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魔法使いと私  作者: りきやん
何かが始まりそうです

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07

日も傾いた頃、私はティロと別れて家路についていた。

これから起こるであろう事を想像すると、太陽と一緒に気持ちも沈んで行くようだ。

そんな私を慰めるように、スノウが頭の上で小さく鳴く。


「ありがと、スノウ」

「ピ」


啖呵を切って師匠に楯突いたはいいけれど、後のことを全然考えてなかった。

というより、師匠にここまで反抗したのは初めてかもしれない。

今までなら、怒られることを覚悟で出掛けようなんて思いすらしなかったし。

友達っていうのは、師匠に逆らう程の原動力をくれる存在なのだろう。

そこまで考えて、師匠がルーカスさんにあれほど怒りをぶつけたのは、やはり、アルノーさんが師匠にとって大切な友達だったからなのかな、と考える。

それと同時に、師匠をあんなにまで感情的にすることのできるアルノーさんという存在が少し羨ましく思えた。

師匠は、もし、私に何かあったら、あそこまで必死になって怒ってくれるのだろうか?

仮に、私が死んだとしても、平然とした表情を浮かべている師匠を想像して一気に心が沈んでしまった。


家の屋根が見えてくると、スノウは飛び上がり、私の頭上を何度か旋回して森へ帰って行く。

それに向かって、ばいばい、と手を振ったけれど、本当は一緒に家の中まで入って欲しかったな、なんて。

たぶん、彼女はこれから師匠の雷が落ちるであろうことを予想して、逃げ帰ったんじゃなかろうか。


私は心細さを感じながら、そっと家のドアを開ける。

もしかしたら、玄関で師匠が仁王立ちして待っているのではないかとヒヤヒヤしたが、そんなことはなかった。

ほっ、と肩の力を抜いて、私は家の中に上がって、自分の部屋へと向かう。

いつもなら、大きな声で「ただいま」と言うんだけれど、今日は何も言わない。

できれば、師匠と顔を合わせたくなかったし、合わせるとしても出来るだけ先延ばしにしたかった。

玄関のすぐ横にある階段を、音を立てないようにそっと登る。

部屋に閉じこもってしまえば、こっちのもだ。


「リザ」


と思ったのも、束の間。

リビングから、とても低い声で呼びかけられて、私の肩が跳ね上がる。

階段を登る足を止めて、ゆっくりと振り返れば、そこには魔界の王様と言われる魔王ですら裸足で逃げ出すんではないかと思われるような形相の師匠が立っていた。

鋭く細められた目が、無言でリビングまで降りて来い、と圧力を掛けてくる。

階段の上に立っている私の方が、高い位置にいるはずなのに、なぜだか逆に見下ろされているような感覚になるのが不思議で仕方ない。


「リザ」


私が黙って、止まったままでいたのに苛立ったのか、師匠が再び名前を呼ぶ。

今度こそ動かないと、無言詠唱で階下まで引きずり下ろされる羽目になりかねない。

私は仕方なく、のろのろと段差を降りて行く。

向かい合ったは良いが、まともに師匠の目を見る事ができずに、床の木目を見つめていれば、ぐい、と顎を持ち上げられた。


「昨日、僕が言ったことを覚えているか?」

「・・・外に出るなって言われました」

「それで、君はどうしたのかな?」

「外に・・・出ました」


つ、と細められた金色の双眸が剣呑に光る。

私は少し怖くなって半歩引いたが、師匠も追いつめるようにして半歩前に出てくる。

それにまた、私が半歩引いて、師匠が半歩前に出る。

そんなことを繰り返して、じりじりと後退していると、背中に壁が当たってしまう。

思わず視線を上げてしまえば、いつものように意地の悪い笑みを浮かべるでもない、完全に無表情の師匠がそこにいた。


「君は、どうして僕の忠告を聞けないんだ」


抑揚なく発せられた無感情な声音に、冷水を浴びせられたように心臓が冷えて行く。

嫌われたかもしれない、そう思った瞬間に頭が真っ白になって何も言い返せなくなった。

師匠は何も答えない私に業を煮やしたのか、だん、と顔の両脇に手をつく。

耳元で鳴った大きな音に、私は思わず身を竦めた。


「自分の身もろくに守れないくせに」

「別に、危ないことしに行ってる訳じゃないです」


からからに乾いた喉で何とかそれだけ告げて、視線を下にやった。

けれども、もう一度顎を掴んで正面を見るように強制される。


「君が危ない事をしに行っている訳ではなくても、周りの人間は君に危害を加えようとしているかもしれない」


そんなことを言ったら、どこにも出掛けられなくなってしまうじゃないか。

心の中ではそう反論したけれども、口に出す勇気は無かった。

怒られるのも怖かったし、何よりこれ以上嫌われるのも怖い。

師匠は顎を掴んでいた手を放すと、やはり、抑揚のない声色で話を続ける。


「図書館に行くのはもうやめるんだ」

「え・・・」

「アルノーのことなんて知らなくても何の支障もないだろう?」

「で、でも・・・!私はアルノーさんのことが・・・!」

「どうしてそこまでアルノーにこだわる?」


そう問われて、私は答えに詰まる。

どうして、私はアルノーさんのことを知りたいの?

アルノーさんを知ることは、一体何につながるの?

アルノーさんは師匠の友人で、私は師匠に一体どんな友達がいるのか知らない。

そう、アルノーさんを知ることは・・・。


「黙っていては分からない。言いたいことがあるならはっきり言え」


師匠がいつになく命令口調で、私に言葉を浴びせる。

けれども、言葉が喉につっかえて出て来ない私は、師匠の言う通りにすることができない。

たどり着いた答えを口にするのは憚られたし、かと言って、何か他に良い理由も浮かばなかった。

私は口を閉ざしたまま、俯くだけで精一杯だ。


「もういい。勝手にしろ」


沈黙を破り、降って来た言葉に、身が硬くなる。

す、と師匠は身体を離すと踵を返してリビングのソファへ戻って行った。

私はその後を追う事もできずに、呆然と見送るだけ。


嫌われた。


ただ、漠然とその言葉が頭の中でくるくると回っている。

どこかで、師匠は私が何をしても嫌いになるはずがない、と思っていた。

それはとんだ思い込みでしかなかったことに、どうして今まで気づけなかったのだろう?

そもそも、私にとって師匠は命の恩人でも、師匠にとっての私は拾って来て世話をしてやってるだけの小娘にすぎないのだ。

いつ切り捨てられても可笑しくない、ということをどうして忘れていたのか。


私はリビングにいる師匠の後ろ姿を見つめる。

心臓がぎゅ、と締めつけられたように苦しくなり、逃げ出すように自室へと戻った。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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