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第15話 通常配信(教育について)

 探し出した枝を腕一杯に抱えて戻ったロイ。彼はジョニーの指示の下に着火を済ませ、焚火を開始する。もたもたと手惑いながらも、彼は何とかは野営の準備を終える事が出来たのだ。


≪お、ロイくんですぅ≫

「こ、こんにちはっ」


 ジョニーが安全地帯を作り上げた所で窓が出現し、今日も配信が始まる。昨日知り合った視聴者に挨拶し、彼は地べたに座った状態でペコリと頭を下げた。リーシャと同様に、若者は順応するのが実に早いようだ。


≪おや、昨日よりも痣が多くなっているようですが、大丈夫ですか?≫

「あ、これはジョニーさんに……」

≪ジョニキ、イジメすんな!≫

≪殴る蹴るとか非人道的すぎるッ≫

「好き勝手言うんじゃねぇ。ロイ、お前もだ。誤解されるようなトコで言い淀むな」

「す、すみません」


 嫌そうな顔をしてジョニーはロイと視聴者を窘める。


≪??? ジョニー殿に殴られたりはしていない、という事でござるか?≫

「あ、殴られはしたんスけど……」

≪ジョニキ、イジメダメ絶対!!!≫

「あーあー、鬱陶しい。稽古を付けてやったんだよ、俺が。あと魔物との戦闘訓練もな。痣はそのせいだ、治癒魔法でも掛ければすぐに治る」


 ため息交じりに肩をすくめて、師匠は全てを説明した。それで納得した視聴者たちはロイに対して労いの言葉をかけ、少年は頭を掻きながら恐縮する。


「あっ、この野営も教えてもらいながらオレがやったんスよ!」

≪少々乱暴ですが、ジョニーさんは良い師であるようですね。≫

「止めろ止めろ。俺は師匠なんてガラじゃねぇよ」

「いえっ! ジョニーさんは素晴らしい師匠ッス!オレが断言します!」

「まだ半日も経ってないだろが。素晴らしいもクソもあるか」


 身を乗り出して視聴者の言葉に賛同するロイの頭を、ジョニーは掴んで押し戻した。そんな彼らの様子を見て、視聴者たちは。


≪良い感じの師匠と弟子じゃん≫

≪口では嫌だと言ってもジョニー殿は面倒見が良いでござるな≫

≪そもそも俺らに付き合ってくれてる時点で面倒見は良いに決まってるッ≫

≪色々言ってるけど良い人ですぅ≫


 いつも通り好き勝手していた。


「黙れ、阿呆ども」

≪ははは、みんなジョニーさんの事が好きなんですよ。≫

「あ、オレもですっ」

「気色悪ぃ」

「酷い!」


 嫌そうに顔を顰めたジョニー、ロイは嘆いた。野郎どもに好意を寄せられて喜ぶ趣味は彼に無いのである。とはいえ本気で言っている訳でもない、友好的に交流できる相手を嫌うほど気難しくも狭量でも無いのだ。


「さてと、今日は何にも話す事は無いぞ」

≪え~~~~配信者としてどうなんだよ、ソレ≫

「望んでなったわけじゃねぇからな。お前らが勝手に見に来てるだけだ」

≪まあ、それはそうでござるな≫

≪というか、今日はリーシャちゃんいないですぅ?≫

「ああ、リーシャは本業(薬士)の方で不在だ」

≪うーん……今までも動きのある配信じゃないし、雑談配信ッて事でどう?≫

「単なる駄弁だべりってか。まあそれも良いか、といっても何を話すかね」


 腕を組んでジョニーは考え、弟子も彼と同様の仕草をする。ロイが真似をしているのを横目で認識したジョニーは、彼の頭をスコンと殴った。


「痛っ」

≪ジョニキ、暴力はんた~い≫

≪ポコポコ殴るのは良くないでござる≫

≪こっちじゃ一発で問題になるッ≫

「あァ? そっちは随分窮屈なんだな。悪ィ事する馬鹿はどうしてるんだよ」

≪今は、話し合って解決、が普通ですね。私が子供の頃、五十年も前では鉄拳も竹刀も飛んできましたが、今やったら停職どころか逮捕されるでしょうね。≫

「はー、そりゃ大変だ。だが跳ねっ返りな奴もいるだろ、こっちが手を出せねぇの理解して好き勝手する輩もいそうだな」

≪御明察の通りです。現在はそれが教育現場の悩みの一つですね。≫


 元教師として、大御所はかつての職場と同僚たちを思い出しながらコメントを書き込む。教育という子供の未来を担う仕事である教師、昔と今では問題の方向性が変わったが厄介な事には変わりがないのだ。


 頭の中に響く彼のため息交じりな声を聞き、ジョニーは顎に手を当てて考える。


「ふーむ、となると俺がコイツをボコボコにした状態で配信するのはマズいのか?」

い顔をする方は、多くないでしょうね。≫

≪イジメを思い出す人もいるかもしれんでござる≫

≪古傷がうずく……ですぅ≫

「そうかそうか、なるほどな」


 異世界の常識を知り、腕を組んだままうんうんと彼は頷いた。


「よし、これからはボコボコにしたコイツの傷を治療してから配信する事にしよう」

≪ちがう、そうじゃないッ≫

≪そもそも傷を作るような事をするなって言ってんだよ!≫


 視聴者たちから総ツッコミを喰らったジョニーは、冗談だ、と言って笑う。


「魔物と戦う時はともかく、俺が相手する場合はもうちっと手加減してやるよ」

「あ、ありがとうございますッ!」


 救いの光を見付けたとばかりの明るい顔をして、ロイは最高速度で頭を下げた。辛い訓練で強者になれるなら望む所と覚悟を決めていたが、もうちょっと優しい稽古で強くなれるというのであればそっちの方が良い。剣士ロイは、あくまで平凡な少年なのである。


≪めっちゃ嬉しそうでござる≫

「えっ、いやいや、そんな事は~」

≪笑ってる笑ってる、正直すぎるッ≫

≪まー、当然と言えば当然だろ≫

≪ふふふ、良い師に恵まれましたね、ロイ君。≫

「っ、はい! ホント、その通りッス!」


 基本的に師となれるほどの熟練者には、経験を積み上げてきたという自負がある。それ故に自分のやり方を押し通す者が多いのだ。ジョニーの様に簡単に他者の意見を受け入れる師は珍しい。


 視聴者からもロイからも褒めそやされて、ジョニーは面倒臭そうに頭を掻いた。


 皆が笑って駄弁っていた、その時。


≪ナニソレ、ただのお遊びじゃん、クソすぎ≫


 その場の雰囲気に相応しくない、新しい視聴者が現れた。

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