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邪喰妖精 ナギ  作者: 霞 ひおり
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第一話

やっとナギ様まともに登場です。

 まあ、こうなってしまってはどうにもならないから、どうとでもなれって感じなんですけど、ドラマで見ていたことが自分の身に起こってみると、なんというのかな、ベタだなと。まず典型的なのはクラス中で無視でしょ?机の中から物が無くなっていたり、破られていたり。まあ、このあたりは自分で持ち歩いて非難するとして、一番むかつくのが、あいつよあいつ。いじめられっ子君までが無視するってどうゆうことよ?こんなことなら庇うんじゃなかったなあ。まあでも、仕方ないか。言われてハイそうですかと、ノートを捨てに行ける性格じゃないしね。このまま3年間誰とも口きかないで卒業というのもあれだけど、嫌いな奴の奴隷になって我慢する3年間よりはマシだよね。はあ。ため息もでるってもんよ。ずっと教室いるのも息つまるわ。昼休みくらい屋上でも行くかなあ。

 4時限目の鐘が鳴り終わるのと同時に私は教室を飛び出して屋上へと向かった。そろそろ日差しが強くなってきた新緑の季節、日焼けが気になる女生徒達はそこにはあまり行きたがらなかったのが私には好都合だった。どっかに逃げ場はないかと学校をうろうろしているときに、屋上で隠れて持ってきた漫画を読もうとする男子生徒のあとをつけてここを発見した。それからというもの、天気の悪いとき以外はほぼ毎日来ている。屋上へ出入りするドアの反対側がちょうど日陰になっていて、そこから眺める青い空と都会の風景は自然と人工を描いたコントラストな絵のようで、まるで私の気持ちそのものだった。

 「結局、自分の中の根っこのところが染まれないんだよね。見た目だけ変わってっもダメってことかあ。やっぱり地元の高校に行けば良かったのかなあ?」

 背伸びをして空を眺めた。美しい空と高層ビルを別けるように鉄柵が線を引き、その鉄柵の上には、見たことのないような美しい鴉が留まっていた。

 綺麗。

 鴉なのに。

 何にも揺るぎないような、真っ直ぐな瞳が私のことをじっと見つめていた。


 ぽたっ。


 え? 雨?何かいま、胸のところに雫みたいのが落ちてきたけど。


 ぽたっ。ぽたっ。


 自分の胸のあたりから微かに何かが落ちる振動を伝える。


 うそ・・・まさか・・・


 自分の右手を頬に当てると雫がつうと、中指をそって肘へと流れた。


 私、泣いてる?


 中指の先から肘へ伸びていく涙のあとを眺める。


 馬鹿だなあ・・・あたし、案外傷ついてたんだ。全然気づかなかった。ふふふ。なんだ、私にもまだ、センチメンタルな心は残ってるじゃん?っとほくそ笑むと、そのまま顔を膝に埋めて腕を抱えて眠ったふりをしながら嗚咽した。


「そんな立場になっても、君はみごとに邪液がでないなあ?」

頭上で声がする。慌てて首をあげると屋上のドアの上に誰かが座っていた。逆光で顔が見えないが美しい金髪が靡いている。彼は、飛び降りると私の目の前に立った。日陰に入ると彼の顔は鮮明に見えるようになったのだが。

