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第35話 三年生の卒業式と新学期の足音

 三月下旬、三年生の卒業式が行われる日が来た。校庭の桜はまだつぼみが固いが、空は晴れて陽射しが少し春めいている。僕ら二年生は式の運営や合唱で参加し、先輩たちを拍手で送り出す。


 部活の三年生も、晴れやかな姿で袴やスーツ姿をまとい、卒業証書を手にして「ありがとう、みんな!」と叫んでいる。僕らは教室の外で花束を渡したり、写真を撮ったりして、笑いと涙に包まれる。岸本さんも、かつて一緒に演奏した先輩たちと抱き合い、「絶対音楽続けるから!」と宣言していた。


 「ああ、もうこの人たちと部活することはないんだな……」


 僕も感慨深くなる。三年生と過ごした時間は短かったが、文化祭やコンサートで多くを学んだし、支えられた。


 卒業式が終わると、次は二年生が“学年末テスト”をクリアし、春休みに突入する流れになる。部活も新入生を迎える準備を考えなきゃいけないし、クラスの打ち上げもどうするかという話が出たりして、バタバタ感が絶えない。


 芦沢は「俺、なんとか推薦の目はゼロじゃないらしいから、三年でさらに成績上げるつもり!」と意気込み、クラス委員は「三年で受験勉強が本格化しても、行事は盛り上げたい」と張り切っている。周りがそれぞれの目標を宣言していく中、僕は“文系大学進学”という曖昧な回答を変えられずにいた。


 岸本さんは父親と何度も話し合いを重ねたらしく、「とりあえず受験勉強をして、音大も視野に入れながら一般大学も複数校受ける。専門学校はもう少し情報を集めてからにする」と、中間的な結論を出している。


 「父が転職して少し安定したら、奨学金とバイトとかで音大行けるかもしれないんだ。それまで浪人になる可能性もあるけど……。でも、同時に一般大学を受けて、音楽サークルで続ける道も確保する。二本立てでいくよ」


 彼女はそう言い、少し吹っ切れた表情を見せる。僕は「応援する」とだけ伝え、内心ホッとする。もし遠方の音大へ行くことになっても、離れるのは辛いが、彼女が後悔しない道を選ぶなら受け止めるしかない。


 新学期が近づいてきたある日、彼女から「春休みに二人で旅行っていうのは難しいかな?」と打診があった。まだ高校生だし、遠出の旅行はハードルが高いが、「日帰りか、一泊程度なら大丈夫かも……」と思う。


 彼女の父親も、最近は転職先が決まりかけていて忙しい分、娘の行動には口出しできない状態らしい。叔母さんも「変なことしなければいいわよ」と大らかに構えている。


 「じゃあ、近場の温泉とかどう? 日帰りでも楽しめるし……」


僕の案に、彼女は「いいね! 温泉か、いいかも……でも恥ずかしいかな?」と笑う。


 もちろん男女別の大浴場だから一緒に入るわけではないが、“二人で温泉旅”というだけで特別感がある。


 「まあ、無理しない範囲で計画しよう。春休みの宿題とかもあるし、部活の新歓準備もあるし……」


 「うん、でもせっかく付き合ってるんだから、少しだけ思い出作りたいよね」


 その言葉を聞いて、胸が温かくなる。付き合い始めてまだ日が浅いが、もう互いを大切に思う気持ちは揺るぎない。進路問題や家庭の事情は大きいが、それでも“二人でいる喜び”を少しずつ積み重ねたい。


 三学期の終業式が行われる。二年生の成績表が配られ、クラス替えの噂も流れ始めるが、高校によっては三年でクラス替えがない場合もあるし、そこはまだ未定。担任の先生は最後のホームルームで、「来年度はいよいよ受験学年! 悔いのない一年にしよう」と熱弁をふるう。


 そんな先生の言葉を聞きながら、僕は“もうすぐ三年生か”としみじみ感じる。ここで過ごす高校生活も残り一年弱。岸本さんやクラスメイトと一緒に笑える時間は限られている。それが切なくもあり、燃えるような思いに駆られる。


 放課後、下駄箱で靴を履き替えていると、岸本さんがやってきた。


 「お疲れさま、終業式も終わったね……。春休み、どうしようか? 日程は?」


 「俺は大体空いてるけど、部活と叔母さんの都合あるからまだ確定じゃない。でも、日帰り温泉プラン考えてみる?」


 「うん! 楽しみ……」


 彼女は嬉しそうに笑い、「そういえば、部長が一緒に新入生勧誘のポスター作ろうって言ってたけど、どうする?」と話題を変える。二人は並んで昇降口を出て、門をくぐるまで雑談を続けている。


 夕焼けのオレンジ色が校舎に映り込む中、手を繋ぐわけではないが、肩が触れそうなほど近い距離で歩く。もう少しで春休み――また新たな季節が始まり、僕らの関係もさらに変化するだろう。


 第三学期が終わり、二年生も終わり。廊下には荷物を抱えた三年生がすでに退散し、校舎の一角には張り出された合格発表の情報や、進路に関する掲示がある。みんなが“さよなら、そして次へ”という雰囲気を醸し出している。


 僕と岸本さんにとっては、このタイミングで“さよなら”という言葉が必要なわけではない。ただ、彼女が言うには「いつか、音大を目指すなら遠いところへ行くかもしれないし、そこで一時的に離れる可能性もある。でも……」と続ける。


 「もしそうなっても、私たちならきっと大丈夫だと思う。お父さんのこともあるし、簡単に断言はできないけど……“さよなら”は言わないよ。ずっと」


 彼女の言葉に、僕は強く頷く。僕も、仮に離れることがあっても、彼女への想いを捨てるつもりはない。三年生になっても、その先の将来も、一緒にいられるなら――そう信じたい。

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