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親子と騎士と

 シェルス一行は、ローレンスから飛び立って二日目で目と鼻の先に来ていた。確かに急いではいたが、ここまで早く辿り着けたのはクエレブレの移動速度がズバ抜けていたからだった。


「もう目と鼻の先ね。恐らくシェバ達も到着しているはずよ」


リエナの言葉を聞き、シェルスはリエナに思わず聞き返してしまう


「あの……騎士団長自ら……?」


ええ、と返すリエナ。じゃあ、もしかして……とシェルスは思う。そんなシェルスを見て心を読み取ったかのようにリエナは


「イリーナも居るわよ。レコスさんは弟みたいなものだって言って……」


シェルスはそれを聞いて安心してしまう。あのシェバとイリーナが居る……と。


「一度探索を掛けてみましょう、ラスティナ、お願いできる?」


「はい、わかりました」


いいながらラスティナは太陽に向かって手を翳す。太陽と同調し、ラスティナは探索を開始する。通常の魔術師には不可能な範囲で探索をかける事が出来るのは、他ならぬ太陽との同調のおかげだった。


「騎士団の気配を……見つけましたが……ウォールグではありませんね、手前の湖で固まっています」


それを聞いて他の面々は怪訝な顔をする……てっきりすでにウォールグで派手に戦闘をしていると思っていた。


「あのシェバが……何かしら、嫌な予感がするわね……クエレブレさん、ここから更に北西の湖よ、よろしくね」


『分かった、何かは知らんが飛ばすぞ。おい、グラスパ! 結界を張れ!』


『おい、待て、我が魔術を使用するには……』


術者に魔力を注がれないと出来ない、と言おうとしたとき、ラスティナがリエナの懐に手を当てる


「私の魔力を注ぎます、リエナ様は温存していて下さい」


太陽と同調した状態のラスティナがナハト並の魔力を注ぎこむ。暗唱の宝石は、かつての友の竜の性格を熟知していた。コイツが飛ばすと言ったら相当飛ばすと。古代魔術の中で最も頑強な結界、いつかのレコスとシェルスをジュール大聖堂に閉じ込めた結界を、クエレブレの背に玉状に張り巡らせる


赤い鎖が一行を包むように結界が張られる


それを確認したクエレブレは……


『ハハハ! 久方ぶりの……本気だ!』


やがりか、と魔人はかつての友を心の中でなじりながら


クエレブレは大気を揺らし、今までにない速度で滑空し湖を通り越してしまうのでは無いかと思える速度で、文字通り飛ばした。


結界が無ければ、今頃全員振り落とされて死んでいる……と背中の一行は安堵していた






ウォーグル手前でキャンプを張っていた騎士達、その中の一人の騎士が違和感を覚える


「なあ、今……変な音しなかったか?」


「あ? もしかして……例の魔人が……」


「不味い、騎士団長に報告を……」


と、そんな会話の途中で激音を立てながら湖に飛び込む巨大な影


「なっ!」


「て、敵襲! 迎え撃て!」


「魔人か!」


騎士達は湖の巨大な影を凝視する、そこには巨大な竜。クエレブレ


『ほー……これが今の騎士か、随分様変わりしているな。昔はこんな頼もしい奴らでは無かったな』


言いながらクエレブレは


『とりあえずは俺は休憩だ! 主よ、何かあったらまた呼べ』


それだけ言い、シェルスの持つ宝石へと帰る。帰るのはいいが……とシェルス一行は嫌が予感がする。


クエレブレが着地したのは湖。当然その背中に乗っていた一行は……




湖へと落ちた。






シェルスは鎧を湖の中で脱ぎ捨て、ラスティナを抱きかかえながら浮上する。ステアもリエナを引っ張り……


「はぁ、はぁ……助かったわ……私……泳げないのよ……ステアが居て……本当に良かったわ……」


息を切らしながら湖から上がるリエナ。当然4人とも全身びしょ濡れの状態で特にシェルスは鎧を脱ぎ捨てていた為、半裸状態だったが……


その様子を眺めていた騎士達は咄嗟に目を反らす、そして、そこに駆け付けたイリーナに


「見るな! おい! 火を起こせ! なんでもいい、服持ってこい!」


周りの騎士達に指示を出していた。男性騎士達はそそくさと言われたとおり火を起こし、顔を赤くして目を反らしていた




夕刻、太陽は沈みかけている


たき火の前で服を脱いで着替える女4人 


「せっかくシェルスさんに買って貰ったのに……」


「そうですね……」


「えっ、あの……お二人とも……その体の傷は……」


「あ、私は知ってたぞ……って、そっちの姉さんのほうがキツいな……」


ステアとラスティナはそれぞれ感想を言い合いながら、着替えていた。


そこに同席していたイリーナはシェルスの体を傷を見て、思わず歯を食いしばりながらも、冷静に4人に説明した。なぜここで騎士団がキャンプを張っているかを。自分達が見たレコスの姿を魔術師二人に分析してもらう為に……


