八章三節 - 炎狐と松明
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与羽を支えて岩の多い急な斜面を下り、与羽を背負って慎重になだらかな起伏のある山を越える。
与羽を捜しに走った時よりも時間が短く感じるのは、やっと与羽に会えた安心感があるからだろうか。
「……う、っ……。たつ……」
「大丈夫だよ、与羽」
与羽の息は荒れ、たまにうめき声を漏らしたが、辰海が声をかけると安心したように彼の首にしがみつく腕に力を込めた。
毒蛇かもしれない蛇にかまれ、血もたくさん流したはずだ。
それでも、与羽がどこともわからない場所にいるよりは安心できる。
これ以上与羽が傷つかないように守ることができる。
もちろん、こちらのほうがましというだけで、尋常でない焦りを感じていたが……。
背に触れる与羽の体は熱かった。首筋に触れる与羽の吐息も――。早く城下に帰らなくてはならない。
しかし、急ぎすぎると与羽の体に障る。
「大丈夫だよ」
辰海は繰り返した。
「ん……」
与羽がうなずくのがわかる。
辰海は一度足を止めた。
「……重い?」
辰海の疲れを察して、与羽が問う。
「ううん、平気」
与羽に見えないのを承知で辰海はほほえんだ。
与羽のところにたどり着くまでに何度も転んで、体中傷だらけだったが、それを与羽に言うつもりはない。
一度、深呼吸して――。
「煙の臭い?」
辰海は森の空気に混じるこげ臭さを嗅ぎ取った。辺りはまだ山の中だが、だいぶ城下町に近づいた。人がいるのかもしれない。
辰海はもう一度深く息を吸って、臭いのする方向を探った。
そして、目当てを付けた方向へと歩き出す。
するとすぐに小さな松明の明かりが見えた。まだ距離があるが、闇に浮かぶ光ははっきりとわかる。
それに照らされた二つの人影も。松明を持つ方は長身で、白い髪が松明の光を赤く反射している。
まだ遠いため確信は持てなかったが、辰海は見知ったその特徴に足を速めた。
さらに近づくと、向こうも辰海のたてる足音に気づいたらしい。人影がこちらを向く。
辰海は明かりに照らされた顔を見て、叫んだ。
「父上!」
「辰海か!」
次の瞬間、もう一人に松明を渡して卯龍が駆け寄ってきた。
受け取った松明を手に、慎重に歩いてきたのは、無条件に人を安心させる笑みを浮かべた薬師朱里だ。
「父上……」
辰海は安心して泣きそうな顔で卯龍を見上げた。
「与羽が――」
その言葉に、卯龍は鋭い瞳を辰海に投げかけ、すぐその背に覆いかぶさる与羽を見た。額の傷を見て目を細め、すぐさま辰海の背から与羽を奪い取る。
「たつ……」
与羽の手が辰海に伸びたが、その手はすぐに卯龍がとった。その顔は切羽詰まったように険しい。




