第62話 贈り物
二人は色々と話をしながら並んで廊下を歩く。
「ところで、何処かへ行く途中じゃなかったのか?」
ふと気付いてジョニーは首を傾げる。
フィオナはニコリと笑って見せて、人差し指でツンと彼の頬を突いた。
「そろそろ戻って来るかな~、って門まで見に行こうとしてたの」
「そ、そうか」
ジョニーは照れて頭を掻く。そんな彼の顔を綺麗な青の瞳に映してフィオナは、ふふふと笑った。歳は三つ下だというのに彼女の前では序列七位の騎士様も形無しだ。一隊を率いる隊長であるジョニーよりも、その副官であるフィオナの方がこうした部分では強いようである。
「仲睦まじい事だな、ダルトン」
「ぬ……」
通り過ぎようとしていた倉庫から顔を出したのはクライヴだった。聖殿が商人組合に頼んだ物品の搬入に来ていたのである。
「クライヴさん、お疲れさまです」
「貴女の騎士様と比べれば、何の疲れもありませんよ」
「止めろ、お前っ」
クククと含み笑う眼鏡の彼にジョニーは突っかかる。恥ずかしさからの苦し紛れでクライヴが怯むわけもなく、ニヤニヤとしながら揶揄い返してくるだけだ。分が悪いと判断したジョニーは苦々しい顔をしながら彼を解放する。
「ああそうだ。フィオナさん、これを」
「?」
さも今思い出したかのような素振りで、クライヴは小さな紙袋を彼女に手渡した。突然渡されたそれを不思議そうな顔でフィオナが開くと、中には花の髪飾りが入っていた。それを取り出して確かめ、彼女はパァッと笑顔になる。
「わぁっ、これって! 頂いちゃって良いんですか!?」
「ええ、勿論」
「えへへ、クライヴさん、ありがとうございます」
「礼は私ではなく、貴女の隣にいる騎士様にどうぞ」
「えっ?」
スッと促されてフィオナはジョニーを見ると、彼は気恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「ジョニー、もしかしてずっと前に話していた事、覚えていてくれたの?」
「ん。あー、まあ、な」
「ありがとうっ! だーいすきっ!」
「うおっ!? ちょっ、抱き着くな」
腕に腕を搦めて彼女は自分の騎士様に愛を伝える。友人が目の前にいる状況での行為にジョニーは彼女を制止するがフィオナは決して離れない。そんな二人のイチャイチャを見てクライヴは胸焼けを感じつつ、少し呆れた笑いを漏らした。
しばし恋人同士らしい攻防を行ってジョニーはようやく解放された。満面の笑みを浮かべながら贈り物を確かめるフィオナを余所に、彼はバツが悪そうに頭を掻きながらクライヴを廊下の端に手招きする。
「何だ」
「ちょっと話」
「彼女とお前の恋の進捗を語られても困るんだが」
「違ぇよ、阿呆!」
絶対に分かっていて揶揄ってきた友人。ジョニーはそれなりの力を込めてその肩に拳打を見舞った。騎士から一撃を貰って商人は痛がるが、自業自得な彼はお構いなしにジョニーは話を続ける。
「それとなく渡しておいてくれ、って伝えただろうが」
「目の前で喜ぶ彼女が見たいかと思ってサービスしただけだぞ?」
フッとクライヴは鼻で笑った。
「しかしまあ記憶力の良い事だ。アレについて話したのは一年も前なんだろう?」
「覚えてられるワケが無いだろ、手帳に書いておいたんだよ」
「……お前案外マメだったんだな」
「馬鹿にしてんのか」
恋人としては非常に素晴らしい姿勢である、真面目なジョニーらしさが出ていると言えるだろう。しかし普段、雑な対応をされている者からするとやはり意外な印象を受けるのだ。
「ねぇねぇジョニー、これ付けてっ」
「お、おう……」
求められて断る事など出来るわけもない。ジョニーはフィオナに促されるままにそれを受け取り、彼女に付けてやった。髪飾りは決して華美な物ではないが、それゆえに真っすぐで美しい金の髪を引き立たせてくれる。
「どう? 似合う?」
「……ああ、勿論」
ジョニーは正直な感想を言っていない。心のままを表に出していたならば、愛の詩が止め処なく口から流れ出ていたであろう。クライヴの目の前でそんな事をしたならば向こう一年は揶揄われ続けてしまう、踏みとどまった自身を彼は褒めてやった。
そんな内なる攻防を見透かしつつ、商人の彼は一つ咳払いをする。
「声を掛けておいてなんだが……ダルトン、お前行く所があったんじゃないのか?」
「っと、そうだった」
彼女の美しさを前にして完全に忘れていた。
ジョニーはクライヴに軽く礼を言って、騎士団長の下へと急ぐ。




