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第34話 二人の秘密とクラスの波紋

 新体制になった吹奏楽部の練習や、三年生の卒業準備が進む中、僕・大友遼と岸本亜衣は“こっそり付き合っている”状態をキープしていた。といっても、やはりクラスメイトには多少バレかけている節がある。


 ある日の昼休み、芦沢がにやにやしながら「大友、最近なんか浮かれ顔じゃね?」と突っ込んできて、さらにクラスの女子数名も「岸本さんと仲良いよねー」と絡んでくる。僕らは「そ、そうかな……」とごまかすが、数人は完全に勘づいている様子だ。


 「まあ、いまはタイミング見て言ってもいいんじゃない?」


 岸本さんは放課後の廊下でそう提案してくれる。別に誰に隠す必要があるわけでもないが、言ったら言ったで周囲の冷やかしが激しくなるのは目に見えている。それが嫌で渋っていたのだ。


 しかし、クラスの女子の一部は既に「絶対そうだよね」「あの二人絶対付き合ってるよ」と確信に近い噂を交わしている様子だ。下手に隠すより、「はい、そうです」と認めたほうが楽かもしれない。


 (でも、なんか恥ずかしい……)


 そんなふうに思う気持ちもあるが、彼女自身が「そろそろいいんじゃない?」というなら、僕もそれに合わせようと考え始めている。


 そして、ある日の放課後。たまたまクラスに残っていた芦沢やクラス委員、仲の良い女子たち数人が固まって談笑しているところへ、僕と岸本さんが合流する形になった。


 「あ、ちょうどいいじゃん。大友、岸本。お前ら最近どうなん? ほんとに付き合ってるんだろ?」


 芦沢が直球を放り込む。周りの女子も興味津々にこちらを見る。


 さすがにここまで聞かれては逃げられない。岸本さんも苦笑しつつ僕をちらりと見て、「……まあ、その……」と切り出した。


 「実は……はい、そういうことです……」


 教室が一瞬しんと静まり、次の瞬間「やっぱりー!」「おめでとうー!」という歓声が起こる。クラス委員が「いやー、よかったね!」と拍手し、芦沢は「ほら見ろ、俺の勘当たったろ」とドヤ顔。周りの女子数名は「どうやって付き合うことになったの?」と詰め寄ってくる。


 「いや、あの……えっと、そんな詳しくは言わないけど……ご想像にお任せします」


 僕がそうごまかすと、「えー教えてよー」「いいじゃんいいじゃん!」と騒がしい。岸本さんは頬を赤らめながら「まあ、私たちもまだ慣れてなくて……」と困ったように笑う。


 こうして、クラスのほぼ全員に交際がバレる形となった。表面的には多少冷やかされるが、「へえ、いいね」と好意的に受け止める人が大半だ。僕らとしても、変に隠さなくていい気楽さを覚えて、内心ホッとしている。


 クラスメイトへの報告というかバレたは済んだが、岸本さんの家族――つまり父親に対してはまだ秘密らしい。彼女は「さすがに言えないよ。まだ高校生で、しかも父は転職で余裕がないから」と苦笑する。


 僕も自分の叔父叔母に言う予定はないが、いつかは話すことになるのかもしれない。先のことを考えると少し胃が痛くなるが、今はあまり深く考えないことにした。


 「進路がもう少し見えてきて、父ともちゃんと話せるようになったら、そのとき言おうかな……それまでは、私たちの問題だもん」


 彼女はそう言って微笑む。確かに、すべてが安定しているわけではなく、むしろこれからが苦労の本番かもしれない。


 僕は「そうだね。まずは自分たちのことを頑張ろう」と返事をする。彼女も「あはは、そうだね。部活もあるし、勉強もあるし、忙しいなー」とあっけらかんと笑う。


 交際を公表した後も、吹奏楽部での日々は大きくは変わらない。先輩たちが卒業して部員数は減ったが、新入生勧誘や次の大会への準備で気を抜けない。


 岸本さんは中堅パートリーダー的な立場になり、僕もクラリネットとしてレギュラー扱いに近づきつつある。二人が一緒に練習する機会は多いが、そのたびにクラスメイトや他の部員が「おお、カップル練習か?」と茶化すようになった。最初は照れくさかったが、慣れてくると「まあ、そうですね」なんて軽く受け流せるようになる。


 逆に、一緒にいるだけで集中が途切れそうな場面もあるが、そこは「お互い手を抜かない」と決めて練習している。音楽室で目が合うとドキッとするが、「今は部活に集中!」と心の中で律している。


 その一方で、クラスでも「大友と岸本が進路どうするのか気になる」という声が増えた。特に女子たちは「音楽系の道に進むのか?」とか「大友くんも同じ大学に行くの?」など、噂めいた話題が絶えない。僕らは「まだ何も決まってないよ」と答えるしかない。


 学年末の前に、進路希望アンケートの最終提出期限がやってきた。これはあくまで仮の書類だが、三年生になる前に学校側が各生徒の方向性を把握するために使うという。


 僕は悩みに悩み、最終的には「文系大学進学希望(学部未定)」と書いて提出することにした。本当はもっと明確な志望理由があればいいが、まだ何を学びたいか明確に決めきれず、“吹奏楽サークルを続けられるところ”という曖昧な条件しか思いつかない。


 一方、岸本さんはどうするのか――彼女は二通りの選択肢を想定しているらしい。


 「一つは普通の大学へ行って、その後に音楽を続ける。もう一つは音楽大学や専門学校を目指す。ただ、お金の問題もあるし、父が転職するタイミング次第……だから、いちおう“大学進学・音楽系含む”みたいな書き方をする」と言っていた。


 「でも、学校にそんな書き方で通用するかな……」


 「うん、担任がどう出るか分からないけど、全部書いてみるよ。まだ正式には決められないし……」


 彼女は迷いながらも、自分の道を模索している。僕はそんな彼女を見守り、できるだけ支えようと心に決めた。二人でいるときは幸せだけれど、将来は簡単じゃない。高校生活はあと一年ほどあるが、その一年が僕らの運命を大きく変えるかもしれない――そんな予感が頭を離れない。

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