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魔法使いと私  作者: りきやん
お互い歩み寄りましょう

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22

思わず零れた呟きに、私の身体を掴んでいた手がピクリと反応する。


「なんでお前が知ってるんだ?」

「今、見た・・・。銀髪の魔女が、あなたたちのところに来たの・・・?」


恐怖で震えていたはずなのに、ぴたりとそれが止んだ。

私は我を忘れてベルントに食ってかかる。


「教えて!そいつは、銀髪で赤目だったの?あなたたちのところにいた人間を殺したの?!」

「ちょっと待て」


勢いで浮いていた上体を、容赦無く床に叩き付けられたせいで痛みが走るが、それよりもまず、銀髪の魔女のことについて知りたかった。

ベルントは黙り込むと、スッと双眸を細める。

先ほどまで上がっていた口角は、今では横に引き結ばれ、眉間には皺が寄せられていた。


「お願い!何でも良いから!教えて!」

「俺の質問に答えろ。なんで、そのことを知っている?」

「あなたの記憶を見たから」

「記憶を見ただぁ?」

「ハルさんと、地下牢みたいなところで話してた。床に人間が転がってて、その人たちを殺したのはハルさんだって、あなたは疑ってた」

「・・・化け物かよ」


ぽつり、とベルントが呟く。

勝手に、化け物でも幽霊でも、何とでも勘違いしておけばいい。


「俺は知らねぇ。ハルが勝手に言っていたことだし、あの件に関しては、ハルがやったことだと思っている」

「違う、ハルさんは、やってない・・・」

「そんなこと、お前に分かるはずねぇだろ?」

「違う!銀髪の魔女がやったに決まってる!」

「で、その魔女はお前の何なんだ?」

「あの人は・・・!私のパパとママを殺した・・・っ!それに、師匠まで奪おうと・・・っ!」


へぇ、とベルントは口の端を上げて笑う。

再び首筋をべろりと舐め上げられて、ぞわりと鳥肌が立った。


「んぅ・・・っ」

「お前、美味そうなんだけどなぁ。変な力や余計な魔力を持ってる人間って、腹壊しやすいんだよな」

「そんなこと、どうでもいい!知ってる事、教えて!あの魔女はどこにいるの?!」


激高した私に、ベルントはやれやれと言った風にため息をつく。


「残念だけど、さよならだ。人間風情がヴァンパイアに楯突いたのが運の尽きだったな」


ぐ、と喉に圧迫感が加わる。

遠慮なく気道を圧迫してくる手を引きはがそうと奮闘するが、苦しさのせいで力が抜けて行く。

顔が熱くなり、かは、と空気が口から漏れた。

目の前にチカチカと光が飛び、真っ白なのか真っ暗なのかも分からない。


「大好きなパパとママのところに行けるぜ?良かったな」


耳鳴りがして、中でぐわんぐわんと音が反響している。

自分が息をしているのか、していないのかも分からない。

真っ暗になった視界に、ぼんやりと師匠の顔が浮かび上がる。

私が師匠がいなくなったことを悲しむように、師匠も私がいなくなることを悲しんでくれるだろうか?

