酒場での葛藤
宿屋に帰ってきたシェルスは、ラスティナとステアと共に酒場へと来ていた。情報収集も出来るとステアが提案した物だったが……
「ヒック……私……ヒック……最低なんら……」
いきなり何を……とシェルスは酔ったステアを見つめながら
「どうしたの? 別にレインセルの基本的な構図しらなかったからって……そんな……」
「そのことじゃないら……っ!」
ドン! と机を叩きながら言い放つステア。ラスティナと顔を見合わせながらシェルスは、ステアに改めて尋ねると……
「私……奴隷商なんて……みんな殺しちまえばいいと……おもってたん……でも……シェルスが殺したの見て……シェルスの事……嫌な目でみてたんら……」
口調がおかしい……と思いつつも、シェルスは元気がないステアは……もしかしてその矛盾で苦しんでいたのかと気づく
「いや、ステア……ごめんなさい……いきなり目の前で……あんな……」
「ちがう! そういう事じゃらい……私……口だけの……嫌なやつら……奴隷商なんて……死ねばいいとおもってたんら……なのに……なのに……いざ……」
それを聞いて、ラスティナはステアの頬を両手で包み込んで無理やり自分の方を向けさせると
「ステア? 貴方は間違ってないわ、だからといってシェルス様が間違ってるわけでもない。奴隷はレインセルでは禁止されているもの、破れば罰が下るのは当たり前よ」
そのままラスティナは続ける
「貴方の葛藤も当たり前の事よ。目の前で死ぬ人間を見て楽しむ人間は最低よ。それがどんなに下衆な輩が殺される場面だったとしても……私も貴方も、シェルス様も、貴族も商人も犯罪者も、皆この星の一部なの。貴方の苦しみはむしろ誇るべきよ。」
ステアはラスティナの言葉の大半は流れて行ったが……全ての人間はこの星の一部……という所が残り……
「わたし……も……? ここに居ていいろ?」
「当たり前じゃない、たとえ世界中がステアの敵になったとしても……私はステア側の人間よ。約束するわ。ステアを独りぼっちになんてさせません」
ラスティナはステアの顔から手を離すと、ツマミの肉をステアの口にくわえさせ……
「ほら、お腹空いてるでしょ? 頑張って勉強したもんね」
まるでお姉さんだ……ラスティナのほうが年下なのに……と二人のやり取りをみてシェルスも酔っていたのか……
「私も……混ざりたい……」
口に出していってしまった。それを聞いたラスティナは……
「シェルス……? はーい、あーん」
と、ツマミをシェルスの口に運んでくれる、シェルスは嬉しそうに咥えているが、次の瞬間、顔が赤面して酒のせいにしようと一気に煽る
「シェルス様も可愛いですね」
ラスティナにそういわれて、恥ずかしさが耐えきれなくなったのか
「ちょ、ちょっと外の風に……あたってくる……」
そのまま酒場の外に出る……
風が気持ちい、中からは街の住民が盛り上がっている声が聞こえてくる。
「失礼、火をお持ちですか?」
いきなり横から声を掛けられ、驚くが……そこには冒険者風の男が草煙を咥えて立っていた。
「あぁ、これは失礼……貴方のようなお嬢様がタバコなど吸うはずがありませんよね」
シェルスは今鎧を脱いで、街の商人から購入した、村娘のような服装だった。
男は煙草を仕舞おうとする、それを見たシェルスは……
「ぁ、いえ……どうぞ……」
シェルスはナハトから教わった火を起こす魔術を手の平に出す。男はそれを見て
「なんと、魔術をお使いでしたか、てっきり街の娘だと思っていましたが……もしや同業者で……?」
同業者……冒険者と思われているのだろうか……と、男はシェルスの手の平でタバコに火をつける
「失礼……実は私は、コルネスから赴いた冒険者でして……レインセルは良い国ですね、酒場がここまで賑わうのを見るのは久しぶりです」
コルネスとはレインセルと違う大陸にある、遥か東の国だった。
「コルネスから……ということは……相当の腕前の冒険者様なのですね」
シェルスは男の体付から、そして武器は腰に差した長剣のみだったが、服装からして背中にも武器を仕舞えるような装いだった事も観察しつつ
