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魔法使いと私  作者: りきやん
何かが始まりそうです

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03

「ティロさんは・・・」

「ティロでいいよ」

「じゃ、じゃぁ、ティロは図書館に詳しいんですか?」

「敬語もいらないよ。リザ、ボクと同じくらいの年でしょ?ちなみに、ボクは17」

「あ、同い年だ・・・」


年の近い人と接するのは初めてで、少しだけドキドキする。

もしかしたら、生まれて初めて友達というものができるかもしれない。

パパ、ママと暮らしていた時は、辺境の地に住んでいたせいか、まわりに同じ年の子供は誰もいなかったのだ。

師匠と暮らし始めては言わずもがな。


「じゃ、敬語もさん付けもなしで。ボクも使わないから」

「う、うん」


ティロは見た目の割に、結構さくさくした話し方をする。

もっと、おっとりした人なのかと思っていたけれど、どちらかというとキリッとした出来る人、という感じだ。


「ボクも普通の学生並みには図書館に来るよ。詳しいって程ではないけれど、ジャンル分けされている区画くらいは何となく分かるかな」

「ジャンル分け?・・・あ、料理なら料理、とか魔法なら魔法って分かれてるってこと?」

「そうだよ。魔法に関しては、呪文に歴史に薬学に、もっと細かく分かれてるけど。ていうか、リザは、本当に図書館に来たことないんだね」


あまり大きな声で話すと目立ってしまうためか、ティロはくすくすと忍び笑いを零す。


「リザは、勉強しないの?うちの学校の生徒ではなさそうだけど、同い年ならもうすぐ卒業だし、論文とか書かないといけないんじゃない?」

「あ、ううん。私、学校に通ってないから」


学校がどういう場所かは物語の中でしか読んだ事がない。

ティロが学校に通っている、と聞いて、私は少し羨ましくなった。

師匠に教えてもらっているから、読み書きはもちろん、数学やら語学やら何まで一応は知っているけれど。

それでも、同じ年の子が沢山通っていて、一緒にご飯を食べたり、帰りに遊んだり出来る環境に少しだけ行ってみたかった。

一方、ティロは私が学校に通っていないという事実に大変驚いたようだ。

御丁寧に足を止めて、こちらを振り返る。

その顔には驚愕の表情が浮かんでいた。


「え?じゃぁ、下級学校だけ出たの?」

「違うの。学校に通ったことないんだ」

「そうなんだ。まぁ、学校に行くのは義務じゃないし、どっちでもいいとは思うけど」

「本当は通ってみたかったんだけどね。でも、師匠が全部教えてくれるから、ある程度のことは知ってるよ」


再び歩みを進めながら、私たちはぼそぼそと会話を続ける。

ふと、横を見てみると、呪文書が並んでいる。

どうやら、魔法に関する本が置いてある区画に来たらしい。


「師匠?家庭教師のこと?」

「うーん・・・家庭教師ではないと思う・・・。一緒に住んでるし、師匠は師匠だよ」

「へぇ。何を教えてもらってるの?」

「呪文とか、ルーン文字とか、薬学とか・・・大雑把に言えば、魔法まわりのことかな」


ティロが足を止めるのに合わせて、私も足を止める。

一冊の分厚い本を棚から抜き取り、それを手渡してくれた。

表紙には「魔法使いの栄華」と書いてある。

革張りの装丁はいかにも高級そうで、自分のお小遣いではこんな本は買わないだろうな、と思った。

絶対に高い。手も足も出ないような値段に決まっている。


「はい、これにアルノーが載ってると思うよ」

「ありがとう」

「いえいえ。それで、さっきの続きだけど、リザはそうすると、魔法使いなの?」


眼鏡の奥の灰色の瞳が、好奇と期待の色を含む。

私は肯定するべきか否定するべきか迷った。

とてもじゃないが、自分の魔法のレベルでは魔法使いと名乗れるようなものではない。

でも、ばっさり否定してしまえば、自分は師匠の元で何を学んでるのか、ということになってしまう。

仕方ないので、私は当たり障り無く答えることにしておく。


「あー・・・うん・・・まぁ、少しは使えるけど、どっちかっていうと、知識的な内容だったり、薬作ったりする方が得意かな」

「そうなんだ!ボクも、魔法は使えないんだけど、魔法史に興味があってさ」

「魔法史?」

「あぁ。歴代の魔法使いの所業などについて研究してるんだ」

「だから、アルノーさんのことも知ってたの?」

「そうだね。魔法史専攻の人間じゃないと、アルノーなんて知らないのが普通じゃない?マイナーすぎるし。最も、ボクが研究してるのはアイリスって魔法使いだけどね」


聞いたことのない名前に、私は首を傾げる。

そもそも、残念なことに、魔法史については、ほとんど知識がない。

師匠が魔法史が嫌いなのか、その辺のことは教えてくれなかったのだ。

嫌い、というよりは、興味がなかったのかもしれないが。

私が理解していないのを悟ったのか、ティロは説明を付け加えてくれる。


「ゴーストを研究していた人だよ。みんなは、ゴーストの謎を解明するなんて、鶏が先に生まれたのか、卵が先に生まれたのかを研究するのと同じようなもんだっていうけど。でも、不可能に近いことを解明しようと頑張る姿勢って、すごいと思うんだ」


楽しそうに話す様子から、ティロは本当にそのアイリスって人のことを尊敬しているんだろうな、と思った。

でも、ゴーストは頂けない。

私なら、まず、ゴーストを研究課題にする時点からして、ありえない。と思う。

そのアイリスって魔法使いはきっと、師匠みたいな怖いもの知らずだったに違いない。

もしかして、魔法使いって、みんな師匠みたいに意地悪で何物にも動じないような性格をしているのだろうか?


