騎士団長
大国レインセル。巨大な大陸の3分の2を占める国土を持ち、巨大な力を持つ騎士団、魔術師を有する国。
5年前、この大国を伝説の魔人が襲った。かつて存在してた王族の姫君を拉致し監禁していた同国の高官、ブラグが保有していた「暗唱の宝石」を、とある聖女が使用し魔人が復活したのだ。
この戦の話は瞬く間に世界中に広がる。そしてレインセルの騎士団が「ディアボロス」を討伐した事も同時に世界中に広がる。
それは勿論この国、マーケルにも。
このマーケルは、奴隷の輸出が盛んな国だった。自国、他国を問わず買い取った人間を奴隷として様々な国、組織に売られていく。
そして、ここにも奴隷として売られた一人の男が居た。
その男が売れらたのは大国レインセルの貴族だった。その貴族の元にまだ6歳だった男は同い年の女児と共に売られた。毎日家事をこなし、貴族に暴力を振られる日々。死んだ方がマシだと思うときもあった。
だが、あの日を境に男の世界は変わる。貴族の命令で共に売られた少女に子供を孕ませ、その子供をレインセルの王族へと奪われるも、騎士として子供を守ると決意したあの日。
子供は成長し騎士になった。男と共に騎士になった少女の子供。王族にシェルスと名付けられた、自分達の子供。
「あれから5年……」
男は呟く、ディアボロスを討伐しスコルアに戻ってきた日。自分の子供とその母親が血まみれでジュール大聖堂で倒れていた。泣きじゃくる子供を必死に聖女達は慰めながら母親に治癒魔術を掛ける光景を目の当たりにしたとき、男は自分の無力さに気が付いた。
男は必死に祈る事しか出来なかった。
聖女達に、神に、レインセルに伝わる数々の英雄たちに。
あれから5年。
男はレインセルの騎士団長へと昇格していた。前任の騎士団長は引退しレインセルの政事を請け負った。
男の、娘であるシェルスも騎士団へと入団し、今では連隊の騎士として功績を上げていた。
元々、自分とあの母親の娘なのだと男は誇らしげに思う。
「でも無茶はしないでほしいな……」
ボソっと男は本音を零しながら……机に座っていた。大量の仕事が目の前に、山積みになっていた。
これが騎士団長の仕事か、と男は嘆きながら書類を確かめてはサインしていく。
地味な作業をこなしながら、男は娘の事を思い続ける。
そして当の娘、シェルスはスコルアから南の小さな港街に派遣されていた。
魔人、魔物の討伐の為、連隊のガリス隊の一員として。
かつては姫として、そして今は騎士として。この国の人々を守るために