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魔法使いと私  作者: りきやん
昔を思い出しました

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32/150

04

がちゃり、と扉の開く音で目が覚めた。


「いつまで寝てるんだ」


眉を顰めながらノックもなしに部屋に入ってきた師匠を、私は布団にくるまったままぼーっと見つめる。

朝からご機嫌斜めな師匠の顔を見ても、私はそれに危機感を覚えることもなければ、どこか違う世界のものを眺めているような気持ちだった。

目が合っても何も返事を寄越さない私を不審に思ったのか、不機嫌顔が少しだけ怪訝な表情に切り替わる。

あの後、何も夢は見なかった。

けれども、眠った気がしない。

まるで、徹夜した時のように目の奥がじんじんと痛む。


「師匠」

「なんだ」


つかつか、とベッドの縁に寄ってきた師匠の服の裾を掴む。

普段なら、すぐさま手を振り払われただろう。

けれども、師匠は、はぁ、とため息をひとつつくと、そのままベッドに腰掛けた。

座った師匠の腕に縋れば、空いている方の手で頭を撫でてくれる。


「また、夢を見たのか?」

「・・・はい。でも、昨日とはちょっと違う夢でした」

「どういう風に?」

「本当に起きたこととは、ちょっと違うんです。本当に、少しだけ。パパもママも結局死んじゃうから結果は一緒なんですけど」

「君は、それが夢だということを、きちんと自覚・・・してるんだよな?」

「そりゃ、もちろん。でも、匂いとか感触とかやけに生々しくて・・・。本当にそこで起きてるような・・・」


やわやわと撫でてくれる師匠の手が気持ちよくて、私はうつらうつらとし始める。

師匠が側にいてくれるなら悪い夢も見ないような気がして、安心したのだろうか。

ほっとしたせいで、全身から力が抜ける。


「リザ。聞くんだ」


どこか固い師匠の声が凛と室内に響き渡る。

私は遠くでその声を聞いているように、ふわふわとした気持ちで返事を返す。


「なんですか?」

「君は魔物に取り憑かれているかもしれない」

「え?」


あまりに突然の内容に、私は一瞬意味が理解できなかった。

師匠は撫でていた手を止めると、私と向かい合うようにこちらを見る。

金色の双眸は相変わらずギラギラと輝いていて、いつになく真剣なその表情に私は少しだけ怖じけづいた。


「僕が今すぐその原因を取り除くこともできるが、出来ればしたくない」

「そんな・・・どうしてですか?」

「君の気の持ちようで追い払える魔物だからだ」


それは、自力で追い払えってこと?

いつだって、私のことを助けてくれていた師匠に見捨てられたような気がして、ちくり、と胸が痛んだ。


「夢の中は、夢の中の出来事。君が今、生きているのは、この時間、この空間であることを忘れるな。僕から言えることは、これだけだ」


何を当たり前のことを、と笑おうとして、上手く笑えなかった。

だって私は「もし」のことを、沢山沢山考えていた。

もし、あの時、あの場所での出来事を、もう一度やり直せるなら、と考えていた。


そうだ。

私は他でもない、師匠の弟子で。

パパもママも、もういない。

森の側にある師匠の家に住んでいて、師匠とスノウと一緒に毎日を過ごしている。

師匠は意地悪で、スノウは可愛い。

魔法は苦手で、上手く扱えない。

けれど、動物や魔物と少しだけ意思の疎通ができる。

リザとは、そういう人間だ。

それを忘れて、夢の内容に気を取られるなんて。

助けてくれた師匠にも申し訳ないし、これでは、見捨てられても仕方のない話だ。


「いいか。しっかり、自分を保て。夢に惑わされるな」

「・・・」


私は無言で師匠の腰に抱きつく。

見捨てないで、と言う意味を込めて抱きついてみたのだけれど、無情にも師匠にぐい、と頭を押された。


「暑いから離れろ」

「・・・少しは優しくして下さいよ」

「僕はいつだって優しい」

「嘘だ・・・」


べりっと容赦なく剥がされて、私はベッドに倒れ込む。

けれども、そこから起き上がるのが億劫で、私はそのまま師匠に視線だけを向ける。


「師匠」

「なんだ」

「ごめんなさい」


私の謝罪に、師匠は深いため息を吐き、部屋を出て行く。

その後ろ姿を見送って、今度は私がため息を吐いた。


そうだ。

あれは、ただの夢なのだ。

ただの過去の夢。

怖がることは何もないはずなのだ。

だって、今、私はこうしてここで生きている。


それを忘れているのでは、師匠に見捨てられても仕方ないじゃない。

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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