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少女とステア

スコルアの南に位置する港町で、レコス、シェルス、そしてステアの3人はリュネリアを助けに行った3人を待っていた。すでに日没。レコスとシェルスは交代で眠りにつき、港町の警戒を続けていた。なにせ港町が隠していたイケニエ騒ぎが解決したと言っても、ディアボロスが復活した影響で魔物が活性化している可能性がある。現にあのドラゴンも、時期ではないのに街に降りてきたのだ。


 シェルスはレコスと巡回を交代し眠りについていた。そして微かな物音で目が覚めると隣で寝ていたステアが居なくなっている事に気が付いた。


「ステア?」


シェルスは起き上がり、腰に長剣を刺して酒場の地下から地上へと出る。そしてすぐにステアは見つかった。酒場の屋根に上りながら酒を飲んでいた。


「ステア、眠れないの?」


屋根によじ登り、シェルスは一人月見酒をしているステアへ話しかけた


「ん? ぁ、わりぃ、起こしたか?」


ステアは交代で巡回に出ているシェルスを気遣うように言いながら酒を煽る。


「別に大丈夫よ……綺麗な月ね」


シェルスはステアの隣に座り、月を見上げる。


「私さ、昔から……奴隷の時から月を見てる時だけ……なんか凄え落ち着くんだ……月みながら盗んだ酒飲んでたら見つかって……何度も殴られたけど……それでも止めなかったくらいな」


シェルスはその話を聞きながら、いつかの自分の失言を謝る


「ステア、ごめんね、あの時……ステアの事知らずに私……無神経な事言って……」


ステアは不思議そうにシェルスを見る、酒を置き……


「何がよ、無神経な事って……」


「私の……昔の事……傷を見せて……貴方に、いかにも自分のほうが辛い思いをしたって言っちゃったから……」


ああ、あの時か、とステアは思いだす。拉致された姫君など生ぬるい扱いをされていたと言い放った時を


「間違いじゃないだろ……私はそんな傷付けられることなんてされなかったし……」


「でもステアは17年間も……辛い思いをしてきたのに……私はたった一年……」


シェルスは三日月を見つめる。見つめながらステアに謝っていた。


「ごめんね、私エラそうにして……」


「私も悪かったよ……」


ステアも謝っていた。今まで自分より不幸な人間など居ないとさえ思っていた。だがシェルスの傷を見た時、ステアは悟った。この女は人間全てを恨んでも不思議じゃないのに、騎士をやって人を守ろうとしている、その事がステアにとっては不思議でたまらなったのだが……


その時、ドン、と地響き……


「何?」


シェルスが立ち上がり、辺りを見回すと……港町の東、森の中に微かに光を見つけた。


「ステア、動いちゃダメよ。ちょっと見てくるから……」


ステアが心配そうに……走り去るシェルスを見送る




森の中に入るなり、異常に気が付いた。異常に焦げ臭い。何か生き物が燃やされている……そんな臭いにシェルスはむせ返る。


「なに……この匂い……」


森の中を進むと、すぐに答えはあった。魔物……この森に生息する魔物の中で最も狂暴であろう巨大な猿の魔物が、丸焼きにされている。


それを見てシェルスは、その先にも同じような魔物の死体を確認する。


(なにこれ……一体だれが……)


道しるべの様に転がった丸焼きの魔物……それを追いかけていくと……一人の魔術師らしき少女が居た。


ド派手なローブ。黒地に黄色のストライプの入ったローブを身に着け、息を荒くしながら歩いていた。

シェルスは追いかけながら声を掛けた


「そこの貴方……まっ……」


待って、という前に、少女は倒れる。シェルスはすぐに駆け寄り抱き起すとかなり体が熱かった。額に手を当てると異常な体温に気が付く。


「大変……凄い熱が……」


シェルスは少女を抱きかかえると、港町に戻る。


その少女、ラスティナを




港町の医者を起こし、少女の診察を依頼する。シェルスの治癒魔術は外傷は直せても病までは癒すことは出来ない。街医者はラスティナを診療所のベットに寝かせて胸元を開き、心音を聞くなどの診察をするが……


「特に異常は無いが……凄い熱だ。薬を処方しよう……それまで水を少しずつ飲ませてあげなさい」


シェルスは言われたとおり、少女に瓶に入った水を飲ませる……


ハンガーに掛けられたローブを見て、シェルスには心あたりがあった。この少女が何者なのか


5年前、自分は直接見ては居ないが70万の魔人の軍勢を相手にしていた魔術師の姉妹……その二人が派手なローブを着ていたと聞いていた。そして先程の魔物の死がい、シェルスは少女がラスティナかマリス、どちらかだと確信していた。


「マリス……何処……」


少女が寝言を言う……汗を垂らしながら苦しそうに……


今マリスと言った。シェルスはこの子はラスティナかと思い、声を掛けた


「ラスティナ? 大丈夫よ、もう安心だから……」


優しく前髪をかき分けるように頭を撫でながら、時折水を飲ませる……そして街医者が薬の処方を終えラスティナに飲ませた。


「これで様子を見よう。騎士殿、この子は私が請け負う。貴方は街の警備を……」


医者に頷き、シェルスはその場を後にした。すると、いつの間にか医者の家の前にステアが心配そうな目で佇んでいた。


「ステア、どうしたの? もしかして、あの子の事心配して……」


「誰だ……?」


いきなりステアが呟く。誰、とはラスティナの事を言っているのだろうか、とシェルスは答える


「スコルアの魔術師よ。何故かはわからないけど……森に……」


「魔術師……? なんだ、この感じ……な、なぁ、会いたい……中に入っていいか?」


シェルスは怪訝な顔をする……ステアがこんな事を言い出すなんて……と。しかしその必死な態度を見て、シェルスは頷き、ステアをラスティナと対面させた。


「この子……初めて会うのに……なんだろ、他人とは思えない……」


そんな事を呟きながら、ステアはラスティナの手を握った。すると、息を荒く呼吸していたラスティナが落ち着いて行く。さっきまで苦しそうにしていたのに、ステアが手を握った瞬間、顔色も良くなり汗も引いて行った。


「こ、この子は……特別な治癒魔術でも扱えるのか?」


街医者が驚きを隠せない表情でステアを見ているが……シェルスも同意見だった。しかしステアは魔術など使えない。魔術の知識の無いシェルスと街医者は目の前の現象の答えを出せずにいた。


「先生、とりあえず……私は戻ります。この子……ステアと言いますので……何かあれば言ってください」


街医者は頷きながらシェルスを送り出した。


酒場付近に戻るとレコスが戻ってきており、状況の説明をする。森で出会ったラスティナ、介抱しているステアの事も。


「わ、わかりました……それにしてもラスティナって……マシルの危険人物の一人ですよね……なんでこんなところに……」


危険人物……シェルスはとてもそうは見えなかった。むしろ自分が医者に駆け込んだ時は今にも消えてしまいそうな儚い存在に思えたからだ。


「レコス、とりあえず騎士団の到着を待ちますか……?」


「そうですね……とりあえず僕は付近の巡回を、もう一度してきます。シェルスは休んでいてください、その、なんだか……嫌な予感がするので……」


言いながらレコスは巡回に出る……


レコスの言った嫌な予感。





翌朝になっても、レコスは戻ってこなかった。







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