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序章一節 - 炎狐への問い

 暖かな日差しが差し込む春。

 夕刻の低い光は、全ての戸を開け放った学問所の中にまで光の帯を引く。


 歴史書を開いていた辰海(たつみ)は、その陽気に誘われるようにふと外を見た。右隣にいる同い年の少女――与羽(よう)の頭越しに、そよ風になびく柳の枝が見える。陽光で黄金(こがね)色に輝く細い葉は、幾千の魚が群れを成して空へと泳いでいこうとしているようだ。

 その美しさに思わず笑みが漏れた。

 しかし、周りで同じように歴史書を開いているものの、気もそぞろな生徒たちは辰海のそれを与羽を見ているのだと解釈した。光を浴びた与羽の髪は誰が見ても美しいから。青と少し黄緑に輝く宝石のような髪。濡れたようにまとまり、しかしその一本一本は細くさらさらしている。


 与羽はその髪と目の色で、みんなの人気者だった。

 一方で、辰海もその整った容姿から、同年代の女の子たちの絶大な人気を得ている。

 誰が見ても、この二人はお似合いだと思うだろう。


 しかも、両親を亡くしている与羽は、辰海の父親に引き取られている。幼馴染というだけでなく、住む家まで同じだ。年頃の彼らの間には、辰海の父親――卯龍(うりゅう)は辰海の嫁に欲しくて与羽を引き取ったのだ、という噂がまことしやかに囁かれていた。


 あとは辰海と与羽の気持ち次第。しかし、この様子では辰海はすでに与羽に気があるのだろう。

 いつも一緒にいる二人を、羨ましく思う者は多かった。



  * * *



「お~い、古狐(ふるぎつね)


 学問所の授業が終わり、雑談をはじめた中で一人の男子が辰海に声をかけた。


黒耀(こくよう)……」


 今日習った内容の復習をしていた辰海は顔をあげて、声の主を見上げた。


(じん)でいいって言ってんだろ」


 黒耀仁は気安く辰海の肩に手を回して、密談の体勢に入る。さきほどまで辰海の隣にいた与羽も、女の子たちとおしゃべりに興じ今は少し離れた所にいた。


「ぶちゃけさ、お前中州のことどう思ってんの?」


「中州」とは、この国の名前であり、与羽の名字でもある。今回聞かれたのは後者のことだろう。


「どうって?」


 辰海は聞き返す。その仕草から、本気で何を問われているのか分からないのだと仁は察した。


「お前、何であの妻大好き親父のそばにいて、こういうことには疎いかなぁ」


 ため息混じりに言う。


「つまりよ。お前中州のこと好きなんだろ? って話だよ」


 彼らはほとんどが今年で十二。すでに結婚が決まっている者もいる。そういう話が身近になってきてもおかしくない。


「え? 何言ってるの?」


 しかし、辰海のような例外もいるにはいた。

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