政略と結婚
一度宿屋に戻ったシェルスとラスティナ。ラスティナはステアが連れ去られた状況の説明をシェルスにしていた。
「二日酔いで苦しんでいたステアに……薬を飲ませようとして水を宿屋の主人に貰いに行ったのですが……その時、宿屋の中に5,6人の男達が入ってきまして……」
シェルスはラスティナの説明を受けながら、机の上に置いてあった薬に目が行く。
「その男達が、クランベールのご令嬢は居るかと尋ねられてきました。宿屋の主人には何も伝えてなかったので困惑していましたが……男達はそのまま強引に宿屋の中を探し回って……」
「随分……乱暴ね、いくらカルスター家だからって……」
頷くラスティナ。そのまま説明を続け
「それで……私の記章を持つステアを見つけると、無理やり……私も止めようと思ったのですが……武器を持たない商人に魔術を放つわけにも行かず……」
その前にこの街で騒ぎを起こすと色々と面倒が起こると、シェルスはラスティナに非が無い事を付け加えながら
「仕方ないわ、それより、男達は何か言ってなかった?」
「えっと……この娘ならば、あの方も満足だ、とか……なんとか……」
やっぱり……とシェルスは確信する。例の許嫁が逃げた事と関係していると。
「分かったわ、私がカルスタ―家に事情を説明して……ステアを連れ戻してくる」
「ぁ、あの、私も行きます、いざというときは私が本物だと言えば、あちらも手を引くと思いますし……」
それは……マシルでナハトの次に危険だと言われている魔術師ということをバラすことになる。シェルスはその事態だけは避けたかったが……
「分かったわ……まずは騎士団の……昨日相談に乗ってくれる人に会ったの、その人に事情を説明して協力を仰ぎましょう」
頷くラスティナと共に騎士団の詰め所へと赴く二人。詰所の中に入り、昨日と同じ騎士を見つけると内々に話があると伝え、個室の中で3人で事情を説明した。
「なるほど……それは気掛かりですな……しかし……よりにもよってカルスター家とは……」
シェルスとラスティナは顔を見合わせ、騎士へ質問する。
「あの、よりにもよって……というのは……」
「あぁ、これは失礼しました。実はですね、カルスタ―家はレインセルの……騎士団長直属連隊騎士隊長の一人、クラウス・ロッドワーツ殿の家柄と密接な関係にありましてな……」
シェルスは有名な騎士名家とはロッドワーツ家かと気づき……ということは封鎖をしているのも……と考えるが……
「ロッドワーツ家……」
以前、自分がグロリスの森から救出された際に出会ったクラウス隊長を思いだす……イリーナの事を激しく蔑んでいたが……部下もイリーナも冷めきった態度だった。
「しかし、なんでクランベールの娘を……」
ラスティナが騎士へと疑問をぶつける……もし正直に自分が申し出ていても、連れていかれたのか、と思いながら
「おそらくは、クランベール家という特殊な……あぁ、これは失礼を……ラスティナ様はご本人でしたな」
「いえ、続けてください……私もそれが聞きたいのです」
騎士は考えながら……言葉を選びつつ……
「ラスティナ様のご両親が魔人に襲われ、他界なされた後……クランベール家の中で新しい当主が生まれた事をご存知かと思いますが……」
ラスティナは頷きながら
「私の叔父夫婦ですね。長男だった父が亡くなった事で、弟の叔父がその地位を継いだと……」
「はい、それにともなって……もともとクランベール家は魔術の名家……カルスター家とも密接な関係にあったのですが……ラスティナ様の叔父君が、その関係を崩したのです。カルスター家の金に物を言わせるやり方についていけなくなった事、そして何より……」
ラスティナは騎士が皆を言う前に……
「私達姉妹が……マシルの危険人物として地下へ隔離され……カルスター家は、私達姉妹を使って魔工技術の発展を狙っていた……」
