03
夜、ベッドに潜って、さぁ、寝ようとしたときだった。
コツン、と何かが窓に当たる音がした。
最初は空耳だと思って、無視をしたのだ。
けれど、その音は止むことなくコツン、コツン、と断続的に聞こえてくる。
これだけしつこくはっきりと聞こえる音を、さすがに無視することができなくなって、私はそっと窓の外を盗み見てみた。
ま、まさか、ゴーストとかじゃないよね・・・?
恐怖におののきながら、私は桟に手を置いて窓から外を覗く。
・・・誰の姿もない。
やっぱり、気のせいだったのだろうか?
そう思って、再び布団の中に引っ込もうとしたとき、窓にコツン、と石が当たる。
「うわっ」
驚いて、窓から飛び退き、外をじっと見つめる。
誰か居る。
誰かが、私の部屋の窓に石をぶつけている。
こういうときは、不用意に窓を開けてはいけない。
もし、ゴーストなら呼びかけに応えて招き入れるのと、同じだからだ。
と、師匠に以前教わった。
私は窓からもう一度、外を覗く。
上、は空に溢れんばかりの星が瞬いている。
右、は花壇があるだけ。
左、は例の師匠の友達から頂いた木がある。
下、は・・・。
「え」
私はそこにいる生き物の姿を確認し、思わず固まる。
ふわふわした金色の髪。
青くぱっちりした目。
そして、レースをあしらったひらひらの洋服。
どこからどう見ても、女の子、がそこにいる。
ただ、どうにも不可解なことに、彼女の身長は私の膝下半分くらいまでしかない。
とりあえず、幽霊でないことに私はホッと胸を撫で下ろして、彼女を見つめる。
彼女も私を見ているようで、視線がかち合った。
どうしよう。
・・・そんな時は、困った時の師匠頼み!
私は部屋から走り出ると、リビングに向かう。
この時間はまだ、師匠はソファでごろごろしながら本を読んでいるはず!
「師匠!師匠!師匠!」
「うるさい」
案の定、師匠はソファに寝転がって本を読んでいた。
そして、いつも通りこちらには目も向けてくれない。
「師匠、外に女の子がいるんです!」
「そうか、良かったな」
「良かったなじゃなくて!どうしましょう!」
「放っとけ」
師匠は心底どうでもいいのか、寝返りを打つと、ソファの前面に立つ私に背を向ける。
でも、もし、迷ってここまで来たのだとしたら、あんな小さな子を放っとくのは気が引ける。
「ねぇー、師匠ってば!一目見るだけでも!」
くぃっと服の裾を引っ張るけれど、師匠は無反応を貫き通す。
アテにしていた師匠がこれなので、私はため息をついて肩を落とすともう一度あの子の様子を見に行こうと立ち上がった。
その時、こつり、とリビングの窓に何かが当たる音がした。
・・・もしかして。
「し、師匠!今の音!」
「音がどうした」
コツン、と再び窓に石が当たる音がする。
あの子が、私の部屋の側からこちらに回って来たのだろうか?
私が何か言う前に、またコツン、と音がする。
「ほら!聞こえましたよね!?」
「・・・はぁ」
師匠はパタリ、と本を閉じると面倒そうに立ち上がる。
やっと動いてくれる気になった!
私もひょこひょこと師匠の後に続き、一緒に窓から外を覗く。
そこには、やはり、あの小さい女の子がいた。
「・・・なんだあれは」
「なんだって、女の子ですよ!私が言ったじゃないですか!」
「あれは人間か?」
「まぁ、人間にしては小さすぎると思いますけど」
師匠は顎に手を当てると、うーん、と唸る。
そして、くるりと踵を返すと、玄関へと向かった。
「リザ、君は中にいるんだ。万が一、ゴーストだったら面倒だからな」
「はーい」
師匠の言いつけに素直に返事をする。
私だって気になるけど、危ないことに首を突っ込もうとは思わない。
だいたいにして、師匠1人でやる方が早く片付くし。
そう思ってから、私は深くため息をつく。
こんなことだと、いつまで経っても成長しないのは分かっている。
自分でも、嫌になるくらい師匠に甘えてるなぁ、と思った。
私は再び窓の外を見る。
小さい女の子は、相変わらずじっとこちらを見つめていた。




