第10話 盤上の覚醒
そして局面は終盤を迎えた。
まだ局面は厳しい。
俺は劣勢であることを感じてた。
宗歩の次の一手を見つめる。
宗歩はゆっくりと駒に手を伸ばした。
そして――
△6六金打。
俺の6七の金の前に金を打った。
「……え?」
一瞬、呆気にとられた。
この手は――意外だった。
普通、将棋の形として6六には歩を打つところだ。
歩を打たれたら金が下がるしかなく、そこで金を打たれて難しい勝負だと思っていた。
だけど、6六に打たれたのは金。
蓮はこの指し手の意味を考えた。
――よく考えてみるとこの手も厳しい。
もうどうすることもできないのか?
でも――
何か手があるような気がした。
思わず、宗歩の表情を見た。
宗歩は無表情だったけど、瞳の奥は静かに微笑んでるように見えた。
(なんだ?…この感じ……)
胸の奥に、もやもやとした感情が湧き上がる。
この感覚、どこかで――
(おじいちゃん……?)
祖父もこんな手を指してた。
それは――
相手に考えさせる手。
成長させる手。
(この人は……俺を……)
試してる?
俺は、少し混乱した。
――だが、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
(考えろ……考えるんだ……)
頭の中で声が響く。
『じいちゃんなら……』
そして――
同時に、俺に一筋の光――ある一手が浮かんだ。
▲6八玉。
俺が盤上の7九の玉を6八の地点に置いた瞬間。
世界が止まったように静まり返った。
カチリ。
駒の音だけが広間に響く。
「……!」
宗歩の目が、大きく見開かれた。
周囲の武士たちも息を呑む。
自らの玉を再度、相手の駒が待ち受ける戦場に送り出す一手。
将軍が身を乗り出した。
そして、将軍は宗歩の表情を見たとき、蓮の一手が盤上この一手であることを悟った。
宗歩はしばらく盤を見つめ――
そして。
かすかに笑みを浮かべた。




