ギザ歯僕っ娘の後輩に友達から聞いた話をしてもらうだけ
チーッス。
センパイ何食べてんの、って顔色悪っ! 熱中症? 単なる寝不足?
つか学食にぼっちて、ご飯食べる相手いないの? さみしー人生。
げ、泣くなよ! マジでぼっちなの? あーハイハイ、隣の席もーらい。ほら、可愛い後輩といっしょにご飯食べよーぜセンパイ。金ない後輩にデザートおごってセンパイ。
可愛くない後輩におごる金はない?
ちょっとー、センパーイ? 意地悪いうと僕のスルドイ歯でがぶがぶいっちゃうぞ? センパイのオイシイとこはどこかなァ。お肉の定説通り、脚の筋肉かなァ。それともォ、真っ赤な心臓?
……プッ、冗談に決まってんじゃん! センパイ反応がガキだよね、かわいー。後輩がヨシヨシしてあげる。
え? 頭を撫でる手が空中に1センチ浮いてるのは何故か?
センパイ、僕、コロナ禍直後に潔癖性マエセンの講義受けたから知ってんの。人体接触は感染症の敵。合法的にも衛生的にもヨシヨシしていいのは濃厚接触必須の相手だけ。つまり、僕とセンパイの正解はエアヨシヨシってコト! やったねセンパイ、いっこ賢くなったぜイエー!
あれ、センパイの目が死んでる? どしたん、話聞くよ? お代は手元に隠したなめらかプリンで、チッ、ダメか!
そんだけ素早く動けるなら元気だね。よかったじゃん。んー? ヨシヨシはエアだけど、センパイ元気だせーって気持ちはエアじゃないし。
――へ、ほんとにくれるの? やったー、一ヶ月ぶりのプリン! センパイいい人! チョロすぎて滅!
ヤダね! もう僕のですぅ、返しませーん! べー!
仕方ないなー。お礼にちょっとコワイ話教えてあげる。センパイも、夏の定番、可愛い後輩とシたいでしょー?
イヒヒ、遠慮すんなーって! 僕とセンパイの仲じゃーん。
――――今から話すコレ。
僕の友達から聞いた話なんだけどさァ。
友達っつーか、友達の友達の友達ー? んんー、名前はルイ? そ、とりまルイで。
ルイは暗い男なんだ。
ビリジアンブルーよりもトドメイロみたいなヤツ。性格は悪くないし話もフツーに明るいのに、アイツ一人だけライト消えてね的な? ま、本人もパァッと明るいの怖いっていってたからいーんだけど。
ルイのうちは、親が共働きで、姉ちゃんがナナコ上だから、ガキの頃、一人で過ごす時間が多かった。でも、ルイにはイマジナリーフレンドがいたんだ。知ってる? 名前の通り想像上の遊び相手。どんなヤツって聞いたけど、いる想像で遊ぶだけだから姿とかないんだって。意味わかんなくない?
ルイが住んでたアパートのリビングには、開閉できるサークルを使って一角を子どもの遊び場にして、絵本やオモチャをしまったクローゼットが壁際に置かれてた。姉ちゃんは自分の部屋で過ごすから、サークルで囲まれたスペースはルイと脳内幼馴染みの場所だった。家族にすれば、ひとりで遊んでくれて助かるって事情もあったはず。自由にさせてたみたい。
クローゼットは子どもが入れる広さだったから、脳内幼馴染み…なげーしクロくんて呼ぶわ、クロくんの部屋って設定が、そのクローゼットにはうってつけだったわけ。クロくんは、いつもは部屋から出てこないの。ルイはご飯終わると食事を運ぶフリしてはクロくんに食べさせてあげてたんだって。おままごとの延長だろーね。
ルイとクロくんはよく遊んでた。絵本の読み聞かせをしたり、お絵かきやおしゃべりしたり。そういう時はクローゼットを開けっ放しにしておくんだって。ただし、かくれんぼの時だけは閉じる。なかにクロくんがかくれてる設定だからね。小さい子のかくれんぼってさ、本気でどっかにかくれなくていーの。部屋のカーテンとか、家具の影とか見え見えの場所でいい。探してもらったり見つけてもらうのが楽しいんだ、同じ場所にかくれるって設定で何度も遊んだらしいよ。
いっとくけど、当時もルイはクロくんが実在しない友達だって思ってた。そうだよ。分かってて遊んでんの。イマジナリーフレンドがいるヤツが暗いかは知らないけど、ルイは暗い男だよ。うん、僕ならそっとしておく。
結局、ルイがクロくんとサヨナラしたのは、小学一年の引っ越しがきっかけだった。
引っ越した時のこと、ルイは覚えてなかったんだけど、新しいマンションではクロくんと遊ばなかったんだって。隣の部屋の子がソッコー友達になってくれて、なんかそれっきり?
