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前門の師匠、後門の師匠。
何がどうなってるのか、さっぱり分からない。
2人の対象が私じゃなく、お互いだからいいものの。
挟まれていて、あまり気持ちのいい状況ではない。
「夢魔ごときが、僕に勝てるとでも思ってるのか?」
私の後ろにいる師匠が、ぼそりと呟く。
地獄から聞こえてくるのかと耳を疑う程に低い声。
怒ってる。
めちゃくちゃ怒っていらっしゃる。
「リザの生気、返してもらうぞ」
瞬間、目の前にいた師匠がぐっと呻き声を上げて、倒れる。
「師匠!」
後ろにいるのも師匠だけれど、さっきまで話を聞いてくれていたのは目の前で苦しんでいる師匠だ。
私は手を振りほどこうともがくけれど、後ろの師匠の力が緩む気配はない。
「放して!師匠が!」
「馬鹿娘!よく見ろ!」
怒鳴られて、思わず身が竦む。
けれども、その直後、視界に入って来た光景に絶句した。
目の前にいた師匠の身体が歪に揺れる。
そして、白く光ったかと思うと、それは形を無くし、無数の光となって辺りを漂った。
そう、師匠と一緒に見た魂の残骸。
色とりどりに輝きながら、ふわりふわりと辺りを漂う。
「な、なに・・・」
私の身体に腕を回している師匠の服を、ぎゅ、と握る。
それに応えるように師匠の腕の力も強まった。
辺りを漂っていた光は、こちらへ向かって来たと思うと、溶け込むように私の身体の中に入って行く。
その光景があまりにも不気味で、私は後ろにいる師匠を振り返った。
かちり、と合った視線に、師匠はふっと笑みを浮かべる。
「心配するな。それは、もともと君の一部分だ」
「で、でも、これは師匠で・・・あなたも師匠?」
「僕が君の師匠だ。さっきのあれは、魔物。君を惑わせ生気を吸っていた夢魔だ」
「夢魔・・・」
知っている。
夢の中に現れて、人間から生気を吸って行く魔物だ。
人の精神に打撃を与えるような夢を見せ、夢を見る度にその人間の生気は夢魔に吸われて失われて行く。
夢魔に形は無く、寄生した人間の記憶から姿を借り、その人の魂を食べ尽くすと、次の人間へと移るのだ。
非常に珍しい生き物で、夢魔の被害件数は数えられるくらいしか記録されていない。
けれども、自身をしっかり保てる者であるか、誰かに『夢見の魔法』を使ってもらい、夢に介入してもらえば退治するのは簡単である、と報告されている。
「もう少し遅かったら、君の魂は全て抜き取られているところだった。間に合って良かった」
そう言うと、師匠は向き合うように私を抱きしめる。
その身体が、少しだけ震えているような気がした。
「これから、君に現実を見せないといけない」
「え?」
「元通りに戻すには、きちんと思い出さないといけないんだ」
「でも、夢魔は倒したんじゃ・・・?」
師匠はそっと目を伏せると、首を横に振る。
「君は、自分が住むべき世界がどちらなのか、分かっているかい?」
私が住む世界なんて決まっている。
それは、師匠と・・・師匠と?
師匠と、パパと、ママと?
師匠と、私と、スノウと?
どちらが、私の本物の世界?
固まったように動かない私に、師匠は悲しそうに微笑みかける。
「夢魔に襲われた後の後遺症、夢と現実の区別がいつまでもつかないのは良くない」
「師匠・・・私は・・・」
「君が自力で夢魔を追い出してくれるなら、それが一番だった」
師匠は私の身体を離すと、とん、と私の眉間を押す。
「本当なら、これだけは見せたくなかった。・・・リザ、すまない」




