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棋聖の孫、江戸に立つ ~盤上の記憶譚~  作者: 一進(にのまえすすむ)
第1章 江戸・修行編
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第4話 御城将棋

(……え?……ここはどこ?)


祖父の部屋にあった、

あの埃っぽい空気は消えていた。


代わりに鼻をつくのは、

かすかな香の煙と、古い木材の匂い。


恐る恐る顔を上げる。


目の前には、

黒く磨かれた木の台があった。

低く、しかし不思議と威厳のある高さで、

四本の脚がどっしりと床に据えられている。


その上には――

小さな木片のようなものが、

いくつも規則正しく並んでいた。


そして、その木の台を挟んで、

盤の前には和服を着た二人の男が、

正座している。


一人は、鋭い眼光を宿した老人。

もう一人は、穏やかな笑みを浮かべた男。


二人の視線は、

その木の台から、微動だにしない。


その瞬間、ようやく理解した。


これは……

将棋盤だ。


この二人は――

将棋を指している。


周りを見回す。

広い。天井が高い。

壁には金箔の装飾。


そして奥に、段になった座敷。

そこに一人の男が座って、

二人の対局を眺めている。


(まさか、時代劇の撮影……?)


でも、セットにしてはリアルすぎる。

空気の重さが、作り物じゃない。


周囲には武士らしき男たちが、

厳かな表情で盤を見つめてる。


誰もが身じろぎもせず、

息をするのも憚られるような静寂。


その中で、

自分の心臓の音だけが、

やけに大きく聞こえた。


そして――盤面。


俺の視線は、自然とそこに吸い込まれた。


もう終盤だ。

盤上の駒の数は少なく、

張りつめた静けさだけが残っている。


次は多分、

先ほど穏やかな笑みを浮かべていた男の手番。


けれど、

どちらが有利なのかは、

ひと目ではまったく分からなかった。


一手の重さが、

この場の空気を押し潰している。


「これは……」


頭の中で何かが弾ける。


俺は驚いていた。

何年も将棋なんて指してなかったのに。


でも、確かに見える。

――角だ。角をあそこに打てば――


「――何者だ!」

「えっ!?」


背後から怒鳴り声。

振り返る間もなく、

肩を掴まれて床に押さえつけられた。


「痛い!痛いって!!」

「目的はなんだ!この曲者め!」

「何者だ!御城将棋の舞台を汚す不届き者が!」


複数の武士が俺を取り囲み、

刀の柄に手をかけてる。


えっ!?まさか、殺される!?


「待って、俺は――」


説明しようとしたけど、言葉が出ない。

だって、なんでここにいるのか、

自分でもわかんないんだから。


でも、こんな状況でも、

俺の目は盤面から離れなかった。


そうだ。

次の一手はあの手しかない――

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