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魔法使いと私  作者: りきやん
お互い歩み寄りましょう

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17

シオンさんとハルさんが来てから、数日が経った。

今のところ、ベルントが再び襲ってくる事も無く、私たちは平穏な毎日を過ごしていた。

けれどもその一方で、街ではちょっとした騒ぎになっているらしい。

シオンさんたちがベルントに襲われた夜、街中で魔法を使っていた、ということを言っていたが、その被害がかなり酷かったようだ。

師匠は連日、街の修繕に呼び出されて、家を空けていることが多くなった。

朝早くに出て行っては、夜遅くに帰ってくる生活が続いている。

今のところ、誰かが襲われたり、攫われたりするような事件は起きていないが、師匠はどうやらそれも警戒しているらしい。

人間の血を食料としているヴァンパイアが人攫いをすることは珍しくないのだ。

修繕に加えて、結界まで張っているので、さすがに疲労が蓄積しているようだ。

昨日の夜、珍しく、この仕事が終わったらしばらく休業する、なんてぼやいていた。

今回稼いだお金で、旅行にでも行くか?と聞かれたときは、ふたつ返事で了承したけれど。


今日も今日とて、師匠は仕事に出掛けている。

3人で大人しく留守番をしているものの、最近、シオンさんが私と師匠の仲について、いやに詮索してくる。

確かにね、以前に比べたらちょっと距離が近くなったかな、とは自分でも思っているけど。

それにしても、シオンさんは目敏い。

でも、顔を合わせる度に、師匠とはどうなのか、って何度も何度も何度も聞いてくるのはやめて欲しいかな!


そんなしつこいシオンさんに絡まれたくない、と思っていた矢先に、階段を下りたところで鉢合わせしてしまった。

捕まる前に逃げるが勝ち!と、シオンさんに背を向けると、自室に篭ろうと全速力で階段を駆け上がる。

けれども、身体能力が凄まじい彼に勝てるはずもなく。

私が2段程上がったところで、シオンさんは私を飛び越して更に上の段に飛び乗った。

魔法も使わずに、こんなに飛び上がることが出来るなんて、本当に意味不明だ。

彼の身体構造はどうなっているんだろう?

