復讐の末
シェルスがライガスへと連絡を取り、リエナが今ローレンスに来ていると伝える。
『………わかりました』
どこか、ライガスは暗い声で答えた。シェルスは待ち合わせの場所を、リエナに言われたとおり人気のない、ローレンスの廃屋を指定する。
『あの、シェルス殿……貴方はもしかして……』
すべて知っているのではないか、と言わんばかりの返答
『いえ、すみません、では……後ほど……」
そして、待ち合わせ場所にはリエナとシェルスのみで向かった。ラスティナとステアは宿屋で待機しているよう、リエナからの指示だった。
すでに二人は廃屋に到着していた。その片方、コルネスの王の一人息子、リョウギはリエナを睨みつける。
「ようやく……会えたな……」
リエナはリョウギの顔を見る……確かに見覚えのある顔だった。そして後悔した。
「今さら……悔やむ言葉を口にするのは嫌がらせですね……貴方の目の前でコルネス王を殺したのですから……まだ少年だった貴方の前で……」
シェルスはリエナを見る……しかし、それは……
ライガスはリエナの言葉を聞き
「それは、仕方のない事です。あれは戦争だったのですから……しかし、私は騎士として……仕える方の命には従わなければなりません」
ライガスは長剣を抜く。
「騎士殿……お相手願えますか」
シェルスへとライガスは言い放つ。廃屋とは言え剣で戦うスペースは十分にあった。元々、商店だった建物が捨てられた場所だった。
ライガスとシェルスは、それぞれ二人から距離を取り、シェルスも剣を抜く。
「あの時のあれは……なんだったのですか、私に頭を下げて……一緒にウォールグに行きたいと言った……あの時の事は……」
「あれは本心です。私は……レインセルの姫君の話を最初に聞いたとき、正直感服しました。自分の主が居るところで言うのもなんですが……貴方に仕える事が出来れば、と考えた事もあったほどです」
シェルスは、それだけ聞いて剣を構える。そしてライガスに疾走した。
リエナとリョウギは対峙したまま動かない、数メートル先で二人の騎士が戦っている。
剣と剣が衝突する音を聞きながら、リョウギは口を開いた。
「後悔はしてねえ……レインセルの魔術師は皆殺しにすると……あの日誓ったんだ……」
「あら、ならラスティナも殺すつもりだったのかしら……貴方、結構しつこく迫っていたそうだけど」
リエナはいつもと変わらない口調で言い放つ
「あぁ、あの子か……さあな……」
リエナはリョウギに向かって歩きだす。淡々と。
それを見たリョウギも長剣を抜き、リエナに向かって疾走した。そしてリエナの胸目掛け……剣を突き立てた。
ライガスと戦っていたシェルスは違和感を感じていた……手加減されている……と。
(さっきから……まるで剣の鍛錬だ……まるで……サリス隊長と戦っているような……)
「なかなか……鋭い太刀筋です……流石はレインセルの連隊騎士です」
シェルスは歯を食いしばる……そして再び疾走しようとするが……鈍い音が聞こえた。
剣で肉を刺す音……シェルスは思わず、リエナを見る。そこには胸を刺し貫かれたリエナ……
「リエナ様……!」
シェルスは思わずライガスを無視してリョウギに斬りかかろうとするが……リエナが手を上げて、シェルスを止めた。
「あら、私なら大丈夫よ」
いつもと変わらない口調……しかしおびただしい血が流れている、口からも血を吐き出しながら……しかし
「もう……気は済んだ? 済むまで刺すといいわ」
淡々と言い放つリエナ、その変わらない態度に気味の悪さを感じたのか……リョウギは離れる。
「な、なんだ、お前は……一体……」
リエナはため息を吐きながら、胸に刺された剣を自分の胸から引き抜く。諸刃の部分を手で鷲掴みにしながら……
「この程度で引くくらいなら……最初から復讐なんて考えるのは止めなさい、私は貴方の目の前で、貴方の父親を殺した事を悔やんではいるけど……謝るつもりは無いわ。コルネス王は尊敬に値する男よ。貴方の行為はそんな父親を侮辱するのでは無くて?」
胸を刺し貫かれ、大量の出血をしているのにも関わらず、リエナはふらつきもしない。最初と変わらない立ち姿で話続けている
「黙れ……なんだ、なんだお前は……!」
『なるほど、そういうことか、リエナ、ようやくお前の正体が分かったぞ』
シェルスは体を震わせる……リエナの懐から……あの魔人……暗唱の宝石に宿る魔人の声がする
「あら、声は出さないでとの約束のはずよ……」
『今はあの娘はおらんだろう、ラスティナと言ったか……』
リエナは懐から暗唱の宝石を取り出す。
「ごめんなさい、黙っているつもりは無かったのだけど……ラスティナの前でこの宝石を出すわけには行かなかったの、かといってスコルアに置いたままだと、シンシアが無茶するから……」
そのまま、暗唱の宝石を、リョウギに投げ渡す。
「な、なにを……」
思わず受け取ってしまったリョウギ。それをみたライガスは思わず叫ぶ
「それを捨てろ! その宝石は忌々しい魔人が宿る宝石だぞ!」
ライガスが叫ぶのを聞いて、リョウギは捨てようとするが
『我ならば……リエナを殺すことも出来るぞ? コルネス王の息子よ』
「あら、ぜひお願いしたいわ……」
リエナは笑いながら言っている……
リョウギは更に気味を悪くし……宝石を捨てようとするが……
『愚かな、もはや外道の分際で下らん事に拘りおって』
魔人が魔術を展開しようとするが……リエナによって阻まれる
「やめなさい、私の命令に聞かないのなら食うと言ったでしょ? 私の正体に気が付いたのなら……貴方も流石に従うしかないでしょ?」
いいながら引き寄せるように暗唱の宝石を取り戻すリエナ
シェルスとライガスは、そんな二人の様子をいつのまにか立ち尽くしていた。
「コルネスの王の息子……貴方にその気がないのなら……私は貴方を殺します。レインセルの魔術師を殺してきた罪を……私が裁きます」
血まみれのまま進むリエナ。リョウギは動けなかった。目の前の異常な魔術師に……理解不能な魔術師に恐怖を抱いて、動く事が出来なかった。
「うおぉぉ!」
ライガスがリエナに向かって疾走する
剣を振りかざし、リエナの首を飛ばさんとするが……
「ら、ライガス……?」
リョウギは目の前の……自分に従ってきた騎士の名前を口にする。
「申し訳……ありません……貴方から学んだ事は……無駄にしません……」
シェルスによって、ライガスの胸は刺し貫かれていた。
そのまま、剣を引き抜き捨て、ライガスを抱きかかえるようにして、シェルスはそっと床に寝かせる
「ライガス……」
その様子を見ていたリョウギ……思わず座りこむ。
「シェルス殿……」
ライガスが口を開き、懇願する
「タバコを……一本……また共に吸いませんか……」
シェルスは、ライガスの懐からタバコを取る。口に咥えさせ、自分とライガスのタバコに魔術で同時に火をつけた。
「ありがとう……ございます……」
ライガスはタバコを一度だけ、小さな呼吸で吸うと、そのまま眠る様に息を引き取る……
「リエナ様……」
シェルスは剣を再び持ち、タバコを咥えたまま……リョウギを睨みつける
「待ちなさい……これは私の役目よ。」
リエナは座りこむリョウギを見据え、言い放つ。
「コルネス王の息子、リョウギ……父の元へ旅立ちなさい」
そう呟く……それだけ、たったそれだけで、リョウギは倒れ動かなくなる。
「くだらない……」
シェルスは一言だけ……言い放った。