「いえいえ、しがない貧乏冒険者でして……レインセルに来たのは、例の魔人との闘いの戦場を見てみたくなりましてね」
それは、もしかしてウォールグの事だろうか……とシェルスは尋ねた。
「その通りです、神に等しいディアボロスが討滅されたという戦場を……一目見ておきたくて……」
男は煙草を吸いながら空に向かって煙を吐く。そのままシェルスの手を見ながら
「もしや……貴方様は騎士では……?」
げっ、とシェルスは思う、別にバレてもいいのだが、情報収集の弊害にならないだろうかと警戒していた。
「あぁ、なるほど、なるほど……失礼しました。大丈夫です、私は口は堅い方なので……」
いいつつ男は煙草を再び吸い……
「ぁの……どうしてわかったんですか……? 騎士だと……」
シェルスは観念して自白するが……
「その手は明らかに街の娘とは違います。だからと言って我々のような中途半端に鍛えてる手でもない……その手は何度も剣を振り続けて鍛錬した手です。」
良くわかるな……とシェルスは思いながら、男の手も見てみる……明らかに自分よりもゴツゴツし、尋常ではない傷まみれで中途半端な鍛え方では無い事は、はっきりと分かった。
「騎士様も一本どうですか? たまにはいいですよ、こういうのも」
いいながら男は煙草を差し出してくる。シェルスは酔っているのもあったが、興味本位で吸ってみる事にした。タバコを口に咥え、魔術で火をつける……
「まずは口で吸い、それから肺に入れる、といった具合です。まずは少し……」
という男の説明も空しく、シェルスは一気に肺へ取り込んだ。
案の定……
「う、ゲホ……! ゴフッ、ゲホ……」
異常にむせる、男は背中を軽く叩きながらシェルスを介抱し……
「あぁ、すみません……遅かったですね……」
いいつつシェルスは涙目で再びタバコに口をつけ、今度は少しずつ吸う
「ケホ……ん……なんか……口の中が甘いですね……」
率直な感想を言うシェルス、男は笑いながら
「それは先に飲んでいたお酒のせいですね……今激しくむせていたので……」
シェルスと冒険者の男は顔を見合わせて笑った。
一方、ラスティナは完全につぶれたステアに自分の来ていた上着を掛けてやり、先程注文したスープに口を付けていた。
(ん……この味……なかなか美味しい……流石商人の街……贅沢ですね……)
思いつつ一口一口スプーンで堪能するように飲む、そんな時、向かいの席に一人の男が座った。
「ここ、空いてるかい?」
ラスティナは男を見ながら、チャラい……と思いつつ
「すみません、連れが今外に風に当たりに……」
「じゃあ空いてるな……マスター、酒~」
なんだ、コイツは、とラスティナは明らかに嫌そうな顔をする。連れが居ると言った時点で引くだろう、普通は、と思いながら
「申し訳ありません、そこは私の連れが座るので、別の席へ移って頂けませんか?」
喧嘩腰で言い放つ。男は怪訝な顔をし
「なんだなんだ、分からないか? お嬢ちゃんを誘いにきたんじゃないか、そっちのお嬢ちゃんは……潰れてるみたいだが……君はまだ元気そうだな?」
マスターが男の前に酒を置く。気の弱いマスターなのか、明らかにラスティナが困っているのにも関わらずカウンターへさっさと引いてしまう。
「お誘い、ありがとうございます、でも私は貴方と一夜を共にする気はありませんので、どうかお引き取りを」
ハッキリと断りながら、ラスティナは男の酒を奪い煽る。
「ぁ、ちょ……俺の酒……」
ラスティナは半分ほど一気に飲むと大きく息を吐き
「だいたい……私はまだ……15です、こんな子供を相手にしている暇があるなら……ほら、あそこに素敵な女性がいるじゃないですか」
カウンターに一人で飲んでる女をラスティナは指差し……
「ぁ、ダメだダメだ、あんな女……」
「すでにフラれていましたか、すみませんねー」
酔ってるせいか……男を挑発するように言うラスティナ
「ぐ……なあ、頼むよ……寂しいんだよ……男二人で旅してて……女の子のぬくもりが欲しいんだよ!」
男はラスティナの手を握りながら、涙ながらに訴えてくる
