01
アルノー=ブルーゲルとは、一体、どのような人物なのか。
師匠に尋ねても、全くと言っていい程この話題には取り合ってくれない。
先日のルーカスさんの元でや、シオンさんにぽろっと零した断片的情報を繋ぎ合わせると、アルノーさんは魔法使いで融合魔法が得意な人のようだ。
とすると、あの庭の不思議な木をくれたのはアルノーさんなのだろうか。
師匠の友人なんて、どうせ数少ないに決まっているので、私はそう推測している。
これで、師匠に友達が沢山いたらどうしよう。
「師匠ー」
ソファに座っている師匠の後ろから、ぎゅ、と抱きついてみる。
お色気作戦だ!と意気込んで、くっついてみたのだが、師匠は読んでいた本を閉じると、それはそれは何の躊躇いもなく表紙で私の顔面を叩いた。
「いたっ!」
「何度聞かれても、僕は答えないからな」
質問をする前にしっかり釘を刺されてしまい、私は何も言えなくなる。
それにしても、本当にこの人には容赦ってものがないな。
ちょうど本が当たった鼻と額を交互に擦りながら、不満たらたらである。
「なんでそんなに隠したがるんですか?」
「なんでもだ」
「やましい事があるとか?」
「そんなものはない」
「じゃぁ、夕飯にブロッコリー沢山入れてもいいですか?」
「君の部屋が消し飛んでもいいなら、どうぞ」
平然とした様子で切り返して来る師匠に、私は内心面白くない。
この師匠を動揺させられるようなことって、ないのだろうか?
アリーセさんのことについては、幾分か答えてくれるくせに、どうしてアルノーさんのことになると口を閉ざすんだか。
「アルノーさんって、魔法使いなんですよね?」
「さぁな」
分かりきった問いにさえ、この返答。
友達との話って、そんなに隠したくなるものなのだろうか?
残念ながら、友達と呼べる人物のいない私には分かりかねる。
師匠が「あいつほど強い魔法使いは見た事が無い」と言うくらいだから、きっと師匠よりも凶悪で、意地の悪い性格をした人なのかもしれない。
「アルノーさん、会ってみたいです。師匠の友達なんですよね?」
「しつこい」
「だって、師匠が教えてくれないから気になるんです」
「魔法でも何でも使って、僕から情報を引き出せば良い」
出来ないことを分かっていて、こういうことを言うのだから本当に底意地が悪い。
私が魔法を掛けようと詠唱でもしようものなら、たちまち無言のままツタか何かで拘束されてお仕置きされるに決まってる。
師匠に攻撃をするとは、良い度胸だな。とか何とか言って。
ここのところ、毎日のようにこういうやり取りをしているせいか、師匠は始終不機嫌な日が多い。
私がしつこいのも悪いけれど、一切口を割らない師匠も悪い。と、思いたい。
師匠も師匠で、訳の分からないことを言ったりするし。
つい昨日のことだったか、「アルノーさんに会いたい」と散々喚いたところ「君の口からその言葉が出るのは不愉快だ」と言われた。
なんで、アルノーさんに会いたがるのが師匠の不機嫌を買うのか分からない。
友達、というのは他人に会わせたくないものなのだろうか?
私はため息を吐くと、師匠から離れる。
ここで押し問答をやっていても、埒があかない。
魔法使い、というのであれば、もしかしたら魔法使い人物録に載ってるかもしれない、と思ったのだけれど生憎うちにはそんな本は一冊もない。
師匠自身が人物録に興味がないようで、というよりは、他人に興味がないようで、そんな本は買うまでもないと思っているに違いない。
魔法使い人物録を買おうか、とも悩んだ。
けれども、人物録なんか置いてある本屋なんてあの街に何軒あるんだか。
だいたいは、流行の恋愛小説や冒険譚、ファッション雑誌などしか置いてないだろう。
それに、あったとしても高いに決まっている。
お小遣いを貰っていない私には、とてもじゃないが手の出せる代物ではない。
そこで、ひとつ思い当たった場所がある。
本が沢山あって、タダで借りることのできる・・・そう、図書館だ。
行ったことはないけれど、本をいくらでも読む事ができて、無料で貸し出しをしてくれる素晴らしい施設らしい。
そこに行けば、魔法使い人物録くらい置いてあるだろう。
今まで何度か行ってみたいと思ったことはあった。
でも、あの威圧感のあるものものしい建物に入るのは気が引けたし、どうやって本を借りるのかも分からない。
師匠について来て、と言っても、意地悪な師匠は私を嘲笑って1人で行って来いと突き放すし。
けれども、今こそ図書館に行くべきじゃないのだろうか?
アルノーさんのことについて調べるなら、図書館に行って本を漁るのが一番良いに決まっている。
本を残しているくらいの人だし、何かしら手がかりがあるかもしれない。
むしろ、アルノーさんの書いた本が手に入るかもしれない。
私は意を決すると、ソファにいる師匠に話しかける。
「師匠!ちょっと外に行ってきます!」
「外?どこに行くつもりだ」
「街に下りるだけですよ」
「18時までには帰って来るように」
「はーい」
許可を頂いた私は、一度部屋に戻って服を着替える。
そろそろ肌寒くなってくる季節だ。
レースをあしらった流行りのチュニックに袖を通し、ハイソックスからタイツに履き替える。
以前、街に下りた時に師匠にせがんで買ってもらった洋服だ。
試着以来、初めて着てみるのだが、結構気に入っている。
さっと、髪に櫛を通して、薄く化粧をすれば、お出かけスタイルへと早変わり。
ハンカチとティッシュだけ入った鞄を引っ掴むと、私は階段を駆け下りてブーツを履く。
「いってきまーす」
「気をつけろよ」
そんな師匠の声を背に受けて、私は外に出る。
温かい日差しに、少し冷たい風が心地よい。
相棒はどこにいるのか、ときょろきょろすれば、ピィ!と挨拶をして飛んで来たスノウが私の頭の上に乗る。
「スノウも図書館、一緒に行く?」
「ピ?」
なにそれ?と言うように返ってきた鳴き声に、私は苦笑する。
「私もよく分からないんだ」
「ピィー」
1人では心細いけれど、スノウが一緒なら堂々と図書館に入れるかもしれない。
私は期待を胸に、街へと向かって歩き出したのであった。




