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龍神の詩 外伝 - 風水炎舞  作者: 白楠 月玻
五章 武術大会
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五章七節 - 龍姫の辛勝

 その脇腹に左から与羽(よう)の脇差が斬り上げられる。

 慌てて防御しながら、少年は短い蹴りを与羽のすねに叩き込もうとした。しかし、そこにすでに与羽の足はない。攻撃を行いながらも、舞うように軽やかな足取りで回避を行っている。


 与羽は攻撃の瞬間以外、足を踏ん張るということはほとんどしなかった。たとえしたとしても、少女の細腕だ。それで増加する攻撃力などたかがしれている。やすやすと止められてしまうのがおちだろう。

 それならば自分自身の攻撃力は少し弱めても、回避性と手数を増やす。

 攻撃自体は、風水円舞(ふうすいえんぶ)を踏襲し、相手の力と遠心力を使った円を描くような流れる動きで。


「ちょこまかとっ!」


 攻撃をことごとく受け流され、いたる方向からの攻撃を受けた少年は、いらだちの声を出した。

 与羽は袈裟懸(けさが)けに振り下ろされた攻撃を剣先で反らし、距離をとる。それを追って攻撃してくるのを、身をかわしながら鋭い突きを胴に見舞ったが、かわされた。


 そうしているうちに、頭を狙った攻撃をかわしきれず与羽のほほを軽く木刀がなぐ。軽い痛みと恐怖にひるんだ与羽へ、さらに蹴りが襲い掛かる。

 それを木刀の根元で受け直撃は防いだが、受け流すには至らなかった。

 わずかに後ろに跳んで威力を殺したものの、その場にうずくまりそうになってしまった。


 その頭へ相手は武器を振り上げる。

 与羽は着物が汚れるのも気にせず、横に転がって振り下ろされた刀を回避した。


 予期せず、相手のわき腹があいているのが見え、そこに死に物狂いで蹴りを叩き込む。

 自分の体勢が大きく崩れたものの、無理矢理飛び起きて、与羽は相手の胸の中心に木刀を突き付けた。

 実力的には相手の方が上だったろう。ただ、相手が冷静でなかったおかげで思いがけない隙を見つけられた。運による勝利と言える。


 勝負あり。与羽の勝ちなのだが、蹴りをくらってひるんだ相手もすでに攻撃態勢に入っていた。

 与羽が木刀を突き付け勝ちを確信した次の瞬間、大きく横なぎに迫る木刀が見えた。しゃがんだり相手から離れたりしてかわすにも、受け止めるにも時間がない。

 与羽ができたのは、わずかにそちらに背を向け、胸や腹をかばうことだけ。

 重心移動で威力を減らそうともしたが、そちらは全くと言っていいほど意味をなさなかった。


 刃がつぶされいるとはいえ、木の棒で叩かれるのだ。与羽は受け身をとりつつも、その場に倒れた。

 普通なら、相手に当たりそうな場合は寸止めか軽く触れさせる程度の攻撃にとどめておくべきだが、相手は与羽が今まで通り受け止めるか受け流すかすると思っていたのかもしれない。

 もしくは、先ほどの蹴りで怒り、我を忘れていたか。


「そこまで!」


 慌てて審判が終了の合図をし、与羽に駆け寄った。


 与羽はもう体を起こしていた。左上腕をおさえ、歯を食いしばって痛みで流れそうになる涙を精一杯止めようとしている。


「大丈夫か?」


 試合を見ていた絡柳も駆けてくる。


「先輩、私……」


「安心しろ。誰が見てもお前の勝ちだった」


 涙目で見上げられ、絡柳は与羽の腕に触れながらそう答えた。


「そんなことじゃないです」


 しかし与羽は力なさそうに首を横に振る。


「なら、どうした? 傷が痛むか?」


 さらに首を振る与羽。木刀で殴られたところは痛まないわけがないが、与羽が言いたいのはそのことではないらしい。

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