二章六節 - 龍姫の決別
――結構、傷ついてるのかしら?
自覚していないが、華奈は人の感情を読み取るのがうまい。幼いころからの稽古で、相手の呼吸を感じ、そこからその人の出方を読む能力が身についているのだ。
「与羽ちゃんは、辰海君のこと好き?」
「乱兄とか、卯龍さんとかと同じくらいには好きですよ」
与羽はよどみなく答える。
「でも、華奈さんが聞きたいのはそういう『好き』じゃなさそうですね」
「……そうね」
――少し、九鬼大斗の性格が移ってきてるのかしら。
今の与羽はあまりに冷静すぎる。
「でも、そういう華奈さんこそどうなんですか?」
そして、与羽が鋭く切り返してきた。
「どうって――?」
「九鬼先輩のことですよ」
「あたしは、九鬼大斗より水月文官の方が好みだわ」
フンと鼻を鳴らす華奈。
「本当ですか?」
優勢を感じたのか、与羽がいたずらっぽい笑みを浮かべながら華奈に迫った。
「本当よ。あたし、軽い男は嫌いだわ。――さぁ、たい焼きも食べたでしょう? 道場に戻るわよ」
華奈は与羽の返事も待たず、立ち上がって着物の裾を払いその場を去る姿勢を見せる。与羽も顔面に笑みを貼りつかせたまま立ち、甘えるように華奈の手を取った。
その手を握り返し、華奈はまっすぐ前を向いて歩きはじめる。
与羽は一瞬だけ辰海を振り返った。
しかし、すぐにその視線を百合の花のようにまっすぐで、凛とした華奈にむける。
そして、もう辰海を振り返ることはなかった。




