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魔法使いと私  作者: りきやん
私の師匠を紹介します

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どうしよう、どうしよう、どうしよう!

完全にパニックになった頭で、私はガーディアンと対峙する。

とにかく、師匠から遠ざけなければ!


私は無我夢中で側にあったカンテラを投げつける。

けれど、それは、確かに当たったのだが、真っ黒な影のガーディアンにダメージを与える事無くその体内に取り込まれる。


「う、うそでしょ・・・?」


あれって、もし触れたりしたら、人間も取り込まれる・・・?

恐ろしい魔法に、寒気がする。

ゆっくりと歩いて近づいて来るそれに、私は師匠を力の限り引きずりながら、遠ざかろうとする。

けれど、無理だ。どう頑張ってみても、向こうの方が歩みは早かった。


「ねぇ!私たち、ここを荒らすつもりはないの!」


対話が通じるとは思わないが、必死に訴えてみる。

すると、意外なことに、ガーディアンの足が止まった。

もしかしたら、あの小鳥のように言葉が通じるのかもしれない。


「あなた、ここを守ってるんでしょう?勝手に入ってごめんなさい。でも、もう出て行くから!お願い、見逃して欲しいの!」


通じ・・・た?

と思ったのも、束の間。再びガーディアンはこちらに向かって歩き出した。

こうなったら、仕方ない。私が苦手な魔法でもなんでも使うしかない。

手近に転がっていた石を拾って、私は地面に三角、そしてその外側に円を描く。


「我、契約を願う者なり!主、欲するもの、我の呼びかけに答えよ!」


ピクシーでもスライムでも誰でもいいから助けて!

けれど、魔法陣はうんともすんとも言わない。


「ど、どうして?」


呪文を間違えただろうか?


「我、契約を願う者なり!主、欲するもの、我の呼びかけに答えよ!」


・・・反応がない。

失敗するときだって、僅かな光が沸き上がるのに。それすら、ない、だなんて。


「わ、われ、契約をっ願う者なり!主、欲するもの、我の呼びかけに答えよ!」


そんな。嘘だ、嘘だ嘘だ!


「お願い、ねぇ、誰か答えてよ・・・!ねぇ!助けて!」


涙で前が見えない。寒さと相まって、鼻水まで垂れて来た。

どうして、自分はこんなに馬鹿なんだろう。

師匠の言う通り、もっと勉強すれば良かった。

そしたら、苦手な魔法でも、攻撃呪文の一つや二つは使えたかもしれないのに。


「ピィッ!」


その時だった。私たちの頭上で旋回していた小鳥が、ばさばさ、と激しく翼を羽ばたかせる。

何事かと見上げてみると、数枚の羽根が私と師匠の上に落ちて来た。


小鳥さんが、羽根を落としてる?


