お賽銭
夏の暑い日だった。渋谷の雑踏を抜けた先、ふとした路地にひっそりと佇む神社があった。東京の喧騒から切り離された静けさに惹かれ、主人公は思わず足を止めた。小銭をテキトーに取り出し、お賽銭箱へ投げ込んだ。
ーころころ、、ぽとん
「あのくそ上司にちょこっと悪いことが起きますように!」
自分でもクズだと思うが、ちょっとぐらい僻んだって神さんはゆるしてくれるだろう。。。
そう思った瞬間、微かに鈍い音が響いた。鳥居の向こうで影がゆらりと揺れた気がした。だが、主人公は「気のせい」と思い込み、東京の雑踏に戻って日常へと紛れ込んだ。
ある日、渋谷の交差点を歩いていると、人混みの中でじっと自分を見つめる人影に気づいた。黒いロングコートに深くかぶった帽子、顔は見えない。ただ、視線だけは確実に主人公を捉えている。そう感じる。
それにあまりにもおかしい。今は真夏のはずなのになぜロングコートなんか着てるんだ。。
怖くなり、仕事も忘れ、ただ逃げた。走っても曲がっても、その人影は居る。ただ居る。付きまとわれているという恐怖感が渦巻いた。 疲れて足を止めた瞬間、背後に冷たい鉄の感触。振り返る間もなく、首筋にすっと尖った(何か)が触れた。耳元で音が囁く。
一句、お願いします…
恐怖に押し潰され、主人公は何も言えなかった。刃の冷たさと声に硬直したまま、ただ耐える。すると首筋の感触は消え、声だけが響く。
「まだか、、、、、、、、お返しします」
動揺で手が震える主人公は、自分の手を見た。そこには、最初に神社でお賽銭箱に入れた小銭が、皮膚に食い込むように握られていた。 渋谷の雑踏は何も変わらず、ネオンの光と人々の波が流れている。