絶句していると、シオンさんにがっしりと肩を掴まれてしまう。

師匠にこき使われて、くたくたのはずなのに、こんなに動けるなんて、シオンさんはきっと、体力お化けなんだ。


「なぁなぁ?ええ加減教えてくれてもええやん?」

「だーかーらー!シオンさん、しつこいです!」

「教えてーなー?俺とリザちゃんの仲やろー?」

「だ、ダメです!教えません!」

「俺かてな、こんな詮索したないんや。せやけど、可愛ええ妹の未来の夫が誰だか知りたいっちゅーのは、自然なことやろ?」

「私、シオンさんの妹じゃないですよ?」

「つれないなぁ。そないな事言うたりなやー。妹みたいなもんやろ?ショートケーキ奢ったろか?」

「ケーキ!あ、いや、ダメです!ケーキ貰っても教えませんって!」

「ホールで買ったるわ。リザちゃん専用やで!」

「うっ・・・み、魅力的・・・!」


思わず頷いてしまいそうになる条件に、私は必死に抗う。

そんなとき、階下から天の声が掛かった。


「シオン、何をしているんですか?」


振り返れば、水色の髪を揺らしてハルさんがニコニコと微笑んだまま立っている。

私はこれ幸いとばかりに、彼に助けを求めた。


「ハルさん!シオンさんが、虐めてくる!」

「あ、リザちゃん酷い!」


シオンさんが手の力を緩めた隙に、私は駆け下りるとハルさんの後ろに隠れる。

ハルさんを間に挟んで睨み合う私たちに、彼は苦笑していたけれども、その声にあまり力が入っていない。

驚いたのは私だけではなく、シオンさんもだったようだ。

一旦、休戦するとシオンさんはゆっくりと階段を降りて来る。


「ハル、調子悪いんとちゃうか?」

「そんなことないですよ?」

「顔色悪いで」


シオンさんと一緒になって、私はハルさんに詰め寄る。

普段から白い肌だったけれども、今は青ざめているようにしか見えない。

ハルさんはじっと見られるのが嫌だったようで、逃げるようにリビングに滑り込んだ。

ここに来てから、調子の良さそうなハルさんを見た覚えが無いが、今日は輪をかけて酷いようだ。

相当具合が悪いと見た私たちは、後を追うようにリビングに駆け込む。


「ハル、ちょろちょろしてへんで、寝とき」

「いえ、大丈夫ですから」

「私、何か作りますよ?食べたいものありますか?」

「平気ですから。ちょっと、外の空気を吸ってきます」


ハルさんはそう言うと、少し辛そうな顔をしながらローブを羽織り、フードを被って外に出て行く。

普段なら考えられない程、愛想のない様子に私とシオンさんは思わず顔を見合わせてしまった。


「なんや、あれ。旦那の無愛想が移ったんかいな」

「様子、変でしたよね」

「最近、黙って出掛けることも増えとるしなぁ・・・」


シオンさんは顎に手を当てて、逡巡した後、にこっと私に笑顔を向けて来た。


「よし、リザちゃん。後を追うで」

「え?!そんな、人のプライベート覗くような事・・・」

「ええから、ええから。人やなくてヴァンパイアやし」

「そういうの、屁理屈って言うんですよ」


確かに、時折ふらりと出掛けてしまうハルさんのことは心配だ。

疑う訳ではないが、何をしているのか気になるというのもある。

あまり外へ出るな、と師匠に言われているが、遠くへ出掛ける訳ではないし、大丈夫だろう。

シオンさんと連れ立って、私はハルさんを追うことにした。


「なんちゅーやっちゃ。外の空気吸うレベルの運動量やあらへんで」


玄関を出たところで、シオンさんがそう呟く。

その目線の先を追えば、遠くに人影のようなものがぽつりと見えた。


「あれ、ハルさんですか?」

「せやろ。水色っぽいで」


私には、よくわからない影にしか見えないのだけれど・・・。

シオンさんは、運動神経だけじゃなくて、視力も相当良いようだ。


「あかんわ。全速力で行かな追いつけへん」


シオンさんが全力を出さないといけないなら、私が追いつくなんて到底無理だ。

自分の身体能力の低さ、いや、シオンさんの身体能力の高さを恨めしく思っていれば、ほれ、と腕を引かれる。


「ええか?しっかり捕まっとき」


引かれるままに、シオンさんの背に倒れ込めば、そのままおんぶされた。

慌てた私は、降りようと腕を突っ張るがシオンさんの手が足をしっかり掴んでいてそうはいかない。


「こないなとこ旦那に見られたら殺されるわー」

「じゃぁ、下ろしてくださいって!」

「一緒にハルを追いかけるんやろ?」


言うが早いが、シオンさんはすぐに走り出す。

とても人間が出すスピードとは思えない。

師匠に反重力魔法を掛けられて、飛ばされているのではないかと錯覚するくらいだ。

私は振り落とされてはたまらない、とシオンさんの首に手を絡める。


「シオンさん、本当に人間?」

「まごうことなき人間やで!それより、舌噛むから黙っときぃ!」


流れるように変わる景色は、だんだんと道を逸れて森の中への景色に切り替わる。

一体、ハルさんは森に何の用事があるんだろうか?


「ここら辺やと思うんやけど・・・。見失ってもうたか・・・?」


シオンさんは足を止めると、私を背中から下ろす。

急に速さが無くなったせいか、足元が覚束ない。

ふらふらしていたら、シオンさんが腕を支えてくれた。


「リザちゃん、魔法でハルの場所見つけられるか?」

「呪い晒しを森全体に掛ければ、可能だと思いますが、私には無理です」


私が出来るのは、せいぜい目の前の対象物に向かって使用するくらいだ。

可能な限り広範囲に及ぶような魔法が使えるはずもない。

走れない、魔法も使えない、のお荷物さ加減に、自分でも嫌になる。


「うーん、ちょっと歩いてみよか」


木の葉に日光が遮られるせいか、若干湿った地面を踏みしめながら、私たちは前に進む。

以前、シオンさんと2人で訪れた遺跡のある場所なんかよりは、ずっと浅いところなので、凶暴な魔物に出くわす心配もないはずだ。

スノウはいないのかな?と思って、上の方に視線を向けてみたけれど、さわさわと揺れる木がある以外、獣1匹見当たらない。

そこで、いつも聞こえる鳥の声や、魔物の嘶きが無いことに気付く。

耳を澄ましてみても、ざわざわと揺れる、人を不安にさせるような葉擦れの音しか聞こえなかった。


「なんか・・・いつもと違う気が・・・」

「そうかぁ?あんま変わらへんと思うけど」

「だって、音が・・・」


言いかけたとき、ずずっ、ずるっ、と何かを啜るような音が聞こえる。

森の中の音には相応しくないそれは、不気味に鳴り響いた。


「なんや・・・?」


ぽつり、とシオンさんが控えめに呟く。

目を細めて、必死に音のする方向を探しているようだ。


「こっちから聞こえるで」


やがて、探し当てたのか、シオンさんはそっと動き出す。

私も息を潜めて、その後に続いた。

音が近くなると同時に、見慣れた水色が目に入る。

ここに居たのか、と安心すると同時に、音の発生源は間違いなく彼だということに不安が募る。

うずくまるようにして地面に小さくなっているその背中に、シオンさんが恐る恐る声をかけた。


「ハル・・・?何しとるん?」

「・・・っ・・・シオン・・・?」


驚いて振り向くハルさん。

けれども、私たちはその彼の姿を見て絶句した。

べっとりと手に付着した赤色。

そして、口の端から垂れる、赤色。


『ヴァンパイアは血を糧とする生き物』


失念していた訳じゃない。

彼らの食糧が何か、きちんと理解していたつもりだ。

けれども、ハルさんは私たちと同じ食事を口にしていたし、血を求めることも無かった。

だから、どこか遠いところの話のように感じていただけだった。

ハルさんは、空気なんかじゃなくて、血を吸いに外に出かけていたんだ。

今まで、全く意識することはなかったけれど、やっぱり、彼は正真正銘のヴァンパイアだったのだ。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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