感じませんでした?
真っ暗な地下では師匠が明かりを出してくれる。もちろん、市販のライトなんかより全然明るい。人の力って偉大。
「師匠とシオンさんが組んだら、最強のトレジャーハンターになれそうですね」
ぽつり、と思ったことを言えば、師匠が心底嫌そうに言葉を返してくる。
「遺跡を歩き回るなんて、今回限りで十分だ。僕は家で研究している方が性に合ってる」
確かに、言われてみれば、師匠は必要最低限しか外に出ないかもしれない。出掛ける時と言えば、薬草を摘みに行くときか、シオンさんのところに行くときか、食事の材料を買いに行くときくらいだ。
シオンさんはこれを聞いて隣でカラカラ笑っている。
「まず遺跡を粉砕する時点で合っとらへんわ」
「悪かったな、乱暴で」
「全然悪いと思ってないやろ」
シオンさんに賛成。
師匠は遺跡の一つや二つ破壊したところで、心を痛めることなんかなさそう。それに遺跡相手に心を痛めるような人ならば、私の嫌がる姿を見て、更にいじめようなんて発想はしないだろう。
「ここか」
しょうもない会話を交わしているうちに、私たちは例のドーム型の場所に出る。
シオンさんと来たときよりも明るいのは一重に師匠のおかげだ。師匠の作ったライトだと、地面に書いてある魔法陣もよく見える。
「うわぁ……こんな風になってたんだ……」
私は足下の魔法陣を見て感心する。
下は土になっているのだが、それに線を引いて魔法陣を描いているのではなく、色の違う土を使って陣を形成している。つま先でちょっと掘ってみたけれど、結構深いところまで色分けされているようだ。アイスボックスクッキーのように、掘っても掘っても同じ模様が出て来る。
「リザ、シオン。こっちだ」
円の中心に立った師匠に呼ばれて、私たちは大人しくそこまで行く。
何が始まるのか不安じゃない、と言えば当然嘘になる。
封印するって、どうやるんだろう?
『ルーニー……許さない……』
ぞわりと肌が粟立つような低い声。間違いない、あの化け物うさぎの声だ。
「し、師匠、声が……」
「すぐ終わるから黙ってろ」
短くそう言うと、師匠は私とシオンさんの頭をがっしりと掴む。
「おわっ……なにすんねん」
「師匠、痛い……」
「我慢しろ。いくぞ」
ぐんっと身体の芯が引っ張られるような感覚。内蔵が上に上がってくるような気分に、吐き気がする。わんわんとした耳鳴りの中で、やはりあの声が聞こえた。
『ルーニーラビット……許さない!』
渦巻く怒りに、自分自身が怒っているかのような錯覚に陥る。
けれど、違う。これは、私ではなく、ルーニーラビットたちの怒り。
――あぁ、そうか。
唐突に理解した。
ここは、人間に殺されたルーニーラビットを弔うための場所だったのか。殺されたルーニーラビットたちのお墓。あの化け物ウサギは、殺されたウサギたちの無念の集合体。
古来よりルーニーラビットは食用として捕えられ、その毛皮は冬を越す時のために、剥がされてきた。それでも、繁殖を続け増えすぎれば、人間が間引きの為に彼らをただ殺した。
長い歴史の中で、きっと最も命を軽く扱われた魔物。
そんなルーニーラビットを弔うために、心優しい誰かがこの石の祭壇を作って、地下にルーニーラビットのゴーストを封印したのだろう。そして、誰かが墓を荒らさないように、入り口にはあのガーディアンを仕掛けて。
『ごめんねぇ……許して頂戴……』
柔らかい声がふと耳に届く。
ノイズ混じりの映像に、一瞬だけ人のような影が見えた。
誰だろう? たぶん、女の人。
その人は、とても優しい人のようだった。
◆
ふっと師匠の手が離れ、ぐるぐると内蔵が掻き回されたように気持ち悪い。
「終わったぞ」
「うわ……吐きそう……」
封印というには、あまりにあっさりしているように見えるが、師匠だからこそなのだろうか。
「封印言うても、大層な儀式とかせぇへんねんな」
「僕が無言詠唱できるおかげだな。それと、リザの読んだ封印解除の呪文が未完成だったせいもある」
確かに、私は石碑にある文章を途中で読むのをやめた。
「もし、全部読んでたらどうなってました?」
「家に集まってきたルーニーラビットはもっと増えていただろうし、間違いなく人間を襲っていただろうな」
「え……」
あの温厚なルーニーラビットが人間を襲うなんて、信じられないが、万が一噛まれでもしたら、指は軽く千切れてしまうだろう。
「さぁ、帰るぞ」
もうここに用は無いとばかりに、師匠は踵を返す。
置いてかれては、ライトが無くなって真っ暗闇になってしまう。それは非常に困る。
真っ暗闇の中、こんな場所に一人きりなんて、想像しただけで鳥肌が立った。
私は慌ててシオンさんと一緒に師匠の後をついて行く。
「あの、シオンさん。封印の時に、女の人が見えませんでした?」
「女の人ぉ? なんや、身体ん中ぐるぐる混ぜられた感じしかせぇへんかったで」
「え、じゃぁ、ルーニーラビットたちが怒ってるの、感じませんでした?」
「んー……分からへんかったけど……」
首を傾げるシオンさんに、私も首を傾げる。
一体、どういうことなのだろうか?
私にだけ見えていたってこと?
もう一度あのノイズ混じりの映像を思い出そうとしたけれど、頭の中で思い描くことは出来なかった。