「ティロは、ゴーストのこと怖くないの?」

「さぁ?見た事ないから、何とも言えない。リザは見た事ある?」

「あるよ。あと、ちょっとだけ取り憑かれたこともある」

「えぇ?!」


しん、と静まり返った図書館にティロの素っ頓狂な声が響き渡る。

ちょうど通路を通ったひとが、驚いてこっちを振り向いたくらいだ。

その人は、あからさまに不機嫌な顔をしたので、私たちはすみません、と小さく謝って、再び会話に戻る。

声のトーンは、もちろん、さっきの半分くらいまで落とした。


「本当に?その話、聞きたいな!リザ、この後、時間ある?」

「うん、今日は暇だから大丈夫だよ。でも、夕飯作らないといけないから、16時には街を出るけど」

「十分だ。その本借りて、もっと大きな声で話せる場所に行こう」


私は手に持った本をぎゅ、と胸に押し付ける。

なんだか、友達ができたみたいだ。

そのとき、ビィ、とポケットからくぐもった声が聞こえて、私は慌てて押し付けた本を離した。

ポケットにスノウがいるのをすっかり忘れていた。


「ごめんね、スノウ!」

「ピ」


師匠が気に入らないことがあった時のような声のトーンで、スノウが鳴く。

もしかしたら、怒ってるのかもしれない。


「ごめんねって。次からは気をつけるから」

「ピィ」


そうしてよね、と言うように鳴いて、スノウは少しポケットの中でもぞもぞした後、じっと動かなくなる。

一連の流れを見ていたティロが、不思議そうにこちらを見つめている。


「リザって、動物と話せるの?それも魔法?」

「話せてる訳じゃないけど・・・魔法、なのかな?別に呪文とかを唱えたわけでもないんだけどね」


私たちは本を抱えて、図書館の入り口へと向かう。

本を借りる時って、何も言わなくても外に出ていいのだろうか?

先を歩くティロについて行きながら、私は不思議に思う。

けれども、その考えは間違いだったらしく、ティロは受付のようなところに向かい、そこに座っている人と話す。


「おはよう、ミラ。この子、図書館利用初めてなんだけど、手続きしてあげてくれる?」


ミルクティー色をした、驚くほど真っ直ぐな髪をした妙齢の女性が、私を一瞥する。

焦げ茶色の目は、何か言いたそうにしていたけれども、ふと視線を外すと彼女は目を伏せる。

長い睫毛に縁取られた、綺麗なアーモンド型の目だった。

彼女の完璧なまでに施された化粧には、一部の隙もない。

まるで、雑誌に出て来るような人だな、と思った。


「こちらの用紙にご記入頂けますか?それと、身分を証明できるものをご呈示くださいませ」


言われて、私はティロを見上げる。

ティロを見たからと言って、どうなる訳でもないのだが、今頼れるのは彼しかいない。


「何?」

「私、身分証とか持ってない!」

「え?あー・・・学生証もないのか。仕方ないな・・・」


ティロはカバンから財布を取り出すと、カードを一枚抜き取り、受付の、彼がミラと呼んだ女の人に見せる。


「ごめん、ボクので借りるよ」

「仕方ないですね。今回は大目に見てあげましょう」


ティロは私の手から本を取り上げると、ミラさんに渡す。

本とカードを受け取り、彼女はまず、ティロのカードに手を翳した。

ふわり、と青白い光が浮かび上がる。

それから、料理の本と分厚い革表紙の本にも同じように手を翳した。

どうやら、魔法の一種らしい。

右手の中指に嵌めた指輪が、カードや本に翳す度に発光するようだ。

一体、何の魔法だろう?

呪い晒しと何かを組み合わせて、本の情報を読み取っているのだろうか?


「はい、返却期日は2週間後です」


本とカードを受け取り、カードはティロに返す。

そして、手に持った本は鞄の中に大事にしまった。

2週間の間、借りていられるってことだろう。

それだけ時間があれば、この分厚い本も読み終わることができそうだ。


「期限は守ってくださいね。それと、ティロ」


ミラさんは、その形の良い目をつ、と細める。

途端に鋭く、尖った表情に私は少し怖じづいた。

どうやら、隣にいるティロも同じだったらしく、半歩後ろに下がっている。


「図書館では静かに。さっき、他の来館者の方から苦情がありました」

「ご、ごめん・・・」


慌ててまわれ右をして、たじたじになりながら、私たちは図書館の外へと出る。

敷居をまたいだ途端に、ティロが大きくはぁ、とため息をついた。


「言っただろ?」

「え?」

「ここの司書さん、めちゃくちゃ怖いって」


その言葉に、妙に納得してしまい、私は思わず吹き出す。

そして、ティロもつられるようにして声を上げて笑った。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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