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空蝉 -うつせみ-  作者: 七草粥
7/9

追懐 -ついかい-

 季節はすっかり肌寒くなり、秋も終わりを告げ紅葉の木々も枯葉になり塵になり景色は冬に成り代わった月の出来事だった。 

久々に比護は自分の屋敷に隣接する離れへ呼ばれた。離れの屋敷では“黒壊こくえ”という人物が骨董品を扱う店を開いているのだが、彼はここには殆ど居らず、たまに帰ってきてはこうやって比護を部屋に呼び付けるのである。何せ、黒壊はここの他にいくつか別邸を持っていて各地を転々としているので比護よりも多忙な人間故に当たり前なのかも知れない。でも、帰ってくる時は連絡はして欲しいものである。毎度、毎度、こうして突然帰ってくるものだから夕飯の準備も人数分しかないので適当なものしか紬に頼めない。比護としてもここの住人、ましてや自分の師に対してこんな持て成しで良いのかと不安になるのだが、本人は「お構いなく」と言うだけですぐまた何処かへ行ってしまうことが多いのだ。こんな事が月に何回か頻繁にあるので比護は頭が痛かった。


「比護、あなた最近どうなのです?」


「ど、どういう事ですか……?」


「身体の体調は平気なのですか?人ばかりに気を使ってあなた自身の管理は出来ているのかと聞いているのです」


「………さ、さぁ?多分、出来ていると思います」


「全く……。だからあなたは駄目だと言っているんですよ」


「す、すみません……」


「ほら、またそうやって謝る。謝ってばかりいると人から嘗められますよ」


「は、はぁ……すみません」


相変わらずの黒壊の雰囲気に比護は戸惑いを感じながら、急須に入った日本茶を湯飲みに継ぎ足す。


「それにしても随分と屋敷が賑やかになりましたね」


「最初に入らした時に比べたら大違いでしょう?」


「ええ、驚愕するほど。あなたは変わりありませんが、ね」


「そうですか?」


「ええ、あなたを見ていると時塚を思い出しますよ」


「そんなに似てます?」


「……雰囲気的に」


そう黒壊は言い終わると、湯呑に入った日本茶を飲み干し急須からまた継ぎ足す。


「これが“比護恭介”の良心の部分と言った所なのですかね」


「……?」


「まぁ、そんな事よりあなたが元気そうで何よりですよ」


「黒壊さんは相変わらずで……」


比護の言葉に片目を丸くした黒壊は顔を見るや否や微笑した。


「そういえば、昔。霊が見えて嫌がっていましたけどその後どうです?」


「ん―……見えない事にはわかりないですけど時々冴えてますね」


「そうですか……、ふふっ、」


「え?いきなりなんですか!?」


「いや、思い出してしまって……くくっ」


「また、黒壊さんは私の恥ずかしい思い出を!!」


「あれはいつでしたっけ?あなたが改めて見えるようになった頃の……」


「っ!!!!」


「あの時の顔は傑作でした!」


「ぁ、あれは本当に吃驚してっ!!!!」


「久々に帰って来て家中に護符が貼ってあったので何事かと思えば……っ、」


「うわあああ!それ以上は言わないで下さい!」


「“黒壊!この家なにかいる!”て!」


「元はと言えば黒壊さんが言って外出しないから!」


「それはそうですけどっ、気付かないあなたもあなただ!」


「そりゃ、ご飯とかお風呂とか知らない間に出来上がってても当時は式が家に居るのもわからなくて当然ですよっ!」


黒壊は腹を抱えなが東洋製のテーブルに頭と身体を丸く埋めるように爆笑し始める。元はと言えば、全ての元凶は黒壊にあるというのに全くもって詫びるつもりもなくいる姿が比護の中の羞恥心を擽った。


「では、何故、あなたは一ヶ月も気付かなかったのですかっ?」


「普通に黒壊さんが……私の知らない間に帰って来て準備したと……」


「ぁ、ははははははっ!!私が!?ありえない!」


「ですよねぇ……」


「貴方って子は実に揶揄するに等しい弟子だっ!!」


その日、黒壊の笑い声は静かになっていた離れの屋敷に響き渡った。後に紬が二人分の軽い夜食とお酒を運んできてくれて、二人で夜遅くまで酒を酌み交わし過去の思い出に浸った。








嗚呼、もうすぐ年が明ける。


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