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第43話 合否の行方

 二月中旬、私大受験の合格発表が順次行われる時期になった。僕は第一志望のA大学と第二志望のB大学の結果を待ちわびているが、ネット上の合格速報でB大学の合格発表が今日あると聞き、朝からスマホを離せない。学校が終わると同時に真っ先に下駄箱でスマホをチェックしようとするが、案の定、サイトが混んでいてアクセスが難しい。


 「うわ、全然繋がんない……」


 廊下の隅で焦っていると、クラスメイト数人が「俺もだわ」「サーバーダウンか?」と苦笑い。岸本さんはこの日は別の試験で来ておらず、LINEを送っても既読がつかない状態だ。誰にも相談できず、一人でもどかしい。


 結局、塾へ移動してWi-Fiを使いながら何度もアクセスを繰り返し、夜になってやっと画面が開いた。結果は――合格。第二志望B大学には合格できたのだ。


 「やった……!」


 思わず声が漏れ、周りの塾生に「おめでとう!」と拍手される。嬉しさで体が震えるが、同時に「第一志望はまだ発表されてないし、浮かれすぎちゃダメだ」と自制する。


 さっそくLINEで「B大受かったよ!」と報告を打つと、彼女から「うわあ、おめでとう!!! よかったね、ひとまず安心だね」と深夜近くに返信が来る。彼女は試験の疲れでヘトヘトらしく、詳細に会話する余裕はなさそうだが、祝福してくれたのが嬉しい。


 (これで少しは気が楽になった。あとはA大に受かれば……いや、受かりたい。頑張るぞ)


 数日後、今度は岸本さんの音大合格発表がある。彼女は「もし落ちたら、一般大に行くしかない」と覚悟しており、僕も内心ドキドキしながら待機する。だが、なんと当日、彼女は自宅のパソコンで合否サイトを確認しようとしてもアクセスできず、しばらく混乱したという。


 夜になり、「結果が見られないんだけど!」と彼女からLINEが来て僕も同様に検索してみるが、大学のサーバーが落ちているらしい。数時間後、ようやく復旧し、彼女は「……落ちた……」というメッセージを一言だけ送ってきた。


 僕は心が締め付けられる。あれだけ頑張ってレッスンを受け、父親にも協力してもらっていたのに、第一志望の音大に落ちてしまったのか。すぐに電話したいが、夜遅いので迷いながら「大丈夫?」とLINEで問いかけると、既読がつかないまま時間が過ぎる。


 翌朝になり、彼女から「ごめん、昨日は色々考えてて寝ちゃった。大丈夫……まだ滑り止めの音大もあるし、一般大もある。とりあえず今日は学校休むね。少し気持ちの整理が必要……」と返事が来る。


 僕は胸が苦しい。なんて声をかければいいのか。無理に「元気出せ」なんて言っても逆効果だろうし、そっとしておいたほうがいいのか。


 登校後、担任の先生が「あの子、今日は体調不良で欠席」と言っていて、クラスメイトも「受験疲れかな……」と噂する。僕は自分の勉強もしなきゃいけないし、何ともやるせない。


 岸本さんはそこから数日をかけて立ち直り、第二志望以下の音大(滑り止め)と一般大の試験に臨むことになる。第一希望の音大に落ちたショックは大きいが、「ここで諦めるわけにはいかない」という強い意志が彼女を支えているようだ。


 僕も「A大の発表を待ちつつ、他の私大の結果を確認する」という落ち着かない時期で、互いに余裕がない。


 ある朝、彼女が青ざめた顔で「第二志望の音大もダメだった……」と打ち明ける。滑り止めと思っていた音大にも落ち、もう残すは本命ではない第三志望の音大のみ。だが、そこは規模が小さく、通学も遠く、受かっても行くかどうか迷うと言う。


