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第47話 拠点構築

 草原中部、黒焦げ原。

 期せずして作り上げられたこの場所には強烈な魔力の残滓が漂っており、それを警戒した魔物が寄り付かないほぼ完全な安全地帯だ。探索に必要な物資の集積地として活用が出来る、そう考えたジョニーは前回の配信以降せっせと荷を運び込んでいた。


「ひぃ、ひぃぃ……ぐはぁ」


 自身より二回りは大きい荷物をドズンと地面に置き、ミケーネは力尽きて倒れる。一番力があるからというだけで規格外の量を背負わされ、この場所に辿り着くまでの行程は歩いているだけで修行の様相だった。


「ふふ、お疲れさまです、ミケーネさん」


 リーシャは水筒を手渡して、自分も背負っていた荷を大地に下ろした。


「ありがてぇ、ありがてぇ……」


 グビリグビリと飲んだ水筒の中身は僅かに甘みがあって爽やかな香り。ただの水ではない、がしかし茶でもない。レモンの香りと桃の甘みだけを抽出して、水の中に溶け込ませたかのような飲料である。


「うわ旨っ。なにこれ」

迷宮領域ダンジョンで採取した植物で試しに作ってみたんです、疲労回復の飲み物。折角なら美味しく飲める方が良いと思って工夫したんですが……」

「最高!いやお世辞とかじゃなくて本当に美味しい、店で売ってほしいわコレ」


 クピリと一口飲んで、ミケーネはしみじみと口にする。彼女は試作品をいたく気に入った様子だ。その感想を受けてリーシャはニコニコ顔だ。


「良かった~。商人組合ギルドにレシピを渡しておこうかな」

「おお、アーベンに特産品がっ」

「あはは、そんな大げさな物じゃないですよ」

「いやいやそんなコト無いって。冒険者にウケるよ、コレは。アタシが保証する!」


 謙遜する少女に対して、若くとも経験豊富な冒険者は自信満々に言い切った。


「ミケーネ、座ってないでこっちを手伝え」


 荷解きを始めたジョニーがミケーネを呼ぶ。


「え~~。今日はアタシ十分働きましたよぉ。というかジョニーせんせ、荷物運びしてないじゃないですかっ! リーシャちゃんですら背負って来たのに! 不公平、不公平ー!」

「喧しい、こっちは魔物の対処してたんだ。こっちも十分に働いてんだよ」


 荷物が多い事で移動速度が通常の探索よりも遅くなった。それによって魔物の接近を察知しても襲撃を躱すことが出来ず、必然的に会敵と戦闘が繰り返される事になったのだ。事前にその可能性を予測していたジョニーは荷物運びをミケーネとリーシャに、警戒と戦闘の役割を自身とロイに割り振ったのである。


「はぁ、仕方ない……がんばろ」


 水筒をリーシャに返してミケーネは、やおら立ち上がった。

 中身一杯でパンパンに膨らんだ布袋、小さめだがやたら重量のある木箱、保存食がミチミチに詰まった壺。どれもこれも、どうせ運ぶんだから積載容量の限界を、と攻めに攻めた詰め込み具合である。


「……アタシ、よくこれ持って来られたな」


 それぞれを縛り付けた縄を解きながら、しみじみとミケーネは呟いた。


 前回ジョニーが作った石柱の根元には既に、彼が一人で何度かに分けて運んだ物資が置かれている。今回の荷物を合わせれば、馬一頭分程度の重さにはなりそうだ。


「よし、それ持ってろ」

「はぁい」


 ジョニーは大きなハンマーを振り下ろし、ミケーネが支えていた丸太杭をガツンと打つ。数度叩いて十分に大地に食い込んだ事を確認して、同様に物資を取り囲むように打ち付けていく。続いて柱の上部同士を繋ぐように細めの丸太を縛り付けた。


「ロイ君、そっち大丈夫?」

「よっ……と、問題無いッス」


 組まれたはりに丈夫な布をバサッと被せる。変なれが生じないように布をピンと張った状態で維持し、ジョニーたちが釘でそれを柱に打ち付けた。


「これでよし」


 物資を雨から防ぐ簡易的な天幕の出来上がり。柱に高低差を付けて僅かに傾斜を付けた事で、大雨に降られても水の重さで潰れる事は無いだろう。


 行動を阻害しない程度となると町から持参できる食料や道具の量は限られている、それゆえにどうしても探索範囲には限界があるのだ。先の山へのルート開拓の様に、何処からでも見える明確な目標物があれば行動しやすい。しかしそれが無い草原地帯を何の手がかりも無く放浪するのは、あまりにも非生産的だ。


 しかし今後はここ(黒焦げ原)を中継地点として探索が可能となった。拠点を中心にして、物資に余裕を持って四方八方へ動く事が出来る。仕事が捗るというものだ。


 暗くなる前に作業を終えたジョニー達は、続いて野営の準備を始める。


「色々な物があると便利ですね」


 リーシャはそう言いつつ、持ち込んだ資材の中から鍋を取り出す。今まで携帯して使っていた物とは別、ここに置いていく事を前提とした調理器具である。


「出来れば肉とか魚とかの食料も置いていきたいッスね。まあ腐っちゃうから無理ッスけど」


 今日の料理当番であるロイは、必要となる材料を探す。作る物は既に決めている。と言うよりも、作れる物を頑張って作るだけ。それしか出来ないのだから、ウケを狙うとか気の利いた事をするとか、そんなのは考えていないのだ。


「アタシ、水汲んできま~す」

「おう、気を付けろよー」


 焚火を準備しながらジョニーはミケーネに声を掛ける。黒焦げ原に魔物は寄り付かないが、一歩外へ出たならば話は別。草深い草原で気を抜いたら魔物の餌食だ。しかし冒険者として十分な経験を積んだ彼女ならば問題はない。それ故に師匠であるジョニーも軽い調子で送り出したのである。実際、少ししたら水で一杯のかめを抱えて無事に戻ってきた。


 野営の準備は進んでいく。

 そして念のためにジョニーは魔物避けの杭を地面に打ち込んだ。


「お」

≪ジョニキ、やっほ≫

≪こんばんちゃッす!≫


 今回は無事に配信が始まった、やはり異世界と繋がる規則性は不明である。


「よう、暇人ども」

≪失敬な、拙者たちは暇じゃないでござるっ≫

「いや暇潰しに配信に来てんだろが」

≪そうとも言うですぅ≫

「そうしか言わねぇよ」


 いつも通りのやり取り、配信は今日も平常運転だ。


「み、皆さんっ。きょ、今日はオレが料理しますっ!」

≪ロイ君が!? 料理できるんだ!≫

≪怪我しないように気を付けて、落ち着いて調理してくださいね。≫

「は、はいっ!」


 心配する気も無かったジョニー、心配する必要が無かったリーシャ。二人とは異なり、料理のイメージが無いロイに対しては視聴者たちも気に掛けている様子だ。その声に後押しされて、彼は料理へと向き合う。


≪今回も楽しみですわ~、頑張ってほしいですわ~!≫


 ロイが何を作るのか。

 視聴者たちは心配しつつも期待して、配信を見守る。

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