理由は分からないけれど、自分の羽根を私たちの上に落とそうとしているようだ。

月明かりを受けて青白く輝くそれは、幻想的で、まるで、季節違いな雪のようだった。

見とれている場合ではないけれど、その光景はあまりに美しい。


「ど、どうしたの?」


今まで私の問いかけに答えてくれていたその子が、答えもせずに羽根を激しく動かしている。


「う・・・。」


その時、小さく、腕の中で呻き声が聞こえた。

私はハッとして、その声の主を覗き込む。


「師匠!師匠、しっかりしてください!」

「ん・・・ここは・・・。」


ぼーっとした目で私を見つめた後、師匠が覚醒したのか目を見開いた。


「リザ!どうして!」

「師匠!後で説明するから!今は逃げましょう!」


私が腕を引っ張って立ち上がらせると、師匠は一瞬のうちに状況を把握したようで、ガーディアンに向かって舌打ちする。


「くそ、厄介な奴め」

「早く!あれ、触ったら飲み込まれますよ!」

「わかってる」


師匠は立ち上がったものの、まだ走れる状態では無いようだ。

ふらふらと心許なく足を動かしている。


「師匠!大丈夫ですか?」


あまりに弱々しいその姿に私が肩を貸すと、師匠は自嘲気味に笑いを零した。


「ははっ、よもや、君に助けを借りることになるとはね」

「憎まれ口叩いてる場合じゃないでしょう!」


幸いなのは、ゆっくりとこちらに向かってくるだけから推測するに、ガーディアンが攻撃してくるタイプではないところだろうか。

おそらく、トラップタイプだろう。

何も知らずに、切り掛かったりすれば、そのまま飲み込まれてあの世行きだ。

つくづく、最初にカンテラを投げて良かったと思う。


「祭壇を出れば、ガーディアンは消滅するはずだ」


必死で足を動かす中、師匠がぽつりとそう呟く。

それから、祭壇の終わりまでの距離を見て、私は絶句した。

とてもじゃないけれど、弱っている師匠を引きずって間に合うとは思えない。

途中で確実にガーディアンに追いつかれる。


「・・・仕方ない」


いつもは無言詠唱のはずの師匠が、小さく呪文を唱えた。


「重々たる律に反し解を求めん」


瞬間、肩を貸していたはずの師匠に抱き上げられる。

何か言葉を発する暇もなく、ふわりとした無重力感に襲われた。

初めて味わうその感覚は、きっと、師匠の唱えた呪文からしても浮遊魔法に違いない。

ぐ、と頭を抑えられて周りの景色は全く見えないけれど、きっと飛んで祭壇から出るつもりなのだろう。


「いっ・・・!」


と思えば、今度は強い衝撃。

師匠が庇ってくれたおかげか、痛みは無いが、地面に打ち付けられたらしい。

くらくらする頭を押さえて目を開ければ、視界いっぱいに師匠の顔が映り込む。

固く目を閉じたその表情を見た瞬間に、恐ろしい想像が駆け巡った。


「師匠!師匠!死なないで!」

「・・・馬鹿娘。人を勝手に殺すな」

「よかったぁぁぁぁぁ!」

「抱きつくな、苦しい」


ぐっ、と小さなうめき声を漏らして、師匠は私を押しのける。

そして、涙と鼻水だらけの私の顔を見て、苦笑した。


「酷い顔だな」

「だって・・・だってぇ・・・」

「心配するな、祭壇から離れたことにより、ガーディアンは消滅した」


師匠はそう言った後、また祭壇に入れば出現するけどな。と付け足す。

別に、ガーディアンがまだいるかどうかを心配していたわけじゃない。

私が心配していたのは、師匠のことなのだから。

ずびずび、と鼻を啜る私を見かねたのか、師匠は袖で顔を拭ってくれた。


「そんなに怖かったのか?」

「ちがっ・・・違います・・・。し、ししょーが・・・」

「僕が?」

「ししょーが、し、し、死んじゃうんじゃ・・・ないかっ・・・て」


そこまで言って、うわーっと大声で泣き始めた私を宥めるように、師匠は頭を撫でてくれる。

その大きな手の平の感触に安心して、一層声を上げて私は泣く。

こんな風に、師匠に宥められるのは、何年振りだろう。

いつもは意地悪しかしない師匠が、困ったような顔で私を宥める。

この年になって、師匠の前で泣くなんて、思ってもみなかった。


「ピィッ!」


鋭い鳴き声をあげて頭上で旋回する小鳥に、師匠は見上げてぽつりと呟く。

すっかり忘れてたけれど、今回、あの子には本当にお世話になった。


「月光鳥」

「げっこ・・・どり?」

「あぁ。僕が探していた魔物だ。月の光を蓄積するあれの羽根には、とても強い魔力が秘められているんだ。魔法薬の材料として重宝している」

「あの、あの子が・・・し、ししょのいる場所、お、教えてくれ・・・そ、それで、こっ・・・ここに・・・」

「そうか・・・」


師匠は私の頭を撫でていた手を背に回すと、そのままぎゅっと抱きしめてくれる。


「リザ、助けてくれて、ありがとう」

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新作「グレーテルと悪魔の契約
ちょい甘コメディファンタジーです。
よろしくお願いします〜!
by りきやん

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