 「私、やっぱり才能なかったのかな。音大、厳しいね……。でも、もうちょっとだけ諦めたくない。最後の一校、頑張ってみる」


 彼女の目には涙が浮かんでいるが、強がっているように見えた。僕はかける言葉を失う。


 さらに、彼女は並行して一般大の受験日も迫っている。勉強が中途半端にならないよう必死に追い込んでいるが、音大対策と両立できるほど生易しいものではない。先生からは「安全校をもう一つ増やしては?」と提案されても、出願期限が過ぎている場合が多く、父親も困り果てているという。


 そんな苦境にある中でも、彼女は「大友くんはどう? A大の発表いつ?」と気遣ってくれる。僕は「来週だよ。正直怖い」と肩をすくめる。まさに“受験の嵐”だ。


 そして、僕のA大の合格発表当日が訪れる。朝からそわそわし、学校が終わると同時にネットにアクセスするが、またしても混雑。しばらく廊下で粘るがダメで、家に帰ってPCを立ち上げてもなかなか繋がらない。


 不安とイライラで胸がいっぱいになり、「もうダメかもな……」と半ば投げやりになりかけた頃、夜10時過ぎにようやくサイトが開いた。そこには――受験番号なし。つまり、不合格という事実。


 「……落ちた、か……」


 頭が真っ白になる。B大に合格しているから浪人しなくても進学先は確保できているが、A大が本命だったのに、という悔しさがこみ上げる。親(叔父叔母)にも申し訳ないし、なにより自分が情けない。


 LINEで「A大ダメだった」とだけ打ち込むと、岸本さんから割とすぐに「そっか……残念。でも、B大があるもんね。大丈夫だよ、大友くんならどこでも頑張れるよ!」と励ましの返事が来る。


 嬉しい反面、喪失感が消えない。部活仲間や塾の友人に「ごめん、落ちた」と伝えると、「残念だったな。でもお前ならB大で頑張れるさ」と言われる。頭では理解しても、心がついていかない。


 (もう少し頑張れたのか、それとも実力不足だったのか……)


 夜中に彼女から電話が来る。「大友くん、話せる?」――その声は悲しげで、まるで自分のことのように落ち込んでいるようだった。僕は胸が熱くなり、電話越しにお互いを励まし合う。


「B大も悪くないし、受かっただけすごい」


「ありがとう、でもやっぱりA大行きたかった」


と本音をぶつける。彼女は「わかるよ。でも受験は運もあるし……」と切ない声。結局、深夜まで言葉少なに通話を続け、そのまま寝落ち寸前で切る。二人して失敗の苦しみを共有しつつ、まだ希望を捨てきれない。


 二月下旬、岸本さんはいよいよ第三志望の音大と一般大学の試験に臨む。音大のほうは小規模な私立で、正直あまり乗り気ではないと言っていたが、最後のチャンスなので全力を出す。


 一般大学の方も難易度はそこそこ高く、音大対策に偏ってきた弊害で一般科目の勉強が足りず、彼女は「正直、受かるか微妙」と語っていた。僕はせめて彼女に合格の朗報があるよう祈ることしかできない。


 自分の試験が終わり、進路はほぼB大に決まりだが、彼女の結果がまだ出ないから落ち着かない。会おうにも彼女は時間がなく、LINEも「今日は試験で疲れた、おやすみ」と短文で終了することが多い。寂しいけど、仕方ない。


 そして三月の初頭、一般大学の合否が出る日を迎える。僕は朝からソワソワし、彼女の連絡を待つ。夕方になっても連絡はなく、夜8時頃になって「落ちた……やっぱり無理だったみたい」とメッセージが入る。連続で不合格という現実。


 僕は息が詰まりそうになる。彼女は大丈夫なのか。急いで電話するが出ない。再度チャレンジしてやっと繋がると、「ごめん、ちょっと父と話してた」と力のない声。どう声をかければいいか分からないが、「大丈夫?」「まあ、想定内かな……でも、やっぱり落ち込む」と苦笑している。

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