19
家につくと、タイミング良くスノウが遊びに来ていた。
私がハルさんに羽根を分けてくれるよう頼むと、彼女は快諾してくれる。
「すごい・・・魔力が・・・」
ばさばさ、と頭の上を飛び回って頭上から羽根を数枚落とすスノウ。
その1枚を手に取り、まじまじと見つめてハルさんは感嘆の声を上げた。
「月光鳥が魔力を蓄えている、という話を聞いたことはありますが、実際にその恩恵を受けるのは初めてです」
「月光鳥は珍しいですもんね」
「それもありますが、普通、魔力というのはこれほど簡単に受け渡し出来るものではないのですよ」
初めて聞く話に、私が目を丸くすると、ハルさんは親切に教えてくれる。
「輸血と同じです。魔力を渡すときは、型が同じでないと、最悪の場合相手を死に至らしめます」
「でも、スノウは師匠にも、シオンさんにも魔力を分けたことがありますよ?」
「月光鳥の魔力は万人に適用できるのでしょう。助かりました」
ありがとうございます、とハルさんはスノウを撫でようとしたのか手を伸ばすが、それをするりと避けて、スノウは私の頭の上に収まった。
「おや・・・リザにしか懐いていないのですね」
「すみません、人見知り激しいみたいで。スノウ、ハルさんもシオンさんも怖くないよ?」
「ピィ」
「え、あ・・・そうなの?」
「なんて言うとるんや?」
「私が触るのは良くて、師匠が触るのは我慢出来て、後はダメだそうです」
「わがままちゃんやなー」
「それ、スノウに言ったらきっと怒りますよ?」
どうやら、私以外の言葉はスノウには分からないらしく、彼女は首を傾げているが、敢えて伝える必要もないだろう。
そんなやりとりをしている間に、ハルさんはシオンさんの左腕を取る。
「魔力も回復したので、治しますよ」
「せやから、気にせんでええって」
「でも・・・」
「また魔力足りんようなったら、どうないすんねん。何度もスノウに助けて貰える思たら大間違いやで?」
ハルさんは言い返せないと踏んだのか、押し黙るとシオンさんの左腕を解放する。
血の跡を拭ってみると、それなりに傷は塞がっているものの、かさぶたまではいかず、生々しい色をしていた。
「シオンさん、手当しますよ」
「よっしゃ!優しくしたってな!」
小さくガッツポーズをしているシオンさんに苦笑しながら、私は救急箱から消毒液とガーゼ、包帯を取り出す。
シオンさんにはソファに座ってもらい、ハルさんには暗くなって来たので部屋のランプを付けるようにお願いした。
「ちょっと我慢してくださいね」
一応、声をかけてから、私は消毒液を傷口に吹きかける。
びくり、とシオンさんの腕が強ばるが、さすがトレジャーハンターと言うか、肉体派というか、呻き声も上げなければ、顔も顰めなかった。
「シオンさんは、こういう怪我慣れてるんですか?」
「まぁなぁ。遺跡に行ったら、もっと酷い目に遭うこともあるで」
傷口にガーゼを当て、その上から包帯を巻いて行く。
決して器用ではないが、呆れる程不器用、というわけでもない。
それなりの出来で完成した包帯の巻き方を見て、シオンさんは嬉しそうに声を上げた。
「名誉の傷やな!」
「師匠が帰って来たら、治癒魔法かけてもらいましょう」
「えぇー?!」
「一瞬で治るじゃないですか」
「・・・リザちゃんに手当して貰ったって旦那に自慢したろ」
そんなこと自慢しても、たぶん師匠は鼻で笑ってあしらうだけな気がする。
盛り上がっているシオンさんを置いて、救急箱を片付けようと立ち上がった時、頭の上で大人しくしていたスノウがそわそわと動き出す。
「スノウ?どうしたの?」
「ピュイ・・・」
「え?何かって?」
「なんや、どないしたん?」
「それが・・・」
シオンさんに向き直って、スノウの言葉を伝えようとしたとき、部屋の明かりを点けてまわっていたハルさんが固い表情で戻ってくる。
「困ったことになったかもしれません」
「どうしたんですか?」
「ベルントが、こちらに来ているようです」
さっきまで、笑っていたシオンさんの顔が強ばる。
冗談ですよね?と言えたら、どれだけ良かったか。
それが、真実であることは、ハルさんの表情を見れば一目瞭然だった。




