第3話 ドラゴン
と、まあ私はそんな感じで魔物を倒してたわけだよ。配信もしてた。最初のうちはちょっと上手くいかないところもあったけど・・・・・・だんだん慣れてきた。ダンジョンハンターとしての活動が板についてきたのだ。
そして、ある日私に転機が訪れた。
それは、私がいつもの通りにダンジョンの浅い階層で低級の魔物を狩りながら配信していた時のことだ。
「ふー、そんなに苦労することなく倒せたね!」
『いや、一応第一階層のボスだからけっこう苦労するはずなんだけどな・・・・・・』
『新人がここまで圧倒的にボス倒すところなんて見たことないよ』
『こわ・・・・・・』
なぜかコメント欄に怖がられてたわけだけど、私の目にとあるコメントが飛び込んできた。
『ねえ! なんかチハヤさんがダンジョンの下の階層のボス相手に苦戦してるみたいだよ!』
「なに!?」
そう、チハヤお姉様が危ないという急報が入ったのである!
「助太刀に行かなきゃ!」
『助太刀!?』
『い、いやでもチハヤさんが苦戦するほどの相手だよ?』
『最悪でも死ぬことはないだろうし、助太刀に行く必要はないんじゃ・・・・・・』
私たちダンジョンハンターは万が一死の危機に瀕した時、即座にダンジョンを脱出できるようテレポーテーション装置を与えられている。それは例え所有者が意識を失っていたとしても、死の危機に瀕したと装置自体が判断すれば自動的に作動してダンジョンの外に飛ばされることになっているので、何かあっても死ぬことはない。その可能性は限りなく低い。
だが・・・・・・だがしかーし!!
「何言ってんの! 私という存在をチハヤお姉様に知ってもらう絶好の機会だよ!? 助太刀に行かないなんて選択肢、私にはなーい!!!」
『そ、そっか・・・・・・』
「それで、ダンジョンのどのあたりの階層にいるわけ!? 教えて!」
『え、えっと・・・・・・確か九階層辺りにいるっぽいかな・・・・・・?』
「このダンジョンが全部で十階層っぽいから、九階層ってことは攻略一歩手前ってことだね! もうそんなところにいるなんて、さすがチハヤお姉様! ありがとね、教えてくれて!」
『いいけど・・・・・・』
『でも、どうやって九階層まで行く気なんだ? まともに攻略したらけっこう時間かかっちゃうと思うけど・・・・・・』
「それは私に考えがある!」
私は拳を突き上げて叫ぶと──
「えい」
その拳でダンジョンの床をぶっ壊した。
『は?』
『ちょ、まさか・・・・・・』
「ダンジョンの床をぶっ壊して九階層まで超速で行く!」
『いや、は?』
『見たことないぞ、そんなことしてる奴なんて!!』
『ひょっとしてバカなのか・・・・・・?』
「バカじゃないよ! これ以上ないくらいクレバーでしょ!」
失礼だなあ、全くもう。
「あ、他の人に迷惑かけないようにマジカルパワーで直しながら行くからね! そういうところはちゃんとしないとね!」
『配慮できてえらい!(思考停止)』
と、いうことで私はダンジョンの床を壊しつつ直しながら、九階層まで行くのだった。
「待っててね、チハヤお姉さまー!!」
『マジでなんなんだこの子は・・・・・・』
◇
《ふっ、いよいよ決着の時じゃのう、ハンターよ》
巨大なドラゴンがそんなふうに声を発する。上位の力ある魔物は、人語を理解し言葉を発することができるって、授業で習ったことがある。
で、そのドラゴンの前でボロボロになって膝をついているのが、チハヤお姉様。ああ、苦戦する姿も麗しい・・・・・・。
ちなみに、チハヤお姉様はソロで活動しているハンターなので、周囲に人はいない。そういう孤高なところも素敵なんだ。
そして──
「周囲に人がいないってことは全力を出しても大丈夫ってことだね!」
『ドラゴンを目の前にして言うことがそれか・・・・・・』
空中でくるくる回ってズドンと私は九階層の床の上に着地した。
「!?」
《な・・・・・・何者じゃ、お前は》
『やばい、ドラゴンデカい』
『画面越しでも怖いんだけど、これ勝てるかな・・・・・・?』
チハヤお姉様もドラゴンも困惑している。コメント欄はドラゴンに恐怖しているみたいだ。
私はというと、困惑するドラゴンに向かってこう叫んだ。
「私は魔法少女スター☆レイン! ドラゴン、あなたのことを倒す者だよ!」
《ほお・・・・・・》
『おいおいおいおい!』
『ちょ、バカ! わざわざ挑発する奴があるか!』
「え、だってチハヤお姉様にかっこいいとこ見せたいし・・・・・・」
『今はとりあえず身の安全を最優先にしてくれ・・・・・・』
さてと・・・・・・
私はチハヤお姉様を庇うように立つと言った。
「チハヤお姉様、助太刀に参りました! ここは私に任せて早く撤退を!」
「あ、ありがとう・・・・・・あなたも無理せず勝てないと思ったらすぐ退いてね。えっと・・・・・・」
「スター☆レイン! スター☆レインです! 憶えていただけると気持ちよくなれます!」
「気持ちよく・・・・・・? ま、まあよくわからないけれど、憶えておきます」
『ああ、チハヤさんが困惑してる・・・・・・』
『すいません、この子変な子なんです』
変な子とは失礼だな。
