第4話 御城将棋
(……え?……ここはどこ?)
祖父の部屋の埃っぽい空気は?
代わりに香の煙と古い木材の匂い。
顔を上げると、目の前に足つきの立派な将棋盤。
いや、盤だけじゃない。
盤の前には和服を着た二人の男が正座している。
そのうち一人は厳しい顔つきの老人。
もう一人は、穏やかな笑みを浮かべた中年の男。
どうやら将棋の対局中のようだ。
周りを見回す。
広い。天井が高い。壁には金箔の装飾。
そして奥に、段になった座敷。
そこに一人の男が座って、二人の対局を眺めている。
「時代劇の撮影……?」
でも、セットにしてはリアルすぎる。
空気の重さが、作り物じゃない。
周囲には武士らしき男たちが、厳かな表情で盤を見つめてる。
誰もが身じろぎもせず、息をするのも憚られるような静寂。
そして――盤面。
俺の視線は、自然とそこに吸い込まれた。
局面は終盤。
展開的に中年の男の方の手番だろうけど―
パッと見では優劣が分からない、難解な終盤戦だ。
どちらかが一手間違えれば、すぐに負けになるほどの、ギリギリの局面。
「これは……」
頭の中で何かが弾ける。
蓮は驚いていた。
何年も将棋なんて指してなかったのに。
でも、確かに見える。
――角だ。角をあそこに打てば――
「――何者だ!」
「えっ!?」
背後から怒鳴り声。
振り返る間もなく、肩を掴まれて床に押さえつけられた。
「痛い!痛いって!!」
「目的はなんだ!この曲者め!」
「何者だ!御城将棋の舞台を汚す不届き者が!」
複数の武士が俺を取り囲み、刀の柄に手をかけてる。
えっ!?まさか、殺される!?
「待って、俺は――」
説明しようとしたけど、言葉が出ない。
だって、なんでここにいるのか、自分でもわかんないんだから。
でも、こんな状況でも蓮の目は盤面から離れなかった。
そうだ、次の一手はあの手しかない――