「それなら……そういうお店があるじゃないですか、そっちに行けばいいじゃないですか」
ラスティナは諭すが……
「いや、金ねえし……」
「終わってますね」
ラスティナは素直に感想をいいながら酒を全て飲みきり、マスターにお替りを注文する
「お、おい、飲みすぎじゃね?」
目の前の男の言葉に怪訝な顔をし
「誰かさんのせいで頭に血が上って喉が渇くんです、分かったらさっさとどこか消えてください」
男はすっかり毒気を抜かれたように、席を立とうとしたその時、隣で寝ているステアの手から零れ落ちた記章に目が行く
「ん? この記章……クランベール家?」
その男の言葉に……周りの客が騒めく
今クランベールと言ったか、と。
「こ、このお嬢ちゃん……あのクランベールの……マジか……え、って、ことは……アンタは……」
隣のラスティナに目を向けながら男は問う
「はい? 護衛の魔術師ですが……?」
睨みつけるように答えたラスティナは、しまったと思った。折角身分を隠してきたのに、自分からバラしてしまったと
「ま、魔術師……クランベールの護衛ってことは……まさかマシルの……」
ラスティナは頭を掻きながら……
「そうですが……なにか?」
「は、ははは……見つけた……マシルの魔術師……」
男は腰に刺していた剣を抜く。そしてラスティナの鼻先に切っ先を向けた。
店の客が騒めく、止めに入ろうとする他の客を威嚇しながら……男は
「おい、リエナ・フローベルって知ってるよな……凄腕の魔術師だ……あいつと話がしてえ……通信魔術を……」
と、全て言う前に、男の世界が180度回転した。思い切り頭から床に叩きつけられ、頭を押さえながら蹲る。
「な、な、だれ……」
男は涙目で立ち上がる、机の隣に先程自分がナンパした女が立っていた。
「な、なんだよお前……! なんかようか!」
女は無言でラスティナを見る。酒で潰れた少女と魔術師を交互に見て……
「子供二人に剣を抜くやつがあるか、出ていけ、目障りだ」
「う、うるせえ! お前に関係あるか! こっちにはこっちの事情が……」
「そうか、なら私にも事情がある。お前が居ると酒が不味くなる」
いいながら女は男の溝内に拳を叩きこみ、思わず嘔吐する男の口を顔ごと鷲掴みにし……
「吐くなら外で吐け」
そういいながら男を扉を開け放って放り出した。
外で風に当たりながらタバコを吸っていたシェルスと冒険者は何事かと思いながら男と女を交互に見て……
「え? な、なに……」
シェルスは目の前で酒と料理を口から戻す男から引きながら……
「おい、お前何したんだ……、すみません、私の連れが何かご無礼を……?」
シェルスと共にタバコを吸っていた冒険者が、連れを放り出した女に謝りながら尋ねた。
「そのバカはお前の連れか、酒場で剣を抜いていたぞ。しかも子供にな」
子供……と聞いて、シェルスはまさか……と思うが
「な、なんと……それは失礼しました……こいつには良く言い聞かせますので、今夜はこれでご容赦を……」
冒険者の男は頭を下げ、女に謝る。
「ふん……男が簡単に頭下げるな、悪かったな……少々やりすぎた」
いいながら女は店の中に戻っていく。
シェルスはポカーンとしながら……その光景を見ていたが……
(あの女の人……どこかで……そうだ、確か……騎士団の詰め所の……もしかして……)
「すみません、騎士殿、私はこれで失礼します。ほら、立て、みっともないマネしやがって……」
冒険者は釣れの腕を掴んで立たせ、肩を貸しながら去って行った。
その様子を見ながら……シェルスは先程の女……騎士団の詰め所に張られていた人相書きを思いだす
(間違いない……騎士殺しの……リーン・レイヴェンだ……酒場で飲むなんて……大胆な……)
しかし、話から察するに彼女が庇ったのは、あきらかにラスティナとステアだとシェルスは思った。
この酒場で、子供と言える見た目の人間は、あの二人しかいないからだ。
(どうしよう……お礼……言ったほうがいいのかな……いや、待て……騎士殺しだし……でもちょっと雰囲気イリーナに似てるな……)
酔っているのか……そんな事を考えていた。




