエナは言い放つと、騎士達は警戒する、そして震える者も居た。当然だった、ディアボロスはシェバが一年かけて討伐した魔人、それが英雄の守護霊の器で顕現される。
「まずい……全員退け! 離脱しろ!」
イリーナが消耗したシェバに肩を貸しながら叫ぶ。そのまま離脱しようとするが……次の瞬間、ディアボロスが、空間の亀裂から巨大な手を突き出す。そして這い出てくる
巨大な角を山羊のように生やし、全身赤い皮膚で覆われた魔人、その手には巨大な斧が握られていた
「っく……グラスパ! 私の魔力を全て吸い出しても構わない! ここにいる全員スコルアへ移転させなさい!」
リエナは暗唱の宝石へと要請する、しかし
『バカな! そんな事出来るわけがないだろう! 貴様……いや、たとえラスティナの魔力を全て使ったとしても、ここにいる全員など……』
そんな魔人と、リエナのやり取りはシェルスには聞こえなかった。ただ今思っているのはリュネリアの事だけだ。
(リュネリア……貴方は……なんで……そこまで……そこまで恨んでたの? レインセルの人達を……私の為に……? なんで……なんで……)
「嫌……嫌……嫌よ!」
シェルスは願う、自らの守護霊、クエレブレへ。
そして顕現する。巨大な竜が、勢いよく空へと舞い上がりながら空間を突き破る。
『ハハハ! なるほどなるほど! いいぞ! 主よ! 付き合うぞ!』
その守護霊の言葉にリエナは、まさか、と思う。
「ま、まちなさい! シェルス! 貴方もしかして……」
「私が……時間を稼ぎます……今の話が本当なら……私には……」
責任がある、とシェルスは覚悟を決める
それと同時に、太陽と同調するラスティナが自らの守護霊を、心臓に刻印された守護霊の刺青を口から吐き出す。
「私も付き合います。シェルス様」
同時に、この世が崩壊するのではないかという程の地鳴りがする。
空中に亀裂が入る、守護霊の召喚の前触れ
リエナは歯を食いしばりながら、自分の弟子、ラスティナの守護霊の顕現を全騎士へと通達する
『騎士全員! 退きなさい! 踏みつぶされるわよ!』
リエナの通信魔術により、騎士達が下がる、それと同時に空間を突き破り、顕現した。
ディアボロスなど話にならないほど巨大な守護霊
ラスティナは言い放つ、暴走しているわけでは無い。
ここで、この場所で、果たすのだ、今この時に。
「さあ、復讐を。私達姉妹の……」
神話の世界に登場する巨大な竜と更に巨大な巨人。
対して英雄譚で形作られた偽りのナハト、その英雄に魂を形作られ守護霊として顕現した神に等しい魔人
今は亡き聖女の魂の叫びが聞こえる。あの一年間の贖罪を求める叫び声が




