騎士と騎士
レインセル西の辺境、ウォーグルで騎士団、約150名が捜索を開始した。主にガリス隊で構成された捜索隊の中には、イリーナとシェバの姿もあった。二人は別々に捜索しており、イリーナはガリス、モールスらと共に行動し、シェバは自分の部下達を引き連れていた。
ウォールグは6年前に突如と発生した魔人の軍勢と、当時連隊長だったシェバ率いる騎士団50万が激突した場所である。当初は木々に囲まれた「ウォールグ大森林」と言われていたが、今はその見る影もない。木々は枯れはて、石や岩と共に転がっている。
いくつもの洞窟や岩陰が存在し、なおかつ広大なウォーグルだったがドラゴンを使って捜索するもの、徒歩で洞窟内などを隈なく捜索する者に別れていた。しかし、一向に見つからない、レコスどころかディアボロスの気配すらない。
イリーナと共に行動していたガリスとモールスは、以前確かにここで見ている。巨大な影を。ディアボロスと思われる影に、黒づくめの集団のリーダーが飲みこまれるのも見ている。
「どこいきやがったんだ……」
思わずガリスはボヤキながら、洞窟内を探索する。以前ナハトと共に訪れた洞窟にも何の痕跡すら残っていなかった。
何か妙だ、と騎士団の誰もが思っていた。本当にディアボロスは復活し、レコスも本当に連れ去られているのかと。
「なあ、最初にレコスがここにいるって言ってたのは……居なくなったラスティナだったんだよな……」
ガリスがイリーナに問う。イリーナは頷きながら
「ああ、シェルスからローレンスの媒介を使って……連絡があったらしいが……」
そもそも、ラスティナが探知したのは港街からだ。そんな遠くから探知したと言うだけでも驚きだったが、ゼシルに言わせればラスティナなら可能だということだった。
「しかし……ここまで何の気配もないとな……もしかして……もう全く別の場所に……」
ガリスが諦めかけていたその時、ドン、と大きな音、それが戦闘の音だと気が付いた時、騎士達はその方角へ疾走する
「イリーナ! かまうな! 先にいけ!」
比較的軽装の鎧に身を包んでいるイリーナは言われたとおり、ガリス達を軽々と引き離して走る。
そして、まだ戦闘は続いている。前方に砂煙を確認し、剣を抜く。
「戦ってるのは……誰だ……」
イリーナは岩が重なり合って出来ている高台を見つけると、そのうえに駆け上り、上から観察する。
戦ってるのはやはりシェバだった。そして、その相手は……
レコス……
イリーナは舌打ちする。やはり魔人に乗っ取られている。あのシェバと互角に剣を打ち合っているのだ。
しかも、シェバのハルバートを軽々とはじいている。ただの剣で……おそらく魔力で強化しているとイリーナは推察する。
(不味いな……シェバが消耗戦に持ち込まれてる……考えも無しに、いつでもあんなクソ重い武器を持つからだ……)
ところで、シェバの部下は何をしていると周囲を見渡す、すると数人の騎士が倒れていた。皆切られたのか、血を流して……
「ガリス! 負傷者だ!」
イリーナはやっと追いついてきたガリスに手を振りながら、負傷者が居る方を指さす。
「モールスと俺は加勢するぞ! 他は負傷者を手当てしろ! イリーナ! 状況を教えろ!」
ガリスはそれぞれ指示する
「シェバとレコスが戦ってる! 気を付けろ! レコスは体を魔術で強化しているぞ!」
それだけ言ってイリーナも負傷者の手当てに加わった。
モールスは、シェバにレコスを殺せ、と言われた時
(無理だ……)
と素直に思っていた。俺にレコスを殺せるのか、と自分に問う。想像するだけで手が震える
レコスが騎士団に入ってからというもの、ほとんど自分が鍛え上げ、イリーナが相棒にしていた。
イリーナとモールスにとってはレコスは弟そのままだった。兄の様にレコスに恐れられるモールスと姉のように親しまれるイリーナ。モールスはこの関係を気に入っていた。
そんな自分が今、レコスを殺そうと加勢する。シェバがレコスの剣激を受け、防戦一方になっている……