……わかる? これだけだと怖い話じゃないもんなァ。
ま、後日談があるよね。
オイオイ。嫌そーな顔すんなよセンパーイ、楽しくなっちゃうじゃん?
ルイは、大学に入ってから一人暮らししてるんだよね。最近もアパートでドラマをみてたんだ。
僕はタイトル聞いたけど、昔やってたミステリードラマだったよ。途中、SOSのモールス信号について説明する話があった。短い音を三回、間をあけて長めの音を三回、また空白、もう一度短い音を三回、トントントンツーツーツーって歌のアレ。
それで、ルイ、思い出しちゃったんだよね。
いつかのあの日、両親は仕事に出て、姉ちゃんは学校、あと一時間くらいルイはいつもと同じようにアパートにひとり。いつものようにクローゼットでクロくんとかくれんぼをしていた時…、いつもとは違うことが起こったんだ。
トントントン、トン、トン、トン、トントントン…
ノックがしたんだ。
かくれんぼ中のクローゼットから。
ルイはビックリした。
だって、想像上の友達にノックをさせる予定なんか、彼には、なかったんだ。想像が、現実で物理的に影響するなんて、あってはいけなかった。
反射的にクローゼットから離れた。けど、足がもたついてサークルの開閉部分が勢いよくぶつかりあって大きな音がした。
そしたら、また、クローゼットからノックが鳴り始めた。
ドンドンドン、ドン、ドン、ドン、ドンドンドン!
恐怖だった。
体が震えて、閉じたクローゼットの中身を確認する勇気なんかなかった。
とにかくアパートの部屋を飛び出した。ちょっと安っぽい作りのアパートだったらしくて、チャイルドロックみたいなものがなかったのは幸いだったよね。
アパートから逃げるように、まっすぐ目の前にある公園に向かった。公園なら顔を知ってる大人がいる。案の定、一人だけで走ってきたルイに同級生の親たちが声をかけてきた。大丈夫、顔色が悪い、どうしたの、って。
ルイは何ていえばいいかわからず、アパートを振り返ろうとした。けれど、それより早く、誰かが叫んだ――火事だ!って。
さっきまでルイのいた部屋あたりから煙が上がっていた。人が何人も走って出てくる。長い時間にも一瞬にも感じるくらい、記憶はメチャクチャだ。いつからサイレンが鳴っていたのかわからない。パァッと明るい炎を、とにかく怖いと感じてしまった。クロくんから逃げた罰のように感じたんだ。
それで、全部忘れてしまったんだと思う。
ルイは、引っ越し先でクロくんを想像できなかった。怖かった記憶も思い出してしまうから。
でもね、大人になってから記憶を整理してみて、助けられたんじゃないかって思うようになったんだって。
ルイのやつ、今ではクロくんに感謝してるんだってさ。
存在しない幼馴染みに助けられるなんてイイハナシだよねー。僕は、自分で自分を助けてるよーな気がするけど。
……どういう意味かって?
僕のつまんない想像の話だけど、聞く?
火災の火元になったのって、ルイんちの部屋じゃないと思うんだよね。マンションにすぐ引っ越しできてるし。
あのさ。もし、ノックが聞こえたのが、クローゼットからじゃなかったら?
例えば、その後ろ――隣の部屋とか。
ん、プリンおいしかった。ごちそーさま。
次はクリームたっぷりのがいいなー。
――また僕とご飯食べよーね、センパイ?




