走れメロン
メロンは激怒した。
親友・スイカが悪徳ジュース工場に連行され、あと24時間で「100%スイカジュース」にされてしまうからだ!
助けるには、福島から武道館まで24時間走破し、ゴールした瞬間に工場の巨大ジューサーが止まるという、謎システムを突破するしかない。
「メロン!お前は24時間ランナーになるのだ!」
暴君プロデューサーの宣告が全国に響き渡った。
メロンは走った。
友情のため、親友を救うため。
だが、メロンの行く手には数々の誘惑が立ちふさがる。
まずは、大人のお店。
「お兄さん、ちょっと休んでかない?」
「今ならフルーツ割引だよ♡」
甘い囁きに足を止めそうになるが、メロンは必死に耐えた。
「危ねぇ……ここに入ったら俺までフルーツポンチにされちまう!」
なんとか振り切ったその先で。
河川敷の芝生。
そこには、ふかふかの草の上で気持ちよさそうにお昼寝している一羽のうさぎがいた。
すやすや、すやすや……。
耳がふわふわ揺れ、口元はにっこり笑っている。
その幸せそうな寝顔を見ていると、メロンのまぶたは自然と重くなった。
「や、やべぇ……親友を助けるんだ……オレは走らなきゃ……」
しかし芝生のやわらかさと、うさぎの寝息のリズムに誘われ。
コトン。
メロンは隣に転がり、ツルを枕にして気持ちよさそうにうたた寝を始めてしまった!
うさぎの隣でツルを枕に「コトン」と気持ちよさそうに眠りこけたメロンが気がつくと、頭に花やろ蕾がついた変な生き物達にご丁重に運ばれていた。
「や、やめろ!俺は…宇宙船の部品じゃない!食料確保にもされたくない!」
なんとか自力で転がり落ち、自由を取り戻したメロンだったが、災難は続く。
途中、メロンの甘い香りに誘われたメロンが大好物の緑の恐竜に「メロン、メロン、メロン」と追いかけ回され、危うく舌で捕食されかける。
さらに悪徳たぬき不動産の前に差し掛かると、「おや、立派な皮をお持ちで!リフォーム費用に皮を剥がさせていただきます!」と借金のカタに皮を剥がされそうになり、文字通り身ぐるみ剥がされる寸前で逃げ出した。
散々な目に遭いながらも、メロンはついにゴールの武道館が見えるところまで辿り着いた。しかし、電光掲示板に表示されたタイムは……24時間30分。
30分のオーバー。
スイカを救う謎の巨大ジューサーは止まらなかった。
絶望に打ちひしがれるメロンの元へ、暴君プロデューサーが小走りでやってくる。
「メロン!よくやったぞ!」
プロデューサーはメロンのツルを掴み、興奮気味に揺さぶる。
「え、でも、30分オーバーで……」
「何を言ってるんだ!次の番組を犠牲にするからテレビ中継は大丈夫だ!むしろオーバーしたほうが視聴率が跳ね上がるんだよ!感動の引き延ばし効果ってヤツだ!最高の絵面をありがとう!」
プロデューサーはニンマリと、テレビの向こうの数字が見えているかのような邪悪な笑みを浮かべた。
メロンの努力も親友の運命も、彼にとってはただのコンテンツでしかなかったのだ。
そして、感動のゴールの裏側で、遂に真実が明らかになる。
悪徳ジュース工場に連行され、ジューサーの前に立たされた親友・スイカが、鎖をジャラつかせながら、プロデューサーに向かって叫んだ。
「プロデューサー!メロンは走ったんだぞ!助けろ!」
プロデューサーはスイカに歩み寄り、冷たい目で告げる。
「残念だったな、スイカ。あのジューサーは、お前が悪徳業者に捕まった原因が解消されない限り、止まらないシステムだったんだよ」
「な、なんだって…?」
「そして、お前が悪徳業者に捕まり、ジュースにされそうになったのは借金が原因だ」
「借金?借金なんて知らないぞ!」
スイカは激昂する。
その時、プロデューサーが懐から取り出した一枚の紙を、ヒラリとスイカの目の前に広げた。
それは借用書だった。
そこには、太く、殴り書きのような文字でこう記されていた。
『金 500,000円お借りします
月の利息 25%
返せない時には
保証人のスイカがジュースになります
そして、記名欄には。
氏名 メロン
ハンコ入り』
それを見てワナワナ震えるスイカ。
「メ、メロン…?俺が…保証人…?」
彼の脳裏に、かつてメロンが「最高に美味しい」と熱弁していた、あの大人のお店で見たチラシの文字がフラッシュバックする。
『今ならフルーツ割引!
「最高級マスクメロン」のお客様限定!
当店指定の闇金ローンをご利用いただけます!
ご新規様は親友を担保に!?』
「メロン!お前が原因か!しれっと友情のため走ってるなんて言うな! まさにお前が言うな状態じゃねーか!!」
スイカの絶叫が木霊する中、プロデューサーはニヤリと笑った。
「ああ、ちなみに、あの『フルーツポンチにされちまう!』なんて言って大人のお店を振り切った場面、最高に視聴率が高かったぞ。感動的な偽善者ランナーとして、お前の株は爆上がりだ」
メロンは涙を流しながら、親友に向かって叫ぶ。
「スイカ!ごめん!…でも!まさか本当にお前をジュースにするなんて思わなかったんだ!」
プロデューサーは、動揺するメロンの肩に手を置き、満面の笑みでカメラに語りかけた。
「さあ!感動のフィナーレだ!メロンが流した友情の涙の裏で、スイカが命をかけて教えてくれる!友情なんて何の意味もないということをな!」
ジューサーがけたたましい音を立てて起動する。
ジューサーが稼働し、金属音が響く。
視聴者は固唾をのんで見守っていた。
ズゴゴゴゴゴ……!!
「スイカぁぁぁぁぁ!!」
「メロォォォォォン!!」
ジュース化の悲鳴がスタジオ中に響く。
だが次の瞬間。
ブシュッ!!!!
爆発音とともに、ジューサーから吹き上がる大量の赤い液体。
スタジオがまるごとスイカジュースの海と化した。
スタッフ「カットォォォォ!!!」
プロデューサー「最高だ!!このままCMいけぇ!!」
照明が落ち、視聴者の涙が乾かぬうちに番組は終了した。
翌朝。
ニュース速報。
『高級マスクメロン、縞模様がすべて消滅!』
『原因は“感動番組”の演出ミスか?』
メロンは鏡の前で震えていた。
「し、しまが……ない!?俺、ただのツルツルメロンじゃねぇか!!」
友人を売り渡した罪の代償として、ブランド価値を失ったのだ。
一方その頃。
ジュースになったはずのスイカは、なぜか生きていた。
ペットボトルの中で。
「ふっ……俺の果汁は永遠だ……」
彼は全国の自販機に出荷され、『奇跡のスイカジュース』として爆売れした。
そして、売り上げの一部はなぜか番組制作費に充てられた。
テレビの中で、プロデューサーが満面の笑みを浮かべる。
「感動とは、搾れば搾るほど甘くなるんです!」
メロン「もう二度と走らねぇ……」
スイカ(ペットボトル)「お前、走るたびにロイヤリティ入るんだぜ?」
ふたりの間に、奇妙な沈黙が流れた。
友情は、果汁50%以下。
だが、今日もテレビはフルーツを走らせる。