騎士は頷く……それを聞いて、シェルスはカルスター家に対するイメージが崩れた。今までは便利な魔工を世の中に広めていた商家と思っていたが……
「叔父君は、貴方達姉妹を守る為とカルスター家と縁を切ったのですが……こうなってくると……もしや許嫁が逃げたという情報も噓だという可能性も出てきますな」
シェルスはなんとなく想像がついた。今まで許嫁と決めていた女性を切り、クランベールと政略結婚させるためにステアをさらったと……
「ならば……その願いを叶えてさしあげましょう……」
ニヤ……とラスティナが笑いながら言い放つ。それを見てシェルスと騎士は顔を見合わせ……怪訝な顔をした。
連れ去られた豪華な屋敷、カルスター家の当主の部屋でステアはドレスを着せられていた。
「うむ。これで我がカルスター家も……安泰だな。クランベール家のご令嬢。貴方の為にも……息子と結婚することをお勧めしますぞ」
カルスター家の当主は自分勝手な事を言っている……
(ど、どういう状況だ……? いや、でも私は偽物だし……下手に喋るとボロが出るし……でも頷いてるわけにも……)
と、そこにカルスター家の息子、モルス・カルスターが部屋へ入ってくる
「おぉ、お父様……っ、ついにこの時が……ラスティナとマリスを我が家へと招く時が来たのですね!」
当主は怪訝な顔をし……
「滅多な事を言うな、あのバケモノ姉妹を家に招くなどと……あの姉妹の役目はひたすら魔工技術の発展の為にだけにある。お前もキモに命じておけ。とりあえずクランベール家との縁を取り戻した後、クランベールの当主に打診する。あの二人の身柄はカルスター家で預かるとな」
それを聞いたステアは腸が煮えくりかえる思いだった。まるでラスティナとその妹を道具のように扱う物言いに、思わず叫び散らしたくなるが……面倒を起こすと、ラスティナ本人にも迷惑が掛かると思い耐えていた。それにシェルスがなんとかしてくれる……と思いながら……
「まあ、なんにせよ、お父様、このお嬢様は……僕のお嫁さんなんですね~、うふふ、あの許嫁よりも可愛いじゃないですかぁ~」
ステアは二日酔いもあって、吐き気を催したが……顔を反らしつつ対応する
「うふふ、恥ずかしがりやさんだなぁ~、もう結婚式の準備も整っていますよ~」
「は?!」
思わずステアは声を上げてしまうが、すぐに俯き……
(け、結婚式ってなんだ?! え、そういう話だったのか?!)
ステアは二人の会話で聞き取ったのはラスティナについての会話だけだった。あとは右から左に流れている。
(ど、どうしよう……逃げるのは簡単……だと思うが……元盗賊なめんなよ……)
しかし、今はドレスを着ていて、ただでさえ動きにくい、そのうえ状況が良くつかめていないステアにとっては下手に動くわけにも行かなかった。
その頃、シェスルはラスティナを連れて、アルベイン家の本店を訪れていた。
「え、ウェディング……ドレスですか?」
首をかしげる当主……目の前のラスティナは見た目は年齢以上に幼く見えた。そんな子にドレスを着せるのかと思いつつ……
「本当に結婚するわけではないのですが……お願いできませんか?」
「い、いえ、それは構いませんが……で、ではこちらに……サイズを合わせるのに少々時間が……」
「構いません、よろしくおねがいします」
シェルスは、頼れる物は全て頼ろうとしていた。ライガスから貰った通信魔術を起動する。
「ライガスさん……実は折り入ってお願いがあるのですが……少々荒っぽい事なのですが……」
『おや、穏やかではありませんね。しかし、私に出来る事であれば何でもしますよ』
なんだろう……凄い楽しそうな声に聞こえる……とシェルスは思うが……
「実はですね……カルスター家の結婚式の花嫁を入れ変えたいんです」
『へ?』
ライガスのマヌケな声が聞こえてきた。