深い緑色の髪に、金色に輝く美しい双眸が瞼の裏にちらつく。

何に対してかも分からずに、ごめんなさい、と心の中で謝ったときだった。

首の部分にあった重圧から解放されて、空気が一気に肺に送られてくる。

そして、身体を拘束し、圧迫していたツタがばさりと落ちた。

思わず咳き込んで床に蹲れば、後ろから優しく抱き起こされる。


「大丈夫か?リザ」

「し・・・」


師匠、と言いたかったのだけれども、言葉にならずに私は再び咳き込む。

涙と嗚咽を我慢することができない。

すかさず、背中をさすってくれる手に、縋りつくように身を寄せた。

そこにいるのは、間違いなく師匠だ。

けれども、見上げたその表情は、今まで見たどの顔よりも冷たく、獰猛な光を宿した目でベルントを睨みつけていた。


「ベルント・・・!あなたという人は・・・!」

「いってぇな!ふざけんな、てめぇ!」


聴覚の戻って来た耳に、ハルさんの固い声と、ベルントの罵声が飛び込んでくる。

師匠は私の身体に手を回して立ち上がらせると、2人から距離を取った。


「思い切り蹴ったので、痛いのは当たり前です」

「てめぇ、さっきまでくたばってた癖に・・・そこの人間の仕業か?」


ぐい、と顎で師匠を指したベルントに、ハルさんは頷く。


「残念ながら、あなたの勝てる相手じゃありませんよ」

「人間ごときにコケにされて、はい、そうですか。って帰れる訳ねぇだろが!」

「それでも、この方たちは関係ないでしょう!」

「Zavw pa!」


私の背後から発せられた聞き慣れない音に、私は思わず師匠を見上げる。

ハルさんもベルントも驚いたように口論を止めると、こちらを振り向いた。

表情が完全に抜け落ちた師匠からは、何を考えているのか全く汲み取れない。

けれども、怒っていることだけは全身から伝わって来た。

ギラギラと光る目が、射抜くようにベルントを睨みつけている。


「Jhu fvb buklyzahuk aopz shunbhnl?」


唸り、吠えるようなその響きに、身が強ばる。

それは、私だけではなかったようで、対峙していたベルントも驚愕の表情を浮かべて1歩後ずさる。

ハルさんは唖然とした表情で、凍ってしまったように動かない。


「それで?まだ続ける気なら容赦しないぞ」


いつもの師匠の声で、私にも理解できる言語。

そのことに安心した私は師匠のローブを掴むと、ピッタリとくっつく。

安心させるように頭を撫でられて、私はより一層、ローブを掴む手に力を入れた。


「お前・・・いや、あなたは・・・」


ベルントはもごもごと口を動かすと、臨戦態勢をとく。

そして、驚いたことにその場に膝をついて、師匠に向かって頭を垂れた。

あっけに取られる私を他所に、師匠はそれを鼻で笑っているし、ハルさんは肩を竦めている。

ベルントは立ったままのハルさんが気に食わなかったのか、歯を剥き出しにして怒った。


「おい、ハル!お前はどうしてそう、礼儀を弁えない」

「あなたのように、典型的なヴァンパイアではないので」

「そういうことじゃないだろ!あの言語は・・・」

「どちらでもいい、静かにしろ」


ぴしゃりと師匠が言い放つと、途端に2人とも口を噤む。


「さて、赤髪のヴァンパイア。リザにした仕打ちの代償、きっちり払う覚悟は出来てるだろうな?」


ベルントが返事をする前に、床から伸びたツタが彼を拘束する。

けれども、それに抵抗することもなく、ベルントはされるがままになっていた。


「ハルトムート、リザとシオン、スノウを連れて出てろ」


言われて、ハルさんは逡巡するようにベルントに視線を向ける。

けれども、目を閉じて、ゆっくりと長い息を吐き出すと、まっすぐ師匠を見た。


「分かりました。処罰はお好きなように与えてくださって結構です」

「塵ひとつ残らんぞ?」


その返答に、今度は私の心臓が冷える。


「ま、待って、師匠。それって、あの、命を奪う可能性もあるってことですか・・・?」

「そうだな」

「そ、そりゃ、酷いことされましたけど、何も・・・その、殺さなくても・・・」

「君は良くても、僕の気が収まらない」

「行きましょう、リザ」


ハルさんに、腕を引っ張られる。

握っていたローブがするりと手の中から抜けて行く。

師匠が、どこか遠くへ行ってしまいそうな気がして、この場を離れたくなかった。


「待って、師匠・・・!ねぇ!」


右手でシオンさんとスノウを抱え、ハルさんは左手で容赦なく私を引きずって行く。

必死に反抗するけれども、人間の男性にすら敵わないのに、ましてやヴァンパイアの男性に勝てるはずもない。

部屋の外まで連れて来られ、それでも開いた扉から、必死に師匠に呼びかける。


「師匠!」


師匠の金色の双眸が、こちらに向く。

けれども、そこから何かを汲み取る前に、ぱたり、と部屋の扉が閉まった。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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