10
薄暗い部屋の中、月明かりが差し込む。
ランプの中で揺れる炎が、師匠の買ってくれたペンダントを照らし、反射した光が深い緑色となってあたりに散らばる。
その様子に師匠の髪色を思い出して、私の頬は自然と緩んだ。
初めてのデートは、想像していたものよりもずっと素敵で楽しいものだった。
そっとペンダントの石に触れてみると、不思議とじんわりとした温かみが手の平に伝わってくる。
普通の石とは違う物のようだ。
魔法具のお店で売っていたものなので、何かしら魔法に関するものなのだろう。
まさか、プレゼントをしてくれるなんて、夢にも思っていなかった。
これからは、毎日身につけようと心に決め、もう1度石を握り直し、その温度を感じてから、アクセサリーボックスにしまおうと、箱の蓋を開く。
「え・・・」
けれども、開けた途端に溢れた赤い光に、私の手が一瞬止まる。
よくよく見てみれば、シオンさんにもらった赤いペンダントが光っている。
いつになく薔薇の形が浮き彫りになり、くっきりとその影を落としているけれども、不思議と怖いとは思わなかった。
机にそっと師匠からもらったペンダントを置き、代わりに赤い光を放つそれを手に取る。
「どうして・・・」
無意識にそう呟き、師匠に見てもらおうと踵を返した途端、視界が真っ暗になる。
ランプの火が消えたのかと慌てて振り返るも、月明かりまで消えてしまうのはおかしい。
そのうちに、ぼんやりと辺りに風景が広がる。
森の中にいるのだろうか?
はっきりと形は見えないが、木漏れ日のような光の筋があることから、昼間のようだ。
いつもの白昼夢に迷い込んだだけか、と私はほっと胸を撫で下ろす。
『シオン、これをあなたに』
聞き覚えのある名前を聞いて、びくりと肩が上がる。
声のした方を振り返れば、そこにはぼんやりと見覚えのある形が2つ。
茶色い髪に赤い服を着た人物は、おそらくシオンさんだろう。
そして、フードを被った怪しい人物は、きっとハルさん。
最初の頃に比べると、ずいぶんとはっきり輪郭がわかるようになってきている。
それでも、未だに水の中で眼を開けたときのように、ぼやけてはいるけれど。
『なんやこれ?えらい綺麗なペンダントやなぁ』
『助けてくれたお礼です』
『貰ってええんか?』
『もちろん』
シオンさんはそれを持ち上げると、光に透かして見つめる。
『石の中に薔薇の模様が入っとる・・・』
『石に魔力を込め、少しずつ内側から削るとそういう柄を刻むこともできるんですよ』
『魔石とちゃうん?特殊な魔法でも使えるようなるんか?』
『残念ながら、魔石でもないですし、私が近づいたら光るくらいの魔法しかかけてません』
『なんやそれだけかいな。ま、でも、高う売れそうやな・・・。売っても構へんか?』
『どうぞあなたの好きにしてください』
小さく笑い声が零れる。
どうやら、ハルさんが苦笑を漏らしているようだ。
あまりに明け透けなシオンさんの言動に、私も思わず笑ってしまう。
景色が遠のく。
シオンさんとハルさんの姿が滲むように溶けて行き、気がつけば私は自分の部屋で突っ立っていた。
月明かりと、ランプの火が暗闇に光を注いでいる。
「やっぱり、友達だったんだ」
手の中で緩やかに赤い光を放つペンダントをぎゅ、と握る。
そうすれば、笑い合うシオンさんとハルさんの姿が瞼の奥に見えるような気がした。




