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棋聖の孫、江戸に立つ ~盤上の記憶譚~  作者: くろ
【江戸・修行編】
5/30

第5話 タイムリープ?

「……小僧」

静かな声が、空間を支配した。

押さえつけられていた俺の体から、武士たちの手が離れる。


声の主は、奥の段に座っていた男。

切れ長の目に、穏やかだけど鋭い眼光。

それでいて、どこか面白がっているような笑み。


煌びやかな着物に身を包んだその姿は、明らかにただ者ではない。

この男が一言発しただけで、空気が張り詰める。


「お前……この状況でも、盤から目を離さぬのか」


言われて、ようやく自分でも気づいた。

今にも刀で斬られそうなのに、俺は――盤面のことが気になって仕方なかった。


「この局面、次の一手が見えておるのか?」

「……はい」

気づけば、声が出ていた。


男の目が細くなる。

「ほう、面白い。申してみよ」


盤を見つめた瞬間、ある一点が――光った。


「△5六角打です」


静寂。

対局者の一人――厳しい顔つきの老人が、眉をひそめた。

もう一人――穏やかな笑みを浮かべた中年の男は――微笑んだように見えた。


「宗歩」


奥の男が、その微笑んだ中年の対局者に声をかけた。

「その小僧が申した手、いかに見る?」


宗歩?そうほ?

その名前を聞いたとき、俺の心臓がバクンと跳ねた。


今、なんて言った?

"そうほ"――

そういえば、さっき武士が"御城将棋の舞台"って――


ってことは、この将棋は御城将棋?

将軍の御前で、選ばれた最高峰の実力者が対局を見せるっていう――

ってことはやっぱり奥の人は将軍?

そしてこの人は――天野宗歩?


将棋をしばらくしていなかった俺でも、もちろん知っている。

江戸時代最強と謳われた、伝説の棋士、天野宗歩。

あまりの強さに"棋聖"と呼ばれ、祖父が持っていた称号である"棋聖"の由来となった人物だ。


宗歩は将軍の問いに、何も言わず静かに頷いた。

その頷きは、蓮の指し手を肯定することを意味していた。


「はっはっは!そうか!」

将軍が愉快そうに笑った。

「面白い。実に面白いぞ、小僧」


俺は、ようやく状況を理解し始めてた。

ここは撮影現場じゃない。

まさか――俺、江戸時代にタイムリープしてる???

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