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あれから数日後の話。
ルーニーラビットのお墓に花を添えて、家に帰って来た私はポストから手紙を取る。
あの一件で集まったルーニーラビットたちは、師匠が呪いの原因であるウサギのゴーストを封印してから散り散りになってどこかへ逃げてしまった。
ちょっと残念だったけれど、それが本来あるべき姿なのだ。
あと、シオンさんがご飯食べに来てくれたときは、結局何も聞き出すことが出来なかった。
師匠ってば口封じの呪文をシオンさんに掛けるんだもの!
そこまでして、私に聞かせたくないなんて、何かとても恥ずかしい秘密でもあるんじゃないかと勝手に想像している。
「あ、シオンさんからだ」
ポストに入っていた手紙は1通だけ。
宛名には『リザちゃん、旦那へ』と書いてある。
シオンさんは、あの時の宣言通りアリーセさんの元へと旅立った。
きっと、そこから手紙を出してくれているのだろう。
誰かから手紙を貰うのは、初めてだ。
私はわくわくしながら、それを持って家に入る。
「師匠ー!シオンさんから手紙ー!」
ソファに座って本を読んでいる師匠の隣に、私は滑り込むようにして座る。
いつもは目も上げないくせに、今日に限って師匠は本を置くと私の手から素早く手紙を取り上げた。
「あ、ちょっと・・・!」
「僕が先に読む」
いつもの不機嫌病だ。
シオンさんが絡むと、必ずこうなんだから!
眉根を顰めながら、師匠は手紙を開封して読み進む。
私も読みたいのに!
「あの馬鹿・・・」
はぁ、とため息をついた師匠は、私に手紙を差し出す。
受け取って目を通してみれば、そこには計算のメモ書きが乱雑に書かれているだけだった。
「・・・なんですか、これ」
「どうせ、手紙と計算用紙を間違えて出したんだろう」
「えぇ・・・」
初めての手紙だと思って、かなり期待していたのに。
手ひどく裏切られた気分だ。
「まぁ、これを見る限りでは元気にやってるんだろう」
「うー・・・シオンさん、早く帰って来ないかな」
私の言葉に、師匠が金の双眸を細める。
あー、また1段階不機嫌度が上がってる。
「もう、どうして師匠ってばシオンさんの話すると不機嫌になるんですか」
「なってない」
「なってますー。ていうか、シオンさんとは昔馴染みじゃないんですか。普通、仲良いものじゃないんですか」
「ほっとけ」
私はシオンさんの計算用紙を封筒にしまいながら、機嫌の悪くなった師匠横目で見る。
「なんだ」
「なんでもないですよーう」
師匠が不機嫌なら、私も不機嫌で対抗しようという新しい試みを試してみる事にする。
ぐでん、と師匠の膝の上に寝転がれば、間髪入れずに頭を軽く叩かれた。
「重い、邪魔」
「女の子に向かって重いとか酷い・・・。そんなんじゃ、アリーセさんにも嫌われちゃうんですから」
「君はまだそんなことを言っているのか」
師匠が笑うのに合わせて、膝に乗っている私も揺れる。
「アリーセに嫌われたところで、僕は痛くも痒くもない」
「ほんとですかー。だって、命の恩人なんでしょう?」
「命の恩人だろうが、関係ないよ」
「そうかなぁ?私は嫌われたくな・・・あ」
私はそこまで言って、自分の失言に気づいた。
師匠の命の恩人はアリーセさん。
でも、私の命の恩人は師匠。
命の恩人に嫌われたくない、イコール、師匠に嫌われたくない。
当然、その意味に気づいている師匠は、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべて笑っている。
失敗した。
恥ずかしくて、死にたい気分だ。
「リザは命の恩人に嫌われたくないのか」
「う・・・うぐぅ・・・」
ボスッ、と手近にあったクッションを引き寄せて私は寝転がったままそれに顔を埋める。
「もう一度言ってみろ。誰が誰に嫌われたくないって?」
「い、嫌です・・・」
クッションに顔を埋めたままでも、今の師匠の表情を思い浮かべることができる。
絶対、口元を歪めて、目を細めて、私が嫌がる様子を見てにやにやしているんだ。
「そっ、そんなことより、アリーセさんの話・・・」
「僕にとっては、そんなことの方が重要だな」
「もういいから、忘れて下さい・・・」
必死の抗議に、師匠は苦笑しながら、私の頭をぽんぽんと叩く。
「アリーセは孤児院の開設者であると同時に、偉大な召還術師だ」
「え?!魔法使いなんですか?!」
私はがばっと身体を上げて、師匠と向かい合う。
けれど、思ったより顔が近くて、反射的に仰け反ってしまうと、バランスを崩してソファから落ちそうになった。
「・・・何をやってるんだ、君は」
「すみません・・・」
師匠が支えてくれたからいいものの、落ちたら確実に頭をぶつけていた。
そのまま起こしてくれたので、私は大人しく横に座り直す。
「えっと、それで、アリーセさんは・・・」
「書物こそ残していないが、彼女はエルフを召還できる実力の持ち主だ」
「エルフ・・・!」
エルフと言えば、長命で知識が豊富。
また、魔法にも長けている素晴らしい種族だ。
それを喚び出すことが出来る人間なんて、滅多にいない。
というより、100年に1度くらいしか生まれないんじゃないだろうか。
「いけ好かないエルフだけどな」
「え、師匠、そのエルフとも知り合いなんですか?!」
「アリーセと契約しているから、彼女に会うときは否が応でも顔を合わせることになる」
ちょっと気分が良くなっていたかと思ったら、思い出してまた不機嫌に戻る師匠。
思い出してまで不機嫌になる必要ないのに。
「じゃぁ、シオンさんもそのエルフのこと知ってるんですか?」
「もちろんだ」
「いいなー、アリーセさんとそのエルフに会ってみたい!」
「やめとけ。どっちもいけ好かない」
師匠の言葉に私は笑う。
「じゃぁ、シオンさんは?」
「いけ好かない」
どのみち、全員いけ好かないんじゃない!
という、突っ込みは不毛なのでしないけれど。
なんだかんだ言って、師匠はきっとシオンさんもアリーセさんもエルフも大事に思ってるに違いない。
本当に嫌いな訳じゃないんだから、仲良くすればいいのにね!