そして着替え終わった4人はシェバと対面し、それぞれが意見を出し合っていた。


その場にはイリーナとガリス、モールスも同席していた


「と、以上がレコスに関して、俺が抱いた感想だ。奴の中にいるのはディアボロス以外の何かだ」


シェバがそう説明する。それを聞いて、リエナは懐から暗唱の宝石を取り出し……


「話が違うじゃない、貴方……ディアボロス復活とか言ってたじゃない」


『それを先に言ったのはシンシアだぞ、我も思わず……あの影はディアボロスだと思っていたが……だが探索魔術を避けれるほどの気配を消す魔術か……相当の手練れだぞ』


それに関してはリエナもラスティナも同意見だった。探索を掛ければ少なくとも気配は探知できる。しかも魔人の巨大な気配など探知できないはずが無い、と。


『ラスティナよ、もうすぐ太陽が沈む。その前にもう一度、探索を掛けてみてくれ』


魔人がラスティナへと要望する……ラスティナは素直に頷き、夕日に向かって手を翳して同調する。


そのまま探索を翔ける


「ん……確かに……魔人の者と思われる気配はありません……ぁ、いや、ちょっと待ってください。何か居ます、この気配は……人に似ていますが、人では無いです……」


「人型の魔物とか……」


と、シェルスは言うが、ラスティナは首を振る


「明らかに魔物ではありません……かと言って……人ではありません……」


「行ってみるか、その場所に」


イリーナは提案するがシェバは首を振る


「ダメだ、もう日が沈む……闇の中では我々は圧倒的に不利だ」


『だな。日が沈めばラスティナも太陽と同調が出来なくなる』


ラスティナはなんで知ってると怪訝な顔をするが……太陽と同調する時点でそのくらいは予想できかと考え直す。


「明日の朝まで警戒を続ける、4人は休んでくれ。我々が見張る。安心して明日に備えてくれ」


シェバが4人にそう告げる、その中でシェルスはイリーナの手を引き、シェバへと駆け寄った。周りの騎士も空気を読んで離れて行く。


シェルスは両親の真ん中に立ち、両腕を組ながら月明かりで照らされる湖へと歩く。


「シェバ……ごめんなさい……」


シェルスは普段、騎士団長と呼んでいるが今は父親の名前を呼ぶ


「何がだ?」


「お前ニブすぎるぞ、その性格いい加減直せ」


シェバには言葉がない、実際なんで謝られているのか分からない。


「レコスが連れ去られたのは……たぶん私のせいです……」


シェルスは両親の腕を抱きしめながら言った。


「なんで……そう思う」


イリーナはシェルスへと問う


「あの時……レコスは嫌な予感がすると……でも私は……そんなレコスを一人で巡回に行かせました……」


それは仕方ないだろ、とシェバが言おうとすると、イリーナが首を振ってシェバに諭す


「シェルス、レコスはお前を守ったんだ、騎士としてじゃない、男としてだ。分かるか?」


シェルスは黙って聞いている


「男っていうのは、バカな生き物なんだ。自分が惚れた女を何が何でも守ろうとする奴も居るくらいにな。シェバだって……お前を守るために神に等しい魔人を一年で討伐したんだ、とびきりのバカだ」


おい、とシェバはイリーナに苦笑いしつつ抗議するが


「だからシェルス、レコスが連れ去られたのはお前のせいかもしれないけど……レコスの気持ちも汲んでやれ、あいつはお前を守りたいんだよ、守らせてやれ」


イリーナはシェルスの頭を撫でながら、湖に写る月を見ていた。


シェルスはそんなイリーナの言葉を黙って聞いている。


そして


「レコスを……殺すんですか……?」


シェルスはシェバへと聞く。イリーナは黙ってシェバの答えを待つ





「殺す……事になるだろう」




シェルスは両親の腕を抱きしめる。




そんな様子を、遠目からラスティナが見ていた。


「シェルス様……羨ましい……」


自分の両親は既に死んでいる……魔人の手によって……死んで……





ビキ……と、ラスティナの頭に亀裂が入る感覚


「あ……やだ……やだ……」


フラッシュバックする……両親が魔人に食われる瞬間が……あの光景が……必死にマリスを引っ張って逃げた自分……あの惨劇が……


「あ、ぁ、ぁ……」


まずい、まずい、と、もう一人の自分が囁く。今は太陽が出ていない。太陽さえ出ていれば……冷静で居られた。この光景がフラッシュバックしてきても……





「ふっ……はぁ……魔人……殺す……」







「ラスティナ?」


と、通りかかったステアが、ラスティナの肩に手を置いた。


「おい、どうした、なんか……震えてんぞ」


ラスティナは膝が折れ、座りこむ


「え、お、おい、ホントにどうしたんだよ」



先程まで制御が効かず、暴走寸前まで行っていた自分が驚くほど冷静になっている。


魔力も抑えられて……



ラスティナは、うすうすは気が付いていた。




ステアが何と繋がる事ができるのかを



「ステア……私から……離れないで……」


ラスティナは思わずステアを抱きしめ、ステアの胸で涙を拭く


「え、あ、え? お、おぅ」




月は静かに二人を照らしていた。








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