表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍神の詩 外伝 - 風水炎舞  作者: 白楠 月玻
一章 龍姫と炎狐
4/56

一章二節 - 龍姫の諦念

「僕たちも行くよ」


 アメがラメと一緒に荷物を持って立ち上がったが、フィラが手のひらを突き出して止めた。


「いやいやいや、お二人さんがお手を(わずら)わせる必要はありませんよ。二人きりの貴重な時間をお過ごしください」


 わざとらしい口調で言う。アメとラメはお互いに有名な文官家の出身で、この間結婚が決まったばかりだった。


「でも……」


 ラメが心配そうに与羽(よう)を見る。落ち着きはじめてはいるが、辰海(たつみ)が口をきいてくれなくなったことをまだ気にしているようだ。

 しかも、フィラは明るい性格だが、軽くだらしがない。彼のわざとらしく襟元をはだけさせた着物の着方がその証拠だ。帯も結び目がねじけている。ついでに言えば、髪もザンバラでそれを良いと思う女子もいるにはいたが、まじめなラメにはただ悪い印象しか与えなかった。

 これで、勉強ができれば救いもあるが、彼の成績は下から数えた方が明らかに早い。


「中州だって、漏日(もれひ)月日(つきひ)の邪魔をしたくないと思うだろー?」


 フィラは与羽に話をふった。

 コクリと浅くうなずく与羽。彼女もアメとラメの関係は知っている。今の自分とは無縁な関係なので良く分からないながらも、邪魔をしてはいけないと思えたのだ。


「ほら!」


 勝ち誇ったようにフィラは叫んだ。そのうるささに周りにいた同級生たちが迷惑そうな顔をしたが、フィラは気付いてさえいない。アメとラメに指を突き付け、そら見たことかと目を輝かせている。


「善は急げ! 帰るぞー、中州!」


 そして、すぐさま与羽の荷物を持ち、無理やりつないだ手を引っ張った。


「今日はフィラ君なんだぁ」


「明日は俺だからな!」


 フィラが騒いだせいで、部屋の中にいた人々はみんな二人に注目していた。

 女子の冷やかしじみた声と、男子の叫び。その中で、与羽は諦めたように無関心な顔をしていた。

 しかし最後の希望を込めて、ちらりと辰海を見やる。彼は、今まで同様冷たい目で与羽を見ていた。いつもより深く眉間にしわが寄っている。


 それを確認した瞬間、与羽の顔は完全な無表情になった。

 フィラの言う通りなのかもしれない。


 ――もう辰海には頼らない。


 一人で生きていけるようになろう。


 ――こいつもいらない。


 フィラの軽薄さは、与羽も知っている。残念ながら、彼に好かれたいとは思わない。


「さー、与羽。どこに行きたい? せっかくだから、遊ぼー。おそくなってもちゃんと送ってあげるから大丈夫だよー」


 学問所を離れたからか、フィラは気安く名前で呼びはじめる。


「別に、どこにも行きたくない」


 与羽は不愛想に答えた。


「何でー? ほら、あそこに甘味屋さんがあるよー。与羽甘いもの好きでしょー」


「欲しくない」


「何? 減量中? 細いんだから大丈夫だってー」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