第40話 第一回お料理配信
「よう、暇人ども。よく来たな」
安全地帯を作り上げて焚火を用意した所で、配信が始まる。
≪歓迎されたッ!?≫
≪いつもオレ達をうっとーしそうにするジョニキが!≫
≪拙者たちを!≫
≪歓迎したですぅ!?≫
「不満なら帰れ、鬱陶しい奴らめ」
折角迎えてやったと言うのに散々な言われ様で、ジョニーは渋い顔をした。いつも通りのやり取り、これぞ彼の配信である。
「皆さん、そんな風に揶揄っちゃダメですよ?」
≪はーいッ!≫
≪リーシャが言うなら従うしかねぇな≫
おっさんよりも美少女の言う事を聞きたくなるのは当然というもの。リーシャが窘めると、視聴者たちはあっという間に彼女に従った。異世界の住人達は実に現金な連中である。
「リーシャさんの方が師匠よりも配信では強いッスねぇ」
≪ロイ君もお元気そうで何よりです。≫
「みんな、ちゃんと言う事聞けて良い子だねー」
≪ミケーネさん、こんばんは~≫
はははと笑うロイと窓に向かって手を振るミケーネ。視聴者たちは彼らにはちゃんと挨拶する、揶揄い弄るのはジョニー相手だけである。
≪リベルちゃん、何してるですぅ……?≫
困惑した異世界の住人の声が聞こえる。その戸惑いの対象である薄紫色の髪の少女は、何故か窓に背中を向けて座っていた。隣には長い茎を持つ草が纏めて置かれており、彼女は時折それを一本だけ取って投擲している。ダーツのように投げられたそれは超高速で飛んでいき、遠くの草むらの中へと吸い込まれていった。
「的当て」
顔だけ振り向いてリベルは言う。
彼女が的としているのは何なのか。まだ配信には二回しか登場していないにもかかわらず、少女がどういう人間で何を仕出かすのかを視聴者たちは良く理解していた。放たれた植物の矢は、草むらに潜む魔物を正確に射貫いているのだろう。
リベルにとってはお遊びだ。しかし期せずして出来た野営地が危険な場所だと魔物が認識してくれれば、後に冒険者たちがやってきた場合に安心できる。だからジョニーは彼女の行いを止めていないのである。
「さてと、今日はちょっと準備してきたモンがあってな」
≪準備って何だよジョニキ≫
訝しんで視聴者たちは疑問のコメントを打つ。その反応にしてやったりという笑みを浮かべて、ジョニーは鞄の中から随分と大きい布包みを取り出した。彼は窓にそれを見せつけながら、勿体付けてゆっくりと広げていく。
ようやく中から顔を出したのは、十数個のクリーム色の豆の粒。
だがしかし、それは視聴者たちがよく知る『豆』ではなかった。
≪でッッッか!!!≫
豆の粒、だがそれは人の拳よりも一回り大きい。それが十数個ともなれば、布包みがパンパンに膨らむのも当然だ。ごろりと崩れ落ちる様は落石のような重量感である。
「ふっ、驚いてくれて何よりだ」
≪ジョニー殿に得意そうにされると何だかイラつくでござるなぁ≫
「なんでだよ」
≪そうそう、そういう感じがらしいですぅ≫
どうやらジョニーは異世界の住人にとって玩具であるようだ。勝ったと思った所でひっくり返されて、彼はチッと舌打ちした。リーシャがクスクスと笑い、ミケーネがニヤニヤしている。ジョニーはムカついた。
「ふんぬッ」
その苛立ちを哀れな豆にぶつける。グシャリと握りつぶして、薄皮の中身をボタボタと地面に置かれた両手鍋の中へと注いだ。十数個全てをそうすると、鍋の六割程度が満たされる。
≪ジョニキ、大人げないぞ≫
≪食べ物を無駄にするのは良くないと思います≫
「んなワケ無ぇだろが」
手に付いた残骸を水で洗い流して、ジョニーは否定した。
「今回は料理配信だ。まあ今までもメシ作りは見せてたが、探索中に採取したり狩猟したモンを焼いた程度だったからな。わざわざ食材を持ってきてやったんだ、感謝しろ」
≪感謝の強請りでござる!≫