さて、しばらくするとチハヤお姉様の姿がふっと消えた。緊急脱出用装置が作動したんだ。怪我をしてるお姉様がこの場にいるのは危険だからね。巻き込んじゃうかもしれないし。まあ、お姉様に私の活躍を見てもらえないのは少し残念だけど・・・・・・。
とりあえず、この場には私とドラゴンだけが残った。私はドラゴンを見上げる。ドラゴンはデカい。高層ビルくらいの高さがある。火も吹く。空も飛ぶ。明らかに強い。明らかに強いが──
「だがしかーし! ドラゴンなんかよりも、私のチハヤお姉様を想う気持ちの方が強い!」
『そんな熱血な・・・・・・』
『大丈夫か? 勝てるのか!?』
『マジで無理しないでね・・・・・・』
《ふん、魔法少女とか言ったか。お前のような奴がこのわしに勝てるわけがなかろう》
「勝てるよ! チハヤお姉様とお近づきになるためならね!」
《お近づきに・・・・・・なに?》
ドラゴンはなぜかちょっと困惑したあと、ガパッと口を大きく開けて言った。
《まあ良い。これで終いじゃ》
その口の中にとてつもないパワーが集まっているのがわかる。
『ヤバい、ドラゴンブレスだ!』
『ちょ、大丈夫!? ほんとに逃げた方がいいんじゃないの!?』
『万が一の時には緊急脱出装置があるけど・・・・・・』
『それでもヤバいでしょドラゴンブレスは!』
で、口の中のそれは放たれた。魔力を含んだ炎はキラキラと光を散らしながら、私の方へ向かってくる。
私はそれを──
「えい」
とりあえず片手で受け止めておいた。
《!?》
『!?』
『!?』
『!?』
『!?』
なんかドラゴンもコメント欄も同じような反応してるな・・・・・・。
まあいいや。私は手のひらに魔力を集めるとその炎を握りつぶした。
『ええ・・・・・・』
『俺たちの心配を返せよ・・・・・・』
『いや、ドラゴンブレスを素手で握り潰す人間とか聞いたことないぞ!? どうなってんだ!?』
『あの、ドラゴンブレスを無傷で受け止めたハンターなんて聞いたことあります・・・・・・?』
『聞いたことなぁい』
「さぁて、悪いけど超速で倒させてもらうよ! 必殺魔法! 『マジカルスタービィィィィム』!!!」
が、私のマジカルスタービームはドラゴンが展開したバリアっぽいものに弾かれてしまった。
「む?」
《・・・・・・ふっ、どうやらわしの攻撃はお主に通じないようだが・・・・・・お主の攻撃も、どうやらわしに通じぬようだな》
『マジか、あの必殺魔法が通じないなんて・・・・・・』
『どうする? これじゃ千日手だぞ?』
「いやまだ慌てるような時間じゃない! バリアに防がれるならそのバリアをどうにかするまでのことだよ!」
私は魔法のステッキを天に向かって突き上げると叫んだ。
「必殺魔法二つ目! 『アシッドレインシャワー』!!!」
私が言霊を叫べば、ダンジョン内であるにも関わらず雨が降ってきた。
そして、ドラゴンが展開したバリアを溶かしていった。
《なっ、なんだこの雨は!!?》
「説明しよう! 必殺魔法『アシッドレインシャワー』とは超強力な酸性の雨を降らせる魔法なのだ! その雨は全てのものを溶かすのだ!」
『え・・・・・・なんで酸性の雨で魔力によるバリアまで溶かせてるんですか?」
「知らなーい。マジカルな酸性雨だからじゃないの?」
『こわ・・・・・・』
「さて、バリアもとかしたところで、いっくよー! 超・必殺魔法!『マジカルスター☆レインシャワー』!!!」
《・・・・・・はっ?》
ドラゴンの頭上へ、無数の隕石の雨が降り注いだ。
・・・・・・
『まさかドラゴンを倒ちゃうなんてね・・・・・・』
『いや怖いよ。なんだよマジカルスター☆レインシャワーって。隕石の雨降らせられるってこわすぎるだろ』
『怖いよほんとに・・・・・・いや心強いのか? 逆に』
『まあ新人でこれなら将来有望ではある』
『え? まだ成長する可能性あるの? ヤバいって・・・・・・』
『強くてかわいいからチャンネル登録しました』
◇
「はー、疲れた」
さすがにドラゴンはちょっと疲れた。
まあしかし、魔物退治で疲れていてもまだまだ私は学生。学校を休むわけにはいかないのである。
と、いうことで、今私は登校していた。
でもまあ、これで希望は持てた。きっとチハヤお姉様はドラゴンから助けてくれた私に、「あの時助けていただいたチハヤです。お近づきになりましょう」と言ってくれるはず・・・・・・。
と、私が期待に胸を膨らませて歩いていたその時だった。
「おー、おったおった!」
誰かに後ろから背中を叩かれた。
「や! 盟友!」
振り返ると、見知らぬお姉さんがいた。着物を着て、頭には何かツノのようなものが生えている。そのお姉さんは気さくに私に話しかけてきた。
「やー、昨日ぶりじゃな! 元気にしとったか?」
「えーっと・・・・・・誰ですか?」
「なんじゃ、わからんのか。まあ昨日とは姿が違うから仕方がないかのう・・・・・・」
そのお姉さんはにっこり笑ってこう言った。
「昨日お主に倒されたドラゴンじゃ。わしと盟友になろうぞ!」
・・・・・・
「そっちかよ!!!」
街中に、私の絶叫が響き渡ったのだった。