「あれ?金髪は?・・見間違い?」

彼は無表情で私を見ている。そこにいたのは、いつものクラスのいじめられっ子君だった

「あ、いやいやごめん。えーとたしか名前は・・・」

やばい、いじめられっ子君の名前なんだっけ?うーむ。まったく思い出せない。

「穂純カイリ。ああ、君がいつも言ってるいじめられっ子君って読んでくれてもかまわないよ?」

「あわわわ・・ご・・ごめんなさい。てゆうか、なんでそれを・・」

「ああ、ご親切にも中川さんが、君達といつもどういう会話をしているのか教えてくれるからねえ。それでいかに、俺がクラス中から嫌われているかを語ってくれるんだよ」

 穂純くんは満足そうに微笑んだ。

 私はじっと穂純くんを見つめた。・・・金髪じゃない。逆光だったからそう見えたのかなあ?でも、なんか顔の形とかも・・・。

 穂純くんの指がすっと伸びてきて私の目の縁に溜まった涙をぬぐった。そのときやっと泣いていたことを思い出しあわてて顔を反らし目を擦り

「あ、これは太陽じっと見てたら目をやられちゃって・・ははは・・・」

 と言い訳っぽいなと思いながらも愛想笑いで誤魔化そう手を大げさに振った。

「遥!」

「はい!?」

 穂純くんにいきなり名前で呼ばれ思わずびくっと背を伸ばしてしまった。

「なんていうのかな、君はもっとこう、中川の奴むかつく!とか、死ねばいいのに!とか思わない?心の中かが沸々とドロドロした物でてこない?不幸になれとか、呪われればいいのにとか、そーゆーのないの?」


 は?


 涙がひっこんだ。穂純くんはまるで、舞台俳優かのように大げさに振る舞う。私が知っている彼とは別人のようだ。彼が人を陥れる言葉を発する度に目がキラキラと輝いているように見える。

「ないない、そんなこと思ったことは一度もないよ。ちょっと自分の考えが甘かったなって思うだけ」

「つまらん。では引き続き中川から邪液を精製するからお前は絶対に邪魔するなよ?」

「なんのこと?邪液って何?」

「知らなくていい。いいか、俺がいじめられているのを邪魔するなってことだ。わかったな?」

私は迫力に負けてただ首を縦に振るだけだった。

 穂純くんはそういうと、また背を丸めて特有のいじめられっ子オーラみたいのをまとって教室へと戻っていってしまった。

 なにいまの?全然違う人じゃないの?中川さんにわざといじめられてるって言ってなかった?どういうこと?

 その日から、自分がクラスからハブられていることもすっかり忘れて、穂純くんから目が離せなくなってしまった。あれから、また穂純くんが中川さんに空気の読めない言葉を吐き中川さんからの私へのいじめは段々手薄になってきて再び穂純くんへと戻っていった。

 もしかしてワザと空気の読めない発言をしているのか?中川さんに嫌われたい?何故?もしかして凄いドMだとか?

 うーむ。全然わからない。しかも、今目の前にいる穂純くんは先日屋上で見た彼とは全然違う。どうなってるの?二重人格?あーもう、気になる!一度気になると眠れなく性格なのよ。よし、今日はこっそりストーカーしてやろう。と言っても、彼の帰宅を見守るだけよ。そう。誰かに帰宅途中にいじめられて無いか確認するだけ。うんうん。

 私は何だかわからない言い訳を自分にしながら、最後の授業が終了すると、こっそり後をつけたのでした。


「ナギ様、後ろからクラスの女生徒らしき生き物が後をつけてますがどうしますか?」

「ほっておけ、ハタケにも成れないただの生き物だからな。エッセンスを入れる時間が無駄だよ」

「了解しました。ときに、ナギ様? 屋敷の前から不穏な空気が漂ってなりませぬが」

「うーむ。あれほどまだ商品は出来上がってないと言ってるのになあ。大人しく還ってくれるといいのだが。」

「大人しく還るオーラはまったくだたよってないことだけはわかりますけどね?」


 怖いわ。穂純くん一人でぶつぶつの喋りながら歩いているわ。やはりいじめられっ子オーラは天然だったのかしら?あ、あそこが自宅なのか。普通の一軒家ね。築15年の2階建てってとこかしら。あれ?誰か家の前に立っている。知り合いなのかしら?なんか背は高いし全身黒ずくめだし、顔色は悪いしなんか気味悪いおじさんね。なんか足どりもフラフラしてるし、手にはなんかナイフみたいの持ってるし・・って、え? ちょっとこれヤバイんじゃ?

