06
来客は突然だった。
私と師匠が朝ごはんを食べ終えて、のんびりしていた時に、カランコロン、とドアのベルが鳴る。
師匠は面倒そうに立ち上がったけれど、ドアを開ける時には満面の笑みを貼付けていた。
にこにこにこにこ。
いつ見ても思うけど、本当に詐欺だよね、これ。
「こんにちは。今日はどういったご用件で?」
「あ、あぁ…あなたが魔法使い様ですか?いえ、ちょっとお伺いしたいことがありまして…」
聞いた事ある声だ。
と思ってから、私はハッとする。
もしかして、この声はルーカスさんじゃないだろうか?
そっと玄関を窺ってみれば、大当たり。
やはり、黒い髪をぺったんこに撫で付けており、どう見ても薄く見せようとしているようにしか思えない。
ぽっこり出たお腹ももちろん健在だ。
「小さな女の子と、灰色の髪の少年を見ませんでしたか?」
「さぁ…生憎、見覚えが無いです」
「それなら、この辺に、花の沢山生えている場所とかありますかね?」
「花?」
師匠は訝しげに眉を顰める。
「花、ですね。そこの森の中に入れば、いくらでも生えてますけど」
「いえ、あの、ちょうど花畑のような、群生地があれば教えて頂きたいのですが」
花畑、か。
森の浅いところにちょうどそんな場所があった気がする。
後ろで私がそうやって悩んでいる中、師匠はにっこり笑みを浮かべてルーカスさんに伝える。
「申し訳ありませんが、僕には分かりかねますね」
「あ、ちょっと、師匠!私、知ってます!」
知らないと断言した師匠に、私は思わず口を出してしまう。
ルーカスさんは、私を見て、スノウを初めて見た時と同じように、あんぐりと口を開けた。
「君は、昨日の!」
「あはは、おはようございます」
「リザちゃん!いやぁ、また会えて嬉しいよ!」
ルーカスさんは大喜びで私の手を握ると、ぶんぶんと上下に振る。
スノウのことについて聞きたいんだろうな、と思いながら、私は苦笑を零した。
そして、視界の端で師匠が笑顔のまま額に青筋を立ててるんだけど、どうしよう。
そうだよね、どうして私が突然訪ねて来たこの人と顔見知りなのか師匠は知らないもんね。
興味がないだろうと思って、昨日の広場で見たものは師匠にほとんど話さなかったし。
「昨日の月光鳥のことなんだけどね、突然すまなかった!私も興奮しちゃってね、大人気なかったよ!今から、街に来ると良い。無料で私の魔物たちを見せて上げよう。その代わりに、あの月光鳥をまた見せてくれないかい?」
「えっと、あの、花畑は?」
「おっと、そうだった。それなら、花畑に案内してもらって、その後、街に行くというのは?」
何と返事していいのか分からず、師匠を見れば、珍しく助け舟を出してくれた。
「申し訳ないのですが、この子には、ちょっとした用事を頼んでるので、僕が案内しましょう」
「それなら、また日を改めて、会いに来ることにするよ」
ルーカスさんは残念そうに眉を下げる。
う、うん・・・。
用事とか別にないんだけど、正直、この勢いのルーカスさんと一緒にいるのはあまり喜ばしくない。
最初に会った時のように、落ち着いてくれていれば、別に構わないのだけれど。
「リザ、その花畑はどこに?」
師匠にそう聞かれて、私はうーん、と頭を捻る。
確か、スノウに案内してもらったんだけれど。
自分でも行けるように、目印は覚えていたはず!
「えっと、確か、森を道なりに進むと、途中で大きな松の木が生えている場所があって、そこの周辺にユキヤナギが1株あるんですけど、それに向かって直進するんです」
「道を外れるってことか?」
「はい…あ」
師匠に言ってしまってから、しまったと思った。
道を外れると、魔物と遭遇する確率が高くなる。
なので、1人で森に行くときは、道沿いに進めって言われているんだった。
「あとで、詳しく聞くからな」
にこにこ笑顔のまま、そう言われて、私はあはは、と冷や汗をたらしながら笑みを返す。
数秒前の口を滑らせた自分を殴りたい。




