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棋聖の孫、江戸に立つ ~盤上の記憶譚~  作者: くろ
【江戸・修行編】
9/30

第9話 玉は戦場へ

だが――

宗歩の次の手を見た瞬間、心臓が凍りついた。


△9四歩。

宗歩が端の歩を突く駒音が、広間に高く響いた。

「え……?」

俺は動揺を隠せなかった。


端攻め。

それは穴熊囲いの最大の弱点を突く手。

穴熊は中央や横からの攻めには滅法強い。

そこで現代将棋では端――

玉がいる9筋への攻めが、最も有力な穴熊崩しの方法とされている。


△9五歩。

宗歩はさらに端の歩を突く。

△9六歩。

蓮は受けに回ったが、宗歩の攻めは止まらない。


(なんで……なんでこの時代に穴熊の急所を知ってるんだ……?)

頭が真っ白になり、指先から血の気が引いた。

桂馬、香車、歩、そして繰り出してきた銀とのコンビネーションで、端の奥にいる玉を的確に狙ってくる。


宗歩の指し手は、まるで穴熊を知り尽くしてるかのようであり、俺の守りは次々と崩されていった。


(負けたら……死ぬ)

その事実が、脳裏をよぎり、思考が止まりそうになった。

駒を持つ指先が汗で滑り、震えだす。


(どうする……どうすればいいんだよ!!!……)

盤を見つめるけど、答えが見えない。

宗歩の攻めは冷徹で、正確で、容赦ない。

周囲の武士たちも固唾を呑んで見守ってる。


もう逃げ場はない。


そのとき――

ある記憶がよぎった。


おじいちゃんとの将棋。

何度も端攻めを受けてた記憶――

(そうだ……俺が穴熊をした時、おじいちゃんは――)

記憶を手繰り寄せる。


(おじいちゃんは何て言ってたっけ・・・?)

端攻めを受けるには、どうしたらいいか。


「……自分の駒、相手の駒、盤面を広く見るんじゃよ、蓮」


頭にふと浮かんだおじいちゃんの言葉。

――そうだ、これだけ守りは崩されたけど、相手も歩を使い果たしている。

盤上の駒が頭の中で動き始める。


相手の戦力。持ち駒をしっかりと見極めて――

宗歩は△9四香打。俺の9七の銀を狙ってきた。

ここしかない――


▲8八玉。


穴熊に潜っていた玉が自分で、端攻めを全力で受けに行く。

玉は、取られたら負けになってしまうけど、全てのマスを動ける駒。

玉を守るのも大事だけど、玉自ら戦場に行かなきゃいけない時もある。


「……お前の玉を鍛えるんじゃよ、蓮。」


思い出したもう一つのおじいちゃんの言葉――

一瞬、盤上の空気が変わった。

宗歩の目がわずかに見開かれる。


「……ほう」

その表情には驚きと――どこか嬉しそうな色が混じってるような気がした。


俺は冷静さを取り戻しつつあった。

(まだ……まだ負けてない!!)

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