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棋聖の孫、江戸に立つ ~盤上の記憶譚~  作者: 一進(にのまえすすむ)
第2章 現代・高校将棋部編
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第16話 孤独の終着

蓮は、理科室に突然やってきた、

どこか懐かしい光を持つ――

その男子生徒を見つめていた。


相手の目線もこちらを向いているが、

どこかうつろだ。


よく見ると、顔の色が失せている。

額は汗でびっしょりだった。


(……大丈夫......かな?)


俺は思わず心配になって声をかけた。


「どこか……体調悪いの?」


「……すまぬ、いや、すみません」


今、確かに「すまぬ」と言った。

胸の中に江戸の景色と、

どこか小さな違和感が宿る。


「……体調は悪くない。

 大丈夫だ」


大丈夫って言っても、

そんな風に全然見えない。


(……あ、

 でも、もしかしたらこの生徒が――)


佐久間先生の言葉。

放課後の理科室に、

たまーにやってくると言っていた。


「ひょっとして、君が、悟平君?」


俺がそう言うと、その生徒は一瞬だけ、

きょとんとした顔をした。


そして――俺を、まっすぐ見た。


その視線が、胸の奥を強く叩いた。


(……この感じ)



「あっ……」


体に電流が走る。


まさか。


まさか、まさか。


そんなわけがない。


――いや、でも。間違いない。


顔は違う。


声も違う。


でも、この間合い。

この目。


そして、さっきの「すまぬ」


驚きで、いくら口を開いても、

声が声にならない。



そのとき、


目の前の生徒の口が開いた――



「……まさか……蓮、なのか」


小さく、名前を呼ばれた。


「……蓮 ……なのか?」



俺の名を呼ぶ、か細い声。


間違いない。


この目の前の生徒は――


「……本当に、……五平なの?」


そのとき――

一筋の涙が、頬を伝うのを見た。


「……そうだ……

 蓮、……蓮、……蓮!

 あぁぁぁぁああああ!!」


次の瞬間、

五平は、衝動的に俺の胸元にしがみついた。


震える指先が、

離れるまいと、俺の制服を掴んでいる。


堰を切ったように、

五平の目から、涙があふれ出す。


俺は、初めて五平の涙を見た。


いつも明るくて、

どんなときも笑っていた五平が――

今、まるで長い苦しみから解放されたみたいに、

ただ、泣いている。


理科室に入ってきたとき、

顔色が青白く、ひどく消耗していた理由が、

ようやく分かった。


きっと、この佐久間悟平の体の中に――

五平の魂が宿っている。


そして、知る人もいない、この時代で。

たった一人で、ここまで来たんだ。


そう思った瞬間、

俺の視界も滲み、

そっと、五平の震える背中に手を置いた。


その背中から五平の想いが、

そのまま胸に流れ込んでくる――

そんな気がした。

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