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棋聖の孫、江戸に立つ ~盤上の記憶譚~  作者: 一進(にのまえすすむ)
第1章 江戸・修行編
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第1話 プロローグ ~空の上の記憶~

[登場人物紹介]

 神矢 蓮    本作の主人公。高校一年生。

 神矢 宗一郎  プロ棋士だった蓮の祖父。

 神矢 千景   蓮の祖母。

 神矢 美月   蓮の母。夫を若くして亡くす。

 天野 宗歩   伝説の棋士。

 小野 五平   宗歩の弟子。

 徳川 家慶   江戸幕府第十四代将軍。

 雫       団子屋で働く町娘。

蓮は、空の上に浮かんでいた。

風もない。音もない。

……って、なんだこれ?


眼下に広がるのは、見覚えのある家の庭。

軒先には――

「おじいちゃん……?」

亡くなったはずの祖父・宗一郎がいた。


おじいちゃんの前には、将棋盤が置いてある。

足付きの立派な将棋盤だ。

そして、将棋盤を挟んで座ってるのは――

……ちっちゃい俺?


え?

俺、将棋なんてルールしか知らないけど……?

おじいちゃんと勝負になるわけ――


「ねえ!おじいちゃん!早く指してよー!」


うわ、声まで昔の俺だ。元気すぎる。

宗一郎は困ったように笑って、盤を見つめてる。


「うーん、困ったわい……」


どうやらおじいちゃんの手番らしい。

ちびっこ俺は待ちきれずに前のめり。

おじいちゃんが仕方なさそうに、一手指す。


「はいはいはい!俺の番ー!」


即座に指し返すちびっこ俺。

そして――詰み。

勝負が決まった。

ちびっこ俺が勝った。


「やったー!

 おじいちゃんに、

 二枚落ちで初めて勝ったー!」


え、本当に?

おじいちゃんが負けた?


いくら二枚落ちだからって、

だっておじいちゃんは……


「えっ、あなたが負けたの?」


おばあちゃんも驚いてる。

おじいちゃんはバツが悪そうに笑いながらも、

すごく嬉しそうだった。


そして、

ちびっこ俺は勝てた嬉しさで飛び跳ねてる。


……あ。

なんだ……この感覚。


胸の奥で、何かがほどけていく。

ずっと忘れていたはずの温もりが、

音もなく溢れ出してきた。


ああ――

そうだ。思い出した。


俺は、この頃――

勝てなくて当たり前なのに、

どうしても悔しくて、

何度もおじいちゃんに挑戦して。


勝てたことがただ嬉しくて、

それだけで世界が満たされていた。


そうだ。

俺は、将棋が好きだったんだ――


---


視界が真っ暗に切り替わった。

あれ?おじいちゃんの家じゃない?


ここは……俺の家だ。

薄暗い部屋。

これは……仏壇がある部屋だ。

父さんの。


仏壇の前に座る母さんが、

……静かに泣いてる。


父さんは、心臓が悪くて、

俺が小さい頃に亡くなった。


「あなたは……

 ただ将棋が好きだっただけなのにね」


ん……? 将棋?


そうだ。父さんも、将棋をしていた。

しかも、かなり強かった。

――プロになれるほどに。


けれど、どうしてだろう。

その姿が、どうしても思い出せない。




「――っ!」


目を開けると、白い天井。

そして俺は――

見覚えのないベッドの上にいた。

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