理不尽な要求に異世界の住人達は恐れ戦いた。
騒ぐ彼らを無視して、ジョニーは調理を進めていく。
潰した豆で六割満たされた鍋に一割半の量の水を注ぐ。それを火に掛け、ゆっくりとかき混ぜながら熱を加えていく。すると、塊だった豆の中身が次第に解けて液体に変わっていった。
さらに火を入れていくと鍋の中身に僅かなとろみが発生する。少量の塩と数種の刻んだハーブを投入し、しばらくかき回し続けて完成だ。
「よし、出来たぞ」
完成したスープは柔らかな薄黄色。それを木の器に取り分けて、本日の夕食の始まりだ。
≪おー、ウマそうじゃん≫
「コイツはミルク豆のスープ、食事処じゃ一般的な料理と言えるだろうな。スープではあるがネットリ気味で、簡単に作れるわりに案外腹に溜まるから朝食はこれだけという奴もいる。牛乳に近い味わいで甘めではあるがしつこさは無く、パンとの相性も良いぞ」
スプーンで掬いあげたものを垂らすと、水よりも多少の粘度がある事が視聴者たちにも分かる。きめ細やかな質感の液体は焚火の光を受けて金に輝いており、どこか高貴さも覚える見た目だ。
が、しかし。
≪うん、美味しそうですぅ≫
≪それはまちがいないッ≫
≪だけど……≫
なぜか視聴者たちの反応は悪かった。今までの配信のように彼らがワイワイと騒ぐだろうと考えていたジョニーは、不思議そうに首を傾げる。
「なんだよ、反応が悪いな」
≪いやジョニキ、だってなぁ≫
何か言いたげで、しかし口に出すのも、という戸惑いが感じられる視聴者たち。ジョニーには彼らが何を考えているのか、何に気を使っているのかが分からない。そんな彼の様子に、視聴者の一人が意を決して意思を伝える。
≪こう言っちゃ悪いけど…………すッごい地味ッッッ!!!≫
「なんだとぉ!?」
まさかの評価。配信者は驚きのあまり立ち上がってしまった。
「なんでだよ! 前にリーシャ助けた時にコレに近いの作ったら、そこそこ盛り上がってたじゃねぇか!」
≪だからだよ!≫
「はぁ?」
返ってきた言葉の意味が分からず、困惑と共に冷静になったジョニーは腰を下ろす。
≪配信には色々な需要があるのです。それは癒しであったり、刺激であったり。ジョニーさんの配信にはその両方があります。こうして食事風景を眺めながらお話する事が癒しであり、私達とは違う世界を知れる事が刺激であるわけです。≫
改めて配信の本質を説明され、なるほど、と配信者は頷いた。
≪それでその、人間は一度見た物に似た物を見ても驚きませんよね?≫
「…………なるほど」
異世界の住人達の言いたい事を理解して、ジョニーはしみじみと頷いた。
同じ手品を二度見た時のように、つまりは刺激が足りないのだ。リーシャを助けた時の芋お粥は、そもそもジョニーが料理を出来るという事や視聴者たちが知らない激甘レモンの話など驚きがあった。
しかし今回に関してはジョニーが料理を出来る事など全員が知っており、使った食材は確かに見た事の無い物だがスープにしたために原型が無くなってしまった。つまりは『ただ料理しただけ』になっているのだ。
非常に贅沢な話ではあるが視聴者たちは『新しい』を求めているのである。
≪ジョニー先生の次回の料理にご期待くださいッ≫
「なんだソレ……いや、次回の料理担当は俺じゃねぇぞ」
洒落を言っているらしいコメントに、少しの落胆で勢いを無くしたジョニーは反応する。そして図らずとも次回配信の予告に繋がった。
「次は私です、頑張りますねっ」
≪リーシャたんのお料理配信! これは神回確定でござるっ!≫
≪何作ってくれるのか、今から楽しみです≫
可愛らしく気合を入れるリーシャに視聴者たちが湧きたつ。
納得できるが納得できない複雑な思いを抱えながら、ジョニーはスープをひと口啜ったのだった。