「に・・逃げて穂純!そいつナイフ持ってる!」

 私が叫ぶとその声に反応してその男がユラリとこちらを向いた。その男と目があると恐怖で腰が抜けてぺたんとその場に座りこんでしまった。

「おい、グール。その子は邪液を持っていないぞ。前にお前のご主人様にも言ったが残念ながら今は在庫ゼロだ。出直してくるんだな。」

穂純はそう言いながら目線を男に向けたまま、ずりずりと私の側へと寄ってきた。すると小声で

「俺の家まで走れるか?」

 と聞いてきた。

「生憎俺は肉弾戦は得意じゃなくてね、まあ、その役目はギィトに任せるよ。」

 そう言うと刹那、昼屋上で見た美しい鴉が穂純の前に飛んできたかと思うと地面に着地する前にメキメキと音を立てながら巨大なキマイラへと変貌した。

「だから言ったじゃありませんか。門前払いなんてするから、刺客なんて送られてくるんです。これに懲りてお客様の扱いは丁寧に!」

 キマイラが穂純に向かってすごい剣幕で怒っている。目の前に見える光景がさっぱり理解できない。

「まあ、送ってきたのはグールだから、挨拶程度なんだろけど」

 穂純は目の前の出来事を愕きもせず、しれっと答えている。

「グールは低層悪魔で能力的には低いですが死なないから嫌いなんです!」

「すまん、これやるからさっさと送り返してくれないか?」

 そう言うと穂純はガラスの瓶をキマイラに投げた。キマイラは口でキャッチすると獣の手で鼻を塞ぎ

「ぜいずい・・・ごれ・・臭い・・」

 眉間に皺寄せながら鼻声で答えている。そんな彼?を無視して、私に立って走れるかと再度聞いてくる。私は首を横に振り腰を指さして口をパクパクと動かした。あまりのことで声もでない。

「仕方ないな」

 そう穂純は言うと私の腰に手を触れると、私の体がすっと浮かび上がった。地面を見ると接着している所が一つもない。うそ?穂純の見返すと彼の髪がどんどんと金色に変色していく。

「今日はもう、力を使わないと思っていたからあんまり残っていないんだ。ちょっと手荒く扱うけど我慢してね?」

 そう言うと私の首の後ろの襟足を掴んでまるでボールを投げるように自宅のドアへ剛速球で投げつける。

 ぎゃあああああ。ぶつかる!このままだとドアに激突する!そう叫んでいるのに声から発する言葉は虚しく掠れた効果音だけだ。ドアに激突する刹那ドアは開き私を引き入れ、その後穂純も吸い込むように入るとバタンという大きな音を立てて閉まった。

「まあ、なんとかなったな」

 投げ込まれた衝撃で玄関の床に叩きつけられた私はやっと大きく一呼吸ついた。

 あっ・・あ・・声?でそうだな、と、こっそり確認したあと、穂純に向かって怒鳴る。

「なんとかなったですって?全然なんともなってないわ!投げ込まれた衝撃で体中痛いわ、変質者は出てくるわ、わけのわからん怪獣みたいのはでてくるわで、何がなんだか、いったいどうなってるんだか説明してもらうから?」

 私はやっとそのとき異変に気づいたのだ。いじめられっ子くんの穂純はそこには居ない。今、目の前で私が怒鳴っている相手は、輝く金髪を靡かせた透き通る肌をしたまるで妖精のような美しい青年だった。

「ほ・・穂純くんだよね?」

 彼は私がまるで鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしている理由にやっと気づいたらしく

「ああ、屋敷の中はすべての魔法を無効化する錬成陣が引いてあるからね、君が知っているいつもの俺の姿は魔法をかけてある姿さ。」

「や、屋敷?」

私はおずおずと振り返るとそこにあると信じこんでいた小さな間口に二階へ上がる細い階段、隣りどおしが近い部屋というような一般的な内装なぞはなく、大理石を敷き詰めた広いホールに繊細な彫刻を施された魔物達が描かれている柱が立ちならんでいる。

「町の真ん中にこんな屋敷を建てるわけにはいかないからね、外観には魔術を施してあるよ、無効化は屋敷内部だけね。俺より強い魔力をもったやつは沢山いるから強い魔力で守るより無効化する方が魔物を追い払えるんだ。肉弾戦ならキマイラの右にでるやつはいないしね」

そう言うと穂純くんはニッコリ微笑んだ。


ナギ様、全然活躍してないw 男ならそこは、どかんと守るところだろ。でも、ナギ様だから仕方ないですw 次回こそは、がつんと格好いいところをお見せできるといいのですがw

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