その光景にモールスは目を疑いながら、中身は別物……だがレコスはレコスだ、と踏ん切りがつかないでいた。
「モールス! 囲むぞ!」
ガリスの合図で左右に別れ、シェバが剣激を止めてる間に挟み撃ちにする。
だが
レコスは飛び上がり、消える。文字通り。
「な、何?!」
シェバが驚愕の声を上げる。気配すら消えている
「イリーナ! 探索をかけろ! 逃がすな!」
ガリスがイリーナに通信魔術で指示をし、イリーナはその通信を聴きすぐに、負傷した騎士の手当てをしながら探索を掛けるが……
「だめだ……消えた?」
そんな馬鹿な、と誰もが思った。特にシェバはありえない、と。
「ばかな……まさか……」
シェバは一度騎士団を終結させる。そして負傷者の手当てをしつつ
「一旦ウォールグから引く。俺達は何か思い違いをしているようだ……」
騎士団長の指示に逆らわない訳には行かない、そして思い違いをしているという言葉に、誰もが寒気を感じる。先程のレコス、そしてそれに押されるレインセル最強の騎士。
騎士団はドラゴンに乗り、ウォールグから離脱する。そして、手前の小さな湖でキャンプを張ることにした。
湖でキャンプを張っている騎士団、夜になり月明かりが眩しいくらいに湖を照らしている
騎士達が張ったテントの一つに、騎士団長とガリス、そしてイリーナ、シェバの部下達が集っていた。
「それで……? 思い違いってなんだ、シェバ」
イリーナが普段と変わらない口調で話す。周りの騎士達も当然イリーナとシェバの関係は知っていた。特に気にする様子もない。
「ああ、レコスを乗っ取っていたやつ……あれはディアボロスじゃない……」
その発言に騎士達は騒めくが……
「なんでそう思った?」
「思ったんじゃない、確信だ。ディアボロスはあんな……完全に気配を消すような魔術は使えない。やつは脳筋だ。実際戦った時も魔術なんて、あいつ自身が使った所など見ていない」
実際戦った本人が言うのだから……と騎士達も納得してしまうが
「じゃあ……何がレコスを乗っ取ってたんだ……?」
ガリスが当然の疑問をぶつける。それに対して騎士達は答えが出ない
「だが最初……ナハトはあいつを見た時、ディアボロスは復活したって言ってたが……」
ガリスは洞窟での出来事を話す。
その話は、イリーナ自身マシルの大聖堂、ナハトの部屋で聞いていた。が……
「まて……まて……おかしい……」
イリーナはあの時の会話を思い出した。魔人が言っていた。ディアボロスの魂に形を与えた魔術師が居ると。
「そもそも……ディアボロスに気を取られてたが……凄腕の魔術師もこの土地に居るんだ……まさかそいつが……」
騎士達に考えても答えは出せなかった、こんな事ならナハトも連れてくるべきだったのだろうが……
「ナハトはどうしてるだろうな……あの後、マシルの魔術師に抑え込まれてたが……」
イリーナはナハトの事を思い出す、サリスからラスティナの居場所を伝えられ、暗唱の宝石を使用してローレンスまで飛ぼうとしたとき、周りの魔術師に止められていた。それほど明らかにナハトは消耗していた。
「今頃……悔しくて歯ぎしりしてるだろうな……でも、その代りにリエナ様がコッチに向かってる。たぶんな……」
シェバはあのリエナの性格からして……「私が居るんだから平気でしょー」と、軽いノリで来るに違いないと思っていた。実際シェルス達は向かっている。
「どうする、リエナ様に相談してからにするか? レコスは……行方が分からなくなって、一週間ほど経過しているが……それだけ経ってもウォールグから動かないって事は、何か狙いがあるって事だ。時間はあると思う」
ガリスが提案する。
それに対し騎士団長、シェバは
「相談するのはいいが……待つにも限界がある。待つのは明日一日だけだ。ローレンスから急げば……明日までには……」
「お前じゃ無いんだ、女だらけだぞ、あっちのパーティーは。 そんな強行軍出来る訳ないだろ」
イリーナがシェバに言い放ち
うぐ……とシェバが黙るのを見て、周りの騎士達は思っていた
(騎士団長……尻に敷かれてるな